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165、最悪な置き土産

「5つの輝く盾……」


 時雨さんの言葉を復唱してみても、私には理解できなかった。彼女の話は、当然わかったんだけど……。


(なぜ彼は、何も言ってくれないの?)



 そういえば、レオナードくんの婚姻式に行く日、彼は彼の使用人達に、必要とする者を取りに行く、と言っていた。


 変な表現だし、あのときはそれが何のことを言っているのか全くわからなかった。だけど、彼の使用人達は、彼の言葉を聞いて、少し驚いた様子で、でもすごく嬉しそうに頭を下げていたっけ。


 あれって、最後の盾を取りに行くという意味だったのか。つまり王位継承権を持つ彼が、この世界の王となる条件を揃える覚悟をした、ということなのかな。


(なぜ、私には……)



 あの時、言葉に出せない制約があるように感じた。だから、私も何も尋ねなかった。意味を尋ねていたら、彼は私に説明してくれたのだろうか。


 私のことを対等な存在だと言ってくれた彼の言葉が、なんだか嘘のように思えてくる。そして、私をこの世界に呼び寄せた理由も、私に惹かれたからだと言ってくれたけど、その大切な言葉にも疑いを抱いてしまう。


 これまでの彼の行動は、彼の野望を実現するために、綿密に計画されたことのように思えてくる。


 私は、彼の野望のための手駒なのかな。


 私を呼び寄せたことで、メリルの脅威は大幅に減ったはずだし、紅茶病も改善された。二文字の精霊ノキの誕生は、きっと転生者にしか成し得なかったことだろう。


 レオナードくんと私が親しくなったキッカケも、イチニーさんが絡んできたためだ。彼が、レオナードくんを最後の盾として育てるために護衛をしていたのも、未来を見るチカラがあるからで……。


 騙されたとまでは思わないけど、私はずっと利用されてきたのかもしれない。


 彼は、フレンドの頃から私の好みを知っていた。だから、レグルス先生として接触してきたときに、私が好きなメガネ男子の姿で、私の恋心を利用して、今まで……。




「……みかんちゃん? 大丈夫? みかんちゃん」


 時雨さんに肩を揺らされて、ハッと我に返った。


(あれ? 私……)


「あ、ごめん。なんだか変な感情が湧いてきてた」


「えっ!? ちょっと魔道具を使うよ」


 時雨さんはそう言うと、ペンのようなものを私の右肩に刺した。


 ビビビビッ!


「何? なんか刺した?」


「これは、新たに発見された海底ダンジョンでのドロップ品らしいよ。メリルの術に反応するんだって」


 時雨さんは、私の肩からスッと引き抜くと、何かの操作を始めた。さっきの音は、反応音だったのかな。



「お待たせしましたね。ん? 何かあった?」


 たくさんの紅茶を買った空の星さんが、ホクホク顔で戻ってきた。時雨さんは彼に、私に刺したペンみたいなものを見せている。


「みかんちゃんの様子がおかしくなったから、使ってみたよ。5つの盾の話がキッカケになった。この後のやり方がわからないんだけど」


「時雨さん、王の条件の話をこんなところでしてはいけない。異世界人によって数種類の呪術がかけられていることが、明らかになったでしょ」


 空の星さんは、時雨さんから渡されたペンのようなものに、淡い光を注いでいる。すると、私の中に生まれていた疑心暗鬼の霧が晴れていくような気がした。


(私、術にかかってたの?)


「みかんちゃんなら、精霊ノキ様の加護があるから、大丈夫だと思ったんだよ。だけど、急に暗い表情をして反応しなくなったから焦った」


「どんな加護があっても影響は避けられないよ。ザッハの孤島では大きな被害も出た。この世界のマナに、いくつかの言葉を発動条件にした呪術が組み込まれているなんてな」


(ちょ、何?)



「空の星さん、また、メリル星から来た異世界人? あっ、メリルの王とか言ってた人が報復に来たの?」


「みかんさん、メリルの王は戻ってない。だけど、もっと厄介なことが明らかになったんだ」


 空の星さんは、周りを少し気にしながら、そう話した。


「な、何?」


「ブライトロード領海の人工海底ダンジョンだよ。1年前に発見された。ベルメの奴隷のクローン工場と魔物の製造工場として、造られたようだ」


「人工的な海底ダンジョン?」


「あぁ、ザッハの孤島付近まで、その海底ダンジョンが広がっている。だから、ベルメの海にも異変が起こってるんだ。夏が来ない。地熱を奪って動力にしていることで、気候が変わってしまったんだ」


「あっ、そういえば、去年の夏、ベルメの海岸が妙に涼しいと思った。あの辺って海底火山があるから暑いよね」


「その地熱を利用した人工的な海底ダンジョンだ。今も大量に魔物が生まれている。奴隷のクローン工場は潰したみたいだけど、魔物工場となっている海底ダンジョンは……」


「ダンジョンが勝手に育って広がっているのね」

 

 私がそう尋ねると、空の星さんは暗い表情で頷いた。


(最悪な置き土産ね……)


 ベルメの海岸ってことは、みっちょんの村も被害に遭ってるのか。大量の魔物が生み出されるってことは……。


(夏期休講の理由は、これかしら)



 メリル星から来た異世界人によって、この世界の現地人は滅ぼされる。そういう未来が見えたから、『フィールド&ハーツ』が開発されたんだっけ。


 人工的な海底ダンジョンまで造るなんて、本当に滅ぼされかねない事態だ。それに、現地人の新たな王が誕生しないように、言葉にも呪術を仕込んでいるなんて、どんな能力なのよ。


 精霊ノキがいるのに、私はあんなに急激に疑心暗鬼になった。これが、メリル星のチカラ……。


(こんなの、勝てるわけない)



「緊急ミーティングは、この件かもしれないね。私達が、この世界に招かれた理由は、この世界の救済だもんね」


 時雨さんが、明るい声でそう言った。


「あぁ、そうだな。自分達が行けない場所でも、ゲームアバターなら送り込める。これは圧倒的な戦力になる。じゃあ、そろそろ行きますか」


 空の星さんはそう言うと、転移魔法を唱えた。




 ◇◇◇



「あれ? こっち?」


 私達が到着した場所は、グリーンロードの冒険者ギルド横にある宿屋だった。冒険者ギルドの会議室を使うと思ってたけど。


「そうみたい。空の星さんは、2階に待機部屋があるんだって。たぶん、仕分け作業をさせられると思うよ」


「あぁ、わかってる。だが、これで助かるからな」


 空の星さんは、さっきのペンのようなものをクルクルと回しながら、2階への階段を駆け上がっていく。


 私は時雨さんと、宿屋のカウンター奥にある、本当のユーザー本部へと歩いていった。



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