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174、マーガリンさんのこと

「マーガリンさんが相応しくないって、誰が言ったの!? まさかレオナードくんじゃないよね?」


 私が強い口調で尋ねたせいで、マーガリンさんはビクッと怯えて、口を閉ざしてしまった。


(失敗したわ)


「みかんちゃん、トリッツ家からは、そんなことをグリーンロード家に言えないわよ。それにレオナードくん自身の性格は、みかんちゃんの方がよく知ってるでしょ」


「あっ、そっか。身分差があるよね。それに、レオナードくんは絶対にそんなことを考えない」


「婚姻の申し入れも、グリーンロード家からしかできないはずよ。だから相応しくないと言い出すのも、グリーンロード家側だわ」


 時雨さんは、ほんと賢いよね。私も、一応わかっているつもりでいたけど、感覚がまだこの世界の常識とはズレているみたい。



「私が、トリッツ家の方と婚約することになったのは、父の判断なんです。通訳者という能力は、グリーンロード家では理解されていません。アンデッドのうめき声までが言葉として聞こえてしまう私は、シャーマン家しか受け入れられないだろうと……」


「それなのに、レオナードさんがセレム・ハーツ様の側近に選ばれたことで、グリーンロード家当主は別のお嬢様との婚姻を望んだのね!? 社交的でグリーンロード家らしいお嬢様を」


 時雨さんがそう言うと、マーガリンさんは無言で頷いた。また泣き出してしまいそう。


 私はグリーンロード家当主の判断に怒りを感じたけど、口を開かないように我慢した。またマーガリンさんを怯えさせるといけないもの。



「じゃあ、婚姻式はなかったことになるのかしら? そんな噂は聞こえてこないけど?」


「先日、父の使者がトリッツ家に行ったようです。トリッツ家当主は、レオナードさん本人に聞いてくれと言ったそうです。トリッツ家当主は、レオナードさんがセレム・ハーツ様の側近に選ばれたことで、彼に指示する立場ではないと……」


(面倒くさい世界ね)


 あっ、でもこれって、逆に良いことよね。レオナードくんの判断に委ねるなら、当人同士で決めるということだもの。


「それなら問題はないと思うわ。レオナードさんは婚姻式以降、いろいろな縁組の話を全部断っていると聞くわ。それに精霊ノキ様の祝福は、レオナードさんとマーガリンさんへのものでしょう?」


(ノキの祝福?)


 そういえば、あの時、私は適当なことを言って、ノキに光の花びらを降らせてもらったっけ。マナの光だから、体力や魔力は多少回復したかもしれないけど、それ以上の意味はないと思う。



「はい、精霊ノキ様の祝福は、グリーンロード家の人達の方は、すぐに消えてしまったようです。ミカン・ダークロードさんが、私達を応援する気持ちがある人にしか、精霊ノキ様の祝福は受けられないとおっしゃっていた通りです」


「マーガリンさん、ノキの祝福の効果は持続しないよ?」


(あっ、口を挟んでしまった)


「いえ、当家に出入りする商人の中には、精霊ノキ様の祝福により、随分と元気になった人もいます。毎朝、祝福の花びらが現れて、体力と魔力が全回復する人もいるようです」


「それって、始まりの精霊?」


「ええ、そうだと思います。ゲームユーザーだった転生者だけの特典だと思っていましたが、現地人でも祝福として受けることができるのですね。だから、それもあって……」


 また、マーガリンさんの表情は暗く沈んでしまった。


(うーん、難しいな)



「もしかして、レオナードさんが再び別の誰かと婚姻式をすれば、みかんちゃんがまた精霊ノキ様の祝福を与えると思っているのかしら。グリーンロード家の印象がガラッと変わってしまうわ」


 時雨さんは、私以上に怒ってる。貴族なんて、所詮はそんなものだよ。グリーンロード家は、目立った内部の争いがないだけだと思う。




「マーガリンさんは、レオナードくんのことをどう思ってるの?」


 私がそう尋ねると、マーガリンさんはパッと顔をあげた。


「レオナードさんは、口調は少し厳しいけど、とても優しい人だと感じています。こんな私に、こんな気遣いまでしてくれて……」


 マーガリンさんは、レオナードくんからもらった黒い腕輪をキュッと掴んでいる。


 腕輪によって、死霊系の声を封じているか、もしくは近寄らせないようにしているみたい。レオナードくんは、通訳者という能力を正確に理解してるのね。


「マーガリンさん、そんな気遣いをしてくれる人が、地位を得たからといって貴女を捨てるかしら?」


「えっ!? で、でも、私は役立たずだから……」


「レオナードくんは、だいぶ前から、婚約者を見せてあげると私に言ってたよ。それに術を込めた贈り物って、相手のことを想ってないとできないと思う。くっつき貝も、同じでしょ? だから恋人同士で持つことが流行っているんだよ」


「くっつき貝?」


(あー、知らないか)


 すると、時雨さんが口を開く。


「くっつき貝は、ハート貝のことだよ。通信用に利用してるでしょ? 王都では、恋人同士で持つことが流行ってるよ。くっつき貝は、想いがなくても消えないけど、その腕輪に施されたシャーマンの術は、常に術者が術を維持しなきゃいけない。通訳者は受信能力が高いから、声が聞こえないようにするのは、結構大変だと思うよ」


「私なんかのために、レオナードさんが……」


 マーガリンさんは、またポロポロと涙を流していた。でも、この涙は、さっきまでの涙とは意味が違うわね。


(もう一息かしら?)



「マーガリンさんは、もっと自信を持つべきだと思うよ。レオナードくんが仕えるセレム様には、他の星からの訪問者もあると思う。稀少な通訳者の奥さんって、すごく貴重だと思うよ」


 私がそう言うと、マーガリンさんはパッと顔をあげた。涙でぐしゃぐしゃだけど、輝く笑顔ね。


「私が、お役に立つのですね」


「思いっきり役に立つよ。セレム様には守護精霊はいるけど、守護精霊経由だと話がなかなか進まないもの」


(あ、これを頼まれたのか)


 ユーザー本部で、りょうちゃんが目配せをしていたのは、これだったのね。彼女を送り届けるようにと頼まれたのかと思った。


(もう、マーガリンさんは大丈夫かな)




「みかんちゃん、話は変わるんだけど」


「ん? 何?」


「りょうちゃんって何者なの?」


(ひぇっ!)


「時雨さんもみっちょんも知ってるよね?」


「ええ、複数所持者よね? さっき、なぜ化粧を落としたのかを尋ねたとき、返ってきた返事が予想と違ったから、引っかかってたの」


(ひゃっ……)



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