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166、緊急ミーティングの理由は

「やっと来たか」


 隠し通路の先にある本当のユーザー本部は、薄紫色の霧で満ちていた。この霧は、精霊主さまの一部なんだっけ。


 以前に来たときよりも濃い霧の影響で、室内の照明が幻想的に揺らいで見える。精霊主さまが強い力を使っているということなのかな。



「ギルドマスター、遅くなってしまいましたか? 指定時刻より前だと思いますが」


 時雨さんは涼しい顔で、そう返している。濃い霧のせいで、ギルドマスターの表情はハッキリとは見えない。室内には、彼しか居ないようだ。幹部ミーティングっていうからには、何人か集まるはずよね?


「シグレニさんが早く来てくれないと、俺が辛いじゃねぇか。ミカンさん、久しぶりだな」


「お久しぶりですね、ギルドマスター。まだ誰も来られてないんですか」


「いや、そこに一人いるだろう? 通訳だ。人見知りが激しいから、気配を消しているようだが」


(通訳?)


 ギルドマスターが指差した先には、革張りのソファがある。私が視線を向けると、背の高い人がパッと立ち上がった。



「あっ! マーガリンさん?」


 私がそう声をかけると、背の高い女性は警戒したのか、怯えた表情を見せた。


(間違いない、レオナードくんの奥さんだ)


「なんだ、ミカンさんは知り合いだったのか。彼女は、マーガリン・グリーンロードさん、多言語理解の特殊能力者だ。俺には全く心を開いてくれなくてな……」


(なるほどね)


 私は、マーガリンさんに近寄っていく。だけど、怯えがひどい。


「マーガリンさん、お忘れかしら? レオナードくんの学友のミカン・ダークロードです」


 そう伝えると、マーガリンさんの表情から怯えが消えた。


「ミカンさん? ブーケをくれた……」


「ええ、そうですよ。ユーザー名は、みかん、だったんですけどね」


「はわわわ、ごめんなさい! この霧で、お顔がよく見えなくて」


「大丈夫ですよ。今日は室内の霧が濃いですもんね」


「はい。未知のモノに囲まれていると落ち着かなくて……」


(未知のもの?)



 革張りのソファ席に、小さなふわもこが座っているのが見えた。薄紫色の霧が反射しているのか、キラキラと輝く毛並みが美しい。


「わぁっ! かわいい! この子は、マーガリンさんの従魔ですか? 触ってもいい?」


「えっ? 何のことを……」


 私は、マーガリンさんの許可が待てずに、ふわもこな何かをそっと撫でた。サラサラな毛で覆われていて、見たことのない不思議な動物。ノキよりもかなり小さくて、丸まっている超小型ウサギという感じ。


 私が触っても逃げることはなく、逆にジッと私を見ている。黒い目もまんまるなのね。


「かわいい〜! 何という種類なのかな。抱っこしたいな」


 そう言うと、小さなふわもこがピョンと跳躍して、私の腕に飛び込んできた。


(きゃー、かわいい!)


 そーっと抱きしめてみる。ノキとは違って、あまり弾力はないな。毛並みがキラキラしていて、気品さえ感じる動物だ。



「みかんさん、何を言ってるの? えっと、どうしよう」


 マーガリンさんがキョロキョロしてる。彼女が目を止めた先には、金属の人形のような何かがあった。


 その人形がこちらに歩いてくる。


 するとギルドマスターが慌てて、その人形と私達の間に入った。


「それ以上は、近寄らないでくれ。もうすぐ……あっ、来たか。遅いぞ! おまえ達」



 扉が開くと、リゲル・ザッハとみっちょんが姿を現した。あっ、女装したりょうちゃんもいる。


(あれ?)


 そういえば、ここに初めて来たとき、みっちょんは女装したりょうちゃんに会ってるよね? だけど、みっちょんは草原で会っても、りょうちゃんが女装してると気付かない。まぁ、みっちょんは忘れっぽいんだけど。



「精霊主さまの霧が濃いと聞いたので、支度に時間がかかったんだよ。時雨さんの方が早いとは意外だったなぁ」


(私のことは?)


 りょうちゃんは、まるで私が見えてないかのように無視してる。確かに、公私混同は良くないけどさ。なんか、ちょっと傷つく。




「これで揃ったな。まずは、紹介からしようか」


 ギルドマスターはそう言うと、近づくなと言っていた人形を指差した。


「こちらは、タムエル族の使者フェブナルさんだ。今、タムエル族の一部に、『フィールド&ハーツ』の配信を考えているんだ」


(へ? タムエル族?)


 メリル星を滅ぼしたのが、タムエル族の錬金術なんだよね? 未来を見る力のある誰かが、メリル星から来た異世界人の脅威から逃れるために、タムエル族に接触したのか。



『ゲームユーザーの皆さん、初めまして。フェブナルです。こちらの世界でいえば、1年前になるのでしょうか。メリルの王を追放したのは』


(そんなこと、知ってるの!?)


 念話のような機械音のような声だ。金属の人形に見える不思議な種族ね。アンドロイドというより、ロボットっぽい感じ。


「あぁ、もう1年になる。だが、メリルの奴らは、海底にとんでもない仕掛けを残しやがったがな」


 リゲル・ザッハは、かなり怒ってるみたい。ザッハの孤島が、かなりの被害を受けたからだよね。


『人工的な、しかも極めて雑な造形物ですね。ただ、この世界の住人の身体は、非常にもろい。私達の技術で一掃することは簡単ですが、その付近の人間も同時に一掃してしまいます。残したい人間をこの街あたりに避難させてからなら、実行可能でしょう』


(何? 話が違う?)


 乙女ゲームの配信をするんじゃなくて、メリルが造り出した海底ダンジョンの破壊を依頼したってこと?


 私が混乱していると、女装したりょうちゃんが口を開く。



「海底ダンジョンは、今はこの世界の一部になっています。だから、ゲームという形を提案したのですよ」


『アナタ達の目的は、メリルの完全排除でしょう? 私達なら、そんな面倒なことをしなくても、1日で可能ですよ。タムエル族は、このフィールド星雲の覇者であり叡智です。私達に任せれば容易いことです』


(フィールド星雲って何?)


「私達の目的は、共存です。タムエル族の協力は非常にありがたい。ですが、タムエル族の技術による海底ダンジョン破壊は、この世界自体を壊してしまいます」


『ふむ、やはり、おまえ達のような下等な種族には……』


 機械人形の表情が変わった。室内の霧がさらに濃くなる。


(まさか……ノキ! 大変だよ!)


 私がノキを呼び出そうとしたとき、腕の中の温もりが消えた。



『鎮まりなさい! フェブナル』


(ええっ?)


 私の腕の中にいた小さなふわもこが、突然ワープし、機械人形に雷撃のようなものを落としちゃった。



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