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159、レオナードくんの婚姻式へ

 彼の転移魔法で、私達は、グリーンロード領にある大きな城のような建物前に移動した。荘厳で美しい屋敷だ。


 その屋敷の門は大きく開かれているが、建物の前にはテントのようなものが見える。レオナードくんの婚姻式の受付かな。


 もう時間ギリギリなのに、人の姿はほとんど見えない。あっ、今、テントを素通りして、立派な身なりの人達がゾロゾロと建物に入って行くのが見えた。



「あぁ、やはりね」


 彼はそう言うと、身体の向きを変えた。私と向かい合わせになっていて、シーッと人差し指を口に当てている。


「そんなことをしなくても、アタシのそばにいるんだから、認識阻害はできているぞ」


「あぁ、そうでしたね。精霊ノキ様。ですが、あちらの声を聞きたいので……」


(あちらの声?)


「あの行列は、グリーンロード家側の主賓しゅひんらしい。王族のトラゲイト6世だと聞こえたぞ」


「トラゲイト6世が主賓か。グリーンロード家の分家のお嬢さんの婚姻式に出てくるとはね」


(見栄の張り合いだっけ)


「レオナードくん側の主賓も、王族の方なのかな?」


 私がそう尋ねると、彼はクスッと笑った。りょうちゃんみたいな笑い方ね。あっ、同一人物なんだけど。


「私達の受付は、あのテントらしいから、行って聞いてみたらいいよ。私は、精霊ノキ様の護衛ということで、受付が済むまでは変装するね」


 彼はそう言うと、また眼鏡をかけた。




 私の後ろから、大人の男性の姿をしたノキと、眼鏡をかけたセレム様が歩いてくる。


 テントに近づいていくと、私に気づいた、ひょろっと背の高い男性が飛び出してきた。レオナードくんといつも一緒にいたボルトルさんね。


「あぁ、ミカンさん! よく来てくださいました。一瞬、誰だかわからなかったですよ」


「ボルトルさん、ちょっと遅くなったかしら?」


 建物の中から、声が聞こえてくる。拡声器のような魔法を使っているのかな。かなり大勢の歓声のような声が聞こえた。


「いえ、大丈夫です。ミカンさんは主賓ですから、他の客人とは、ご案内時間を変えています」


(私が主賓?)


「もう始まってるの?」


「はい、婚姻式は身分の低い方から順にご紹介をしていくので、商人などは早朝から来てくれています」


(た、大変ね)



 別の年配の黒服に、私は招待状を渡した。私の名前を確認すると、黒服はなぜか、ふーっと息を吐いた。


「執事長さん、失礼ですよ? ミカンさんはダークロード家のお嬢様です」


「あぁ、失礼。しかし、これだから、レオナード坊ちゃんはダメなんですよ。あちらの家の主賓は王族ですよ? 調査が甘い」


「私の身分では、不足でしたか」


「あ、いえ、ダークロード家のお嬢様がお越しいただいたことは、大変名誉なことに違いはありませんがね。ただ、坊ちゃんには何度も進言しておりました。お金を積めば、出席してくださる王族の方もいらっしゃるのですが……」


(本当に嫌な習慣ね)



 慌てたボルトルさんが年配の黒服をテントの奥へと、引っ張っていった。客人に聞かせるべき話じゃないもんね。


「執事長さん、こんな日にこんな場所で、それはやめてくださいよ。レオナード様は、旦那様に命じられ、ご自分の手で客人を集められたのですよ?」


「それがこの結果では……トリッツ家も、もうおしまいだな」


(なぜ、聞こえるの?)


 彼らがテントの中でコソコソと話しているのに、声は普通に聞こえる。あっ、ノキか。



「ミカンさん、失礼しました。今、グリーンロード家側の主賓の方々が、会場に入られました。彼らの挨拶が終わり次第、ご案内しますね。一緒に来られた方は……」


「私の守護精霊と……」


(どう言えばいいの?)


 するとノキが口を開く。


「こっちの男は、アタシの護衛であり、アタシ達の移動手段だ。転移魔法が得意だから連れて来た」


「えっ? 守護精霊に護衛? あぁ、そういえば、ミカンさんの守護精霊は特殊でしたね。見た目は、完全に精霊様のようですが……ふわふわしてませんでしたっけ?」


「ボルトルさん、記憶力がすごいですね。ふわもこのノキですよ。人の姿になると、普通に話すことができるの」


 ボルトルさんは、にこやかに接してくれるけど、年配の黒服は、テントの中から出てこない。見栄の張り合いに負けたと思って、落ち込んでいるのかな。



『みかん、あの黒服は、レオナードの敵だぞ』


(ん? ノキ?)


 ノキの方をチラッと見ても、私の方を見ていない。念話を使ってきたってことは、内緒話ね。


『別に、堂々と言ってもいいが、レオナードが抑えなければ意味がないからな。シャーマンは陰湿な奴が多い』


(あの黒服さんもシャーマン?)


『そうだよ。でも、レオナードの方が圧倒的にチカラは上だけどな。それがわかってないらしい。別の誰かを後継者にしたかったみたいだ』


(そう、大変だね)


 そういえば、レオナードくんは、身内が何かを言いふらしているって言ってたっけ。たぶん、言葉どおりの意味じゃないよね。シャーマンの術を使って、嫌な噂を広めてるんだ。




「ミカンさん、お待たせしました。ご案内します」


「ええ、ありがとう」


 ボルトルさんの後ろを、テントから建物へと歩いて行き、階段を上がって中に入ると、右側に受付らしき机があった。グリーンロード家の家紋も見える。


(そういうことか)


 ここに着いた瞬間、彼が、やはりと言っていたのは、この待遇の差なのね。グリーンロード家の客人は建物の中のホールで、そしてトリッツ家の客人は建物の外のテントか。



 大きな扉の前で、ボルトルさんが立ち止まった。


「おや? トリッツ家の主賓の方かな? 随分と可愛らしい客人だね」


「レオナード様が招待された主賓の方です。その言い方は無礼ですよ」


「へぇ、主賓がこんな小さなお嬢さんか。面白い演出だね」


 ボルトルさんがとがめてくれても、扉の前にいた人は、私達をバカにしてるみたい。でも、ノキもセレム様も無視してる。私が文句を言うべきではなさそう。



 そして、扉が開かれた。


(うわっ! すごい人数!)


 端が見えないほどの広い部屋に、ぎっしりと人が集まっている。客人が通る道なのか、緑色のじゅうたんが真っ直ぐに敷かれていた。


 グリーンロード家を象徴する草木の色だ。



「トリッツ家の主賓、ミカン・ダークロード様が、ご到着されました」


 ボルトルさんが、拡声器のようなものを使ってアナウンスすると、無数の目が、一斉にこちらを注目した。


(緊張する)


「さぁ、みかんちゃん、堂々とね。悪役令嬢でいいよ」


 彼はそう言うと、スッと眼鏡を外した。



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