168、新たな契約
『ふむ。流れはわかった。タムエル族にとっても利のあることだ、フェブナル』
ふわもこちゃんは、私の腕の中で情報収集をしたみたい。この付近を統べる神様らしいけど、この子が一緒だったことは、タムエル族の使者も気づいてなかったのよね?
(すごい神様なのね)
私がそう考えていると、ふわもこちゃんは、ちょっとノキみたいな顔をした。ノキがよくやるドヤ顔だ。
(ふふっ、やっぱかわいい〜)
でも、ノキは精霊で、ふわもこちゃんはミカノカミというタムエル族の神様だから、ノキに似てるなんて考えるのは、ちょっと失礼かしら。
『ですが、ミカノカミ……』
『フェブナル、何が不満なのだ?』
『下等なここの住人が作ったゲームというモノは、タムエル族にとって意味があるとは思えません』
(あれ? 使者なんだよね?)
タムエル族の使者である機械人形がこんなことを言うから、ギルドマスターは慌てているみたい。でも、りょうちゃんは平然としてる。
さっきの話だと、りょうちゃんが提案者だっけ。ゲネト先生が開発した『フィールド&ハーツ』をりょうちゃんが別の星に紹介したのかな。
おそらく、この件は、かなり前から交渉していたのだろう。
メリルに滅ぼされる未来が見えたとき、人工的な海底ダンジョンができることもわかったのかもしれない。メリルの奴隷のクローン工場は潰したらしいから、それは未来予知の成果なのかな。
そういえば、彼は、これからの未来に強い不安を抱いていたっけ。未来が見えることは、厄災から世界を守るには役に立つけど……予知した未来は、頻繁に変わるものなんだよね?
「以前、来られたタムエル族の方々には、別の世界で配信しているゲームの体験をしてもらいました。興味を持っていただけたから、フェブナルさんが使者として契約に来られたのではないのですか」
黙り込んでいるギルドマスターに目配せをした後、りょうちゃんが少し強い口調で、機械人形に話しかけた。
『興味を持ったのは、ゲームユーザーになれば、死後、知識を維持したまま、この星に転生することができるという点のみだ。我々は、身体を錬金術で維持できなくなると、死に直結する。だからこそ、生身の人の身体が欲しい。しかし、こんな下等な星ではな……』
(えっ? 幽霊なの?)
ふわもこちゃんが、口を開く。
『我の姿は、既に見えておるな? タムエル族は、我と似た獣の姿をしておる。だが、我とは違って、その身体にマナを蓄えることが難しい。それで強固な器を、錬金術で作り出したのだ』
「えっ? フェブナルさんも、ふわもこなの!?」
私が思わずそう叫ぶと、機械人形は警戒したのか、強い邪気を纏った。だけど、すぐにオーラが消えた。たぶん、ふわもこちゃんが何かしたのね。
『フェブナル、器から出ろ』
『嫌です! 瞬殺されるじゃないですか』
『我は何もせぬ。獣の姿のおまえ達が弱いことは、フィールド星雲の誰もが知ることだ。ここの住人を罵っていたから、報復を恐れているのだな?』
『い、いや……嫌です!! 弱き獣に価値はない』
(あー、なんか、わかったかも)
ミカノカミというふわもこちゃんは、タムエル族のこのマイナス思考を変えたいのね。
私がそう考えていると、腕の中でモゾモゾしてる。ノキが、何かがバレたときに誤魔化そうとする動きに似てるかも。
「フェブナルさん、本当の姿を見てみたいわ。ミカノカミに似ているなら、すごくかわいいじゃない」
『は? かわいい? そんな弱く下賤な印象を持たれたら、終わりではないか』
「何を言ってるの? かわいいは正義なんだよ!? 私の守護精霊のノキも、最強にかわいいもの」
『二文字の名前の精霊……が……かわいい、だと? かわいいが正義?』
「そうだよ。私がミカノカミを抱っこしたいなと思ったのも、ふわもこで魅惑的だからだよ」
『魅惑的……それは、洗脳系の呪術のことを言っているのか!? そんなマナの消費の激しい術は、仲間がいないと……』
「術じゃないよ。だからマナも消費しない。存在自体が魅惑的なの。ふわもこな獣は、かわいさで魅了することができるから最強よね」
『さ、最強……弱き獣の姿でも、最強なのか?』
「見せてくれないから、フェブナルさんが最強にかわいいかは、わかんないよ」
(あっ、割れた)
機械人形は、頭から真っ二つに割れた。中から出てきたのは、中型犬くらいの大きさのうさぎみたいな獣。
「おわっ! デカいウサギじゃん」
みっちょんが一番に反応した。
「不思議な種族ね。毛並みがキラキラしているのは、身体からマナが出ているのかな。魔導ローブを付けてみる?」
時雨さんが、小さな魔導ローブを取り出して、フェブナルさんの前に置いた。フェブナルさんが警戒しているから、近寄らないようにしてるみたい。
フェブナルさんは、私を真っ直ぐに見ている。いや、私の腕の中にいるミカノカミを見ているのかな。
「ミカノカミよりも大きいんだね。でも、目がまんまるでかわいい。服を着れば、また印象が変わるかも」
私がそう言うと、フェブナルさんは魔導ローブを羽織った。モノを自由に操れるみたい。
「おとぎ話に出てくるウサギみたいだな」
(確かに……ん?)
なんだか、フェブナルさんがワナワナしてる? もっとかわいいって言うべきなのかな?
『この服は、何の金属で出来ている?』
フェブナルさんは、時雨さんに尋ねた。
「金属じゃなくて、植物と魔物のウロコだと思うけど、詳しくはわからないわ。新しく出来た海底ダンジョンのドロップ品らしいけど」
『海底ダンジョン? ゲームで行く場所だな?』
「ええ、今も『フィールド&ハーツ』のアバターが、たくさん行って……」
『ミカノカミ! 確かにタムエル族にとって、大きな利があることでした! この星には、貴重なパワースーツがある!』
(パワースーツ? 魔導ローブだよ)
「フェブナルさん、契約をお願いしても……」
『当然だ! 今すぐ契約を交わそう。自分の目で見極める必要があると考えて来たが、アイツらがバカ騒ぎしていた理由がわかったぞ。もちろん、メリルも排除してやる』
ギルドマスターは、やっと説得できてホッとした表情をしている。
すると、りょうちゃんが口を開く。
「以前にお願いしていた件は、もう片付きました。メリルの王が再び来たときに、タムエル族がいてくれるだけで大丈夫です」
『被害が出ているのだろう? おまえ達ではメリルの魔物を抑えられないのだろう?』
「いえ、彼女の従魔が、すべて解決しましたよ」
(ん? カメキチ?)




