171、タムエル族の悪だくみ?
『ええっ!? ミカノカミにそのような……』
『別に構わぬ。我は、この星を気に入った。称号を授けるのは、この星の神か?』
『ミカノカミ! それはいけません! こんな下等な星から何かを授かるなど、まるで負けを認めるような……』
『フェブナル、勝ち負けで言えば、我は勝ったぞ。のわっ? 何だ? ふむ、この個体に寄生している植物は、精霊の手足か』
透明なえのき茸が、ふわもこちゃんの身体をぐるぐる巻きにして持ち上げた。私の腕の中から蹴り飛ばされた精霊ノキが、ミカノカミに仕返しというか意地悪をしてるみたい。
そしてノキは、私の腕の中に滑り込んできた。
(何をやってんの?)
ノキはムキになって、私の腕の中を死守してる。そんなノキに、ふわもこちゃんは余裕の笑みを向けていた。
『この不思議な手足は、切ると痛むのか?』
ふわもこちゃんは、私にそう尋ねてきた。私の左腕から伸びているからだよね。
「それは、スポンジの木の新芽です。あっ、私以外の人間には見えないかな。切っても、私もノキも痛みは感じませんよ」
『ぐるぐると巻きついているが、これで締めているつもりなのか? 若干の窮屈さはあるが、こんなことでは何のダメージも受けないが』
「その新芽は、拘束力はありますが、キツく巻き付くことはできないです。私に巻き付くときは、防御のためですね。物理的な衝撃は完全に吸収するので」
『へぇ、面白いな。ふむ、我に嫉妬をしたらしい。精霊とは、なんと純粋無垢な存在なのだ』
ノキは、私の腕の中にも透明なえのき茸も広げてる。ふわもこちゃんが入って来られないようにしているみたい。
(ナワバリ意識か)
「これまでに、ノキがこんな反応を見せたのは初めてだけど、嫉妬なのかな?」
『ここはアタシの場所だ!』
(やっぱ、ナワバリ意識だね)
ノキは、透明なえのき茸でぐるぐる巻き状態で浮かぶミカノカミを、威嚇してるみたい。でも、ミカノカミの方が圧倒的に上位なのね。ノキの反応を楽しんでるように見える。
『ん? あぁ、確かに楽しいな。そうか、この星には精霊が無数にいる。これは楽しい。神々には、まともな奴はいないからな。あぁ、そうか。精霊が多いということは、ここは原始の星だな。なるほど、これは面白い』
ふわもこちゃんは、ノキにぐるぐる巻きに捕獲されているのに、全く動じる様子はない。さすが神様ね。
ノキは、放すタイミングがわからないらしく、透明なえのき茸がゆらゆらしている。
「ミカンさん、今はどういう状態だ?」
ギルドマスターが何かを気にしながら話しかけてきた。
「えっと、ノキがミカノカミに遊んでもらってる感じですね。ミカノカミの姿は、また見えなくなってますか」
「あぁ、見えないし、言語もわからなくなった。さっき、りょうが話した件だが、称号を授けるのはいいとして、各ユーザーにカードを付与する場所が必要になる。ゲームに興味を持ったタムエル族に、この世界に来てもらわないとな」
(ゲームアバター代わりの分身の件か)
「こちらからタムエル族のいる星に伺って交付する方が、早くないですか?」
「いや、それは無理だ。カードはこの世界のマナから構成されている。カードのマナによる分身は、精霊主さまのチカラとの共鳴が必要だから、この世界でしか作り出せない」
魔法学が苦手な私には、その構造は全くわからないけど、無理だということはわかった。
「じゃあ、どうするのですか」
「ちょうどいい場所がある。メリルの奴隷のクローン工場だった場所は、外の世界との門らしき空間の歪みがあるんだ。ちょうど今、潮が満ちていて、あの場所への出入りがしやすい」
ギルドマスターは、それでソワソワしていたのね。
『フェブナル、おまえは星に戻り、魔力の高い使者を集めろ。我が、この星に拠点を築き、軸をたてる』
『ミカノカミは、戻らないのですか』
『む? 我はどこにいてもフィールド星雲内なら、瞬時に移動できる。メリルがこの星を狙った理由もわかっただろう? メリルとは別の利用価値の方が高い。この弱き星は、弱いからこそ強いのだ』
『確かに、弱すぎる下等な星への侵略は、あまりにも恥ずべき行為ですね。他の星雲の神々は、絶対に侵略しようとはしません。ゲームという遊びを利用して拠点を築けば、これほど堅固な基地はありませんね』
(何の悪だくみ?)
機械人形の声だけは、皆に聞こえているみたい。リゲル・ザッハの表情が険しくなった。新たな海底ダンジョンを、タムエル族が基地化するように聞こえたのかも。
りょうちゃんには、赤い光が、ふわもこちゃんの言葉を伝えているようだ。彼は、リゲルさんに何か話してる。
『では、これにて』
機械人形がそう言うと、ふわもこちゃんが、透明なえのき茸をパッと散らした。簡単に脱出しちゃったね。
そして、空中に妙な歪みを作り出した。機械人形は、その歪みの奥へと消えていった。
「えーっと、じゃあ、ミカノカミを案内すれば良いのか」
ギルドマスターがそう言うと、リゲル・ザッハが口を開く。
「新たな海底ダンジョンに、タムエル族の拠点を作る気なら、俺が付き添う。ベルメの海に、妙な魔物が溢れては困るからな」
『付き添いなど不要だが……』
私の腕の中のノキの上に、ふわもこちゃんが乗った。そのおかげで、今の呟きは、皆に聞こえたみたい。
(あっ、ノキ?)
ノキは、私の腕の中から出ると、5歳くらいの少女の姿に変わった。そして、ドヤ顔をしてる。
ふわもこちゃんは、姿を変えられないみたい。腕の中からノキを見下ろし、なんだか悔しそう。
「アタシも付き添いをしてやるぞ! おまえでは、ふわもこを抑えられないだろう?」
(ノキにも抑えられないでしょ)
だけど、リゲル・ザッハは、少しホッとした表情を見せた。そして、りょうちゃんに視線を向けている。たぶんカードの交付って、神託者にしかできないよね? あっ、リゲルさんも神託者だっけ?
「そうですね。精霊ノキ様が同行してくださると心強い。タムエル族のいる星は近いので、急がないと使者が来てしまいますね」
「では、急ごう。通訳者は……」
ギルドマスターがそう言いかけると、マーガリンさんは怯えた表情をした。
「私の守護精霊を呼んだので、言語は大丈夫ですよ。海底ダンジョンは、マーガリンさんには酷でしょう」
りょうちゃんはそう言うと、私に目配せをしてきた。マーガリンさんを送っていけってことかしら?
「この部屋を閉じるぞ。皆、退出してくれ」




