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176、時雨さんの目的

「この案内って、誰に配ってるの?」


 私はレオナードくんから、披露宴会場のご案内、と書かれた紙を受け取った。


(披露宴の招待?)


 この世界での婚姻式は、同格以上の人しか招くことができない。つい最近、レオナードくんとマーガリンさんの婚姻式に行ったばかりだから、婚姻式が見栄の張り合いの場だということもわかっている。



「賢者ナイン様も困っておられた。セレム様は、二人の婚姻を祝う気持ちのある人にだけ渡すようにと、命じられたようだ。婚姻式ではなく、その後の宴だから、身分は気にしなくて良いらしいが」


「ふぅん。私は、そんな話は聞いてないよ。使用人同士は打ち合わせをしているみたいだけど」


(彼は、私には言わないのね)


 以前、彼は、私の価値観に合わせると言ってくれたから、いろいろなことを相談しながら決めてくれるのかと思っていた。でも、それは違うみたい。やはり、この世界は異世界なのよね。


 彼は私を、見た目どおりには扱わない。私の中身がアラサー……じゃなくてアラフォーだとわかっているから、きちんと大人として接してくれる。


 私は、彼とは対等な気になってたけど、これは私の傲慢さかな。当然だけど、この世界では身分差は絶対だ。そして彼は、王位継承権を持つ王族。


(反省しなきゃね……)



「えーっと、ミカンに話さないのは、たぶん、セレム様の何というか……」


 レオナードくんは、必死に理由を考えてくれてる。まだ12歳の彼に、私は何を言わせてるんだろ。


「レオナードくん、ごめん。今の私の言葉は不適切だったね。最近、ちょっと調子に乗ってるよね、私」


「へ? あ、いや、そんなことはないと思うぞ。セレム様はイチニーだったわけで、あっ、イチニーさんだったわけで、俺もまだ混乱する。セレム様は、ミカンにも素性を隠していたんだろう?」


「うん、イチニーさんに再会したときに、私は素性を知ったんだけどね。それまでは知らなかったよ」


「だよな。ほんと、まさかのイチニーだぜ。あっ、イチニーさん、か。はぁ、混乱する」


「彼がイチニーさんの姿のときは、平民扱いでいいんじゃない? 素性を隠して平民扱いされることが楽しいみたいだし。その姿どおりに接すればいいよ」


 レオナードくんは、ハッとした顔をしてる。


「そうだな! そうするぜ。他にも、別の姿があるだろ? どう接すればいいか、大混乱だぜ」


(レオナードくんには全部明かしたのかな)



 今のレオナードくんの言葉で、時雨さんが意味深な笑みを浮かべた。彼女は、りょうちゃんがセレム様だと気づいたかな。


「レオナードさん、セレム様の別の姿って、私も知っている人?」


「あぁ、知ってるんじゃないか? 確かに、そう言われたら納得したぜ。眼鏡を外せば、似てるからな」


(あっ、レグルス先生の方か)


 レオナードくんの返事に、時雨さんは一瞬キョトンとしていた。そして頭をトントンと叩いてる。


「眼鏡をかけている人なの? 私が思いついた人ではなかったわ。えー、誰だろう? マーガリンさん、わかる?」


 時雨さんは、マーガリンさんを上手く話に引き込んだ。


「ええっ? あの、私も知っている方でしょうか」


「マーは知らないだろ。ユフィラルフ魔導学院には、行ったことないよな?」


(マーって呼ぶんだ〜)


 私がニヤニヤしてしまったのか、レオナードくんは少し不機嫌になっちゃった。ふふっ、かわいい〜。


「ユフィラルフ魔導学院の人なの? 眼鏡をかけてる人って、かなり多いよね。誰だろう? すっごく気になる」


 時雨さんは予想が外れて、なんだか悔しそう。セレム様の別の姿は、りょうちゃんで合ってるんだけどね。


 レオナードくんがそれを知っているかは不明だけど、たぶん知っていても口止めされている気がする。


(話題を変えよう)




「レオナードくんは、披露宴に来てくれるよね? でも、なぜ、ユフィラルフ魔導学院の運動場なの?」


「あぁ、もちろん俺も行く。場所も知らなかったのか。このために夏期授業が休みになったみたいだぜ」


「へ? 私達の披露宴をするために学校の授業がなくなったの? 新しい海底ダンジョンのせいじゃないの?」


「まぁ、先生達が忙しいのもあるだろうけどな。入学希望者も多いから、入学試験も大変みたいだ」


「そう、ってか、なぜ運動場なのよ」


「知らねぇよ。ミカンが知らないなら、俺が知るわけねーだろ。王立学校だから、王族の自由にできるのかもな」


(だからって、披露宴会場が運動場?)


 モヤモヤするけど、レオナードくんに言っても仕方ないか。切り替えよう。




「レオナードくん、マーガリンさんのことをいつからマーって呼んでるの?」


「ふわぁ? お、おまえなー、いきなり何なんだよ?」


 すると、時雨さんも口を開く。


「私も、それ、すっごく気になるわ」


「はぁ? ったく、何なんだよ」


「レオナードさんとマーガリンさんの様子が、どんな感じなのかなぁって、やっぱり気になるじゃない?」


 時雨さんに追撃されて、レオナードくんは照れたみたい。プイッと不機嫌そうに視線を逸らす。ふふっ、かわいい〜。


 でも、マーガリンさんの表情は、暗く沈んでいく。



 時雨さんが、私に目配せをしてきた。私にも何か言えってことね。


(これが、時雨さんの目的か)


 時雨さんは、グリーンロード家がレオナードくんに使者を送ったかを確認しようとしてるんだ。護衛の人達を招き入れたのも、レオナードくんの意思を聞かせたいからかな。


 マーガリンさんからはレオナードくんに聞けないんだろうな。性格的にマーガリンさんは、控え目すぎるところがある。


(でも、まわりくどいわね)




「レオナードくん、セレム様の側近になったことで、グリーンロード家から何か言ってきた?」


「は? あぁ、まぁな」


 私がストレートに尋ねると、レオナードくんの表情から笑みが消えた。こんな顔をすると大人ね。チラッと、マーガリンさんにも視線を向けている。彼が彼女を気遣っているのだとわかる。


(ふふっ、やっぱりね)


「何を言ってきたの? ロード系貴族が言いそうなことは予想できるけど」


「あぁ、まぁ、想像通りじゃないかな」


「ふぅん、それでどうするの? マーガリンさんの立場は?」


「なっ!? おまえなー。はぁ、もう、マーにも伝わってるか。正直なところ、ちょっと困ってる」


 グリーンロード家からの申し出は、断りにくいのかな。こういう所が、レオナードくんの若すぎる点よね。


「そんなの、ウジウジしてないで断りなさいよ! レオナードくんは、マーガリンさんのことが好きでしょ?」



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