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175/196

175、時雨さんが呼び出したみたい

「なんて言ってたっけ?」


(やばい、やばい)


 咄嗟にごまかすような言い方をしたから、声が変になってしまった。時雨さんには見抜かれたよね。


 でも、りょうちゃんの素性は、きっと明かしてはいけないと思う。彼が唯一、ゆっくりと普通に過ごせる姿だもの。他の3つの姿は、どれも敵対する人達から命を狙われる。



「りょうちゃんに、なぜ化粧を落としたのかを尋ねたら、コソコソと隠れる必要がなくなったからだと言っていたわ。王族との婚姻式を控えたみかんちゃんと一緒にいるんだから、女装してなきゃマズイはずよね?」


(あっ、あー、そういうことか)


「タムエル族との契約が完了したからって言ってたっけ」


「ええ、それで、ちょっと試してみようとしたら、笑ってごまかされたんだけどね」


「ん? 時雨さんが何か試すようなことを言ったっけ?」


「メリルの脅威は去ったもんね、って言ってみた。タムエル族との契約は、メリルの王が報復に来たときのための布石でしょ? りょうちゃんは、メリルから狙われる地位なの?」


(あー、確かに……)


 時雨さんは賢いな。私は、全然気づいてなかった。りょうちゃんは、時雨さんに素性を明かすつもりなの? でも、さすがに私からは暴露できない。



「うーむ、どうなのかな」


「やはり、みかんちゃんは、りょうちゃんの素性を知っているのね。話せないってことか」


(す、鋭い……)


「うん、私からは言えないよ。ごめん」


「まぁ、そうだよね。たぶん、他の盾なんだろうとは思ってたよ。セレム・ハーツ様の5つの盾の一人かな」


 時雨さんは、私を試しているみたい。情報屋の悪い癖ね。私は表情に気をつけて、微笑んでおく。



 すると、マーガリンさんがハッとして口を開く。


「りょうさんの守護精霊の声は、そういえば……全く聞こえなかったわ」


(びっくりした〜)


 一瞬、りょうちゃんの近くにいた守護精霊が、彼の素性をバラしていたのかと思った。


 精霊主さまの霧が濃かったからかな。もしくは、ノキが隠していたか。どっちにしても、下手なことは言わない方がいい。



「へぇ、通訳者に隠すってことは、かなりのチカラの守護精霊ね。そんな守護精霊を従えているということは、魔術の盾かな? 確か、賢者ナイン様だよね? みかんちゃん」


(時雨さんは、当てる気だ)


「えっと、ナインさんって、あっ、いや、はい?」


 紅茶研究所の、あのナインさん? 賢者なの? 怖そうな人だけど、どちらかといえば魔術より剣術の方ができそう。


「あら? 外したかな」


 そう言って、時雨さんはクスッと笑った。どうやら、本気で当てるつもりはないみたい。ここに、みっちょんがいなくてよかったよ。


「時雨さん! 私で遊ばないでくれる? それに、盾の話には呪いが……」


「マーガリンさんなら、大丈夫だと思うよ。どこかの学校は卒業してるだろうし、その盾の一人の伴侶なんだから、もう既に紹介されてるかもしれない」


「いえ、紹介などは……。レオナードさんは学生ですし、それに私は……。あっ、盾の話ならもちろん知っています。剣術、魔術、武術、呪術、そして叡智の5つですね」


(それぞれの分野か)


 彼の側近には、優れた5人がいるということなのね。



「マーガリンさんは、さすがね。みかんちゃんは、初めて聞いたような顔をしているわ。早く歴史学の授業を受けなさいよ」


「歴史学を受けるには、魔法学が……」


「えっ? ミカン・ダークロードさんは、とても優秀だと聞いてますよ。あんなにすごい従魔がいるのに、なぜ魔法学をまだ取ってないのですか」


 マーガリンさんは悪気はなく、本当に驚いたみたい。そういう言葉の方がグサリと刺さるよね。


(でも、無理なんだもの)



「マーガリンさん、もっと言ってやって〜。みかんちゃんってば、魔法学は、物理だとか数学だとか言ってて、真面目に修得しようとしてるのよ」


「えーっ? それは不可能だと思いますわ。時代ごとの賢者様の理想論が混ざり合っていて、何というか、その……」


「ぐちゃぐちゃだよね? ひとつを極めないと理解なんてできないよ。あっ、マーガリンさん、みかんちゃんの呼び名は、ユーザー同士なら、みかんの方がいいみたいだよ」


「あっ、失礼しました、みかんさん」


「いえ、ご自由にどうぞ〜。はぁ、魔法学は、先生が悪いと思うよ。何を言ってるか半分もわからないもの」


「先生も理解してないのかも。あっ、ユフィラルフ魔道学院の魔法学の先生は、賢者ナイン様の弟子らしいから大丈夫かな」


(ナインさんの弟子?)


 その割には年配だと思う。まぁ、見た目は関係ないか。ナインさんも複数所持者だろうから、レグルス先生のお世話をしているのは、分身かもしれない。




 ポコンポコン!


 扉を叩く不思議な音がした。防音結界のせいね。


 時雨さんは、私達に合図をして、扉のスイッチを切った。そして、扉を開ける。


「シグレニお嬢様、待ち合わせだという方がいらっしゃいました」


「やっと来たわね。どうぞ〜」


 時雨さんが扉を大きく開くと、そこにはレオナードくんの姿があった。彼の護衛らしき人も数人いる。


「シグレニさん、精霊を使った念話が届いたんだけどさ……」


 レオナードくんは、個室にいた私達に気づいて、キョトンとしている。マーガリンさんは、ガチャッと持っていたカップを落とすほど驚いていた。


(さっきの魔道具ね)


 時雨さんは食事中に、タブレットのような魔道具を操作していた。あれは、異世界人の魔道具よね。たぶん、どこからか入手したみたい。


 精霊を使った念話だとレオナードくんは言ったけど、時雨さんには、そんな強力な守護精霊はいないもの。



「ええ、護衛の方々もどうぞ」


「いや、護衛は扉の前で……」


「扉の前に立つと、この部屋にいる人が誰かがバレちゃうでしょ? どうぞ入ってください。ミカンさんの奢りだからと、料理を注文しすぎてしまったのよ」


(はい?)


 時雨さんは、私に目配せして、そんなことを言った。護衛の人にも聞かせたい話があるのかも。



「レオナードくん、よかったら食べて。護衛の方々も」


「ミカン、おまえなー。あ、ミカン様……」


「うげっ、レオナードくんに様呼びされたら不気味だよ。いつも通りでいいよ。私とは、ただの学友じゃない」


「はぁ、おまえは変わらないな。それで、これか? 意味不明なんだけど」


 レオナードくんは、一枚の紙を私に見せた。


「えっと、披露宴会場のご案内?」


「あぁ、セレム様の側近の賢者ナイン様から渡された。ナイン様も、困っておられたぞ」


(何? 知らないよ)



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