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150、草原の穴が繋がったのは

「アナタ達! 何をしているのかしら!?」


 私は、ゲームアバターから見える距離まで近寄ると、表情に気をつけながら、冷たく言い放った。


 私の後ろからは、女装したりょうちゃんが少し遅れて歩いてくる。ゲームアバター達は、私達を見て、一斉に表情を歪めた。



『ねぇ、あの子、エリザの妹だよね?』


『10周年イベの最終日に、ベルメの海底ダンジョンに出没したらしいよ。超レアキャラじゃん』


『あー、聞いた? エリザの妹って、テイマーなんだって。ベルメの海底ダンジョンのヌシを従えてるんでしょ』


『怪獣みたいな巨亀だよね。あれ、絶対に倒せないって、ランカーの人達が言ってたよ』


『ヤバいんじゃない? あの子』


『ここはベルメから離れてるから大丈夫っしょ。それより、この穴の中かな? 何か変な反応があるよ? 魔石か何かが埋まってるかも』


 ユーザー達は、私が話しかけても無視して、オープンチャットで話してる。チャットのことは、ゲームの中に出てくる登場人物には聞こえないと思ってるよね。


(完璧に聞こえてるよ?)


 だけど、言語を理解できる私達にしか聞き取れない。聞こえないフリをしておく方がいいかな。




「ミカン、なぜ、来たんだよ?」


 レオナードくんが話しかけてきた。その背後にいるカノンさんとタイタンさんは、かなり不機嫌みたい。


「私は、今日は彼女と一緒に、草原の監視ミッションをしてたんだよ。大きな音がしたから来てみた」


「あぁ、監視ミッションか」


 りょうちゃんのことを彼女と呼んでも、レオナードくんは性別を疑う様子はなく、軽く会釈している。カノンさんとタイタンさんも、同じく頭を下げた。


「レオナードくん、この穴だけどさ。どこかと繋がってしまったみたいだよ。よくあることなの?」


「最近、頻繁に爆発騒ぎがあるけど、草原の一部に大きな穴ができたのは初めてだな。なぜ、こんな穴が……あれ? ミカン、ちょっと下がれ」


 レオナードくんは、何かを察知したらしく、私達を、幽霊みたいなヤツを使って、強制的に後退させた。


(ひぃん、怖いよ)


 レオナードくんが使う死霊術なんだろうけど、私には黒い幽霊にしか見えない。



 その直後、穴から変な霧のようなモノが溢れてきた。


『グアラララン、クラグララン〜』


(鳴き声? 歌声?)


 そう考えた瞬間、私の左腕から、透明なえのき茸がブワッと出てきた。そして、私の身体をぐるぐる巻きにしてる。



「バリア! みんな、身を守って!」


 私がそう叫ぶと、りょうちゃんは、私達にバリアを張ってくれた。カノンさんとレオナードくんも、りょうちゃんとは別のバリアを私達にも張ってくれてる。



『エリザの妹が、何が言わなかった?』


『バリアって言ったんじゃない? この魔力反応にビビったのかも?』


『あはは、やっぱ子供だもんね』


(失礼ね)


 ゲームのユーザー同士のオープンチャットには、全く緊張感はない。戦闘不能になっても、強制ログアウトされるだけだもんね。



 ドドドドッ!


(何? これ)


 穴から霧状の何かが激しく吹き出してきた。その霧状のものが草原に降り立つ。いや、浮かんでる?



『見たことないレアモンスターなんだけど』


『この草原のヌシなの? また、エリザの妹の仕業?』


『違うんじゃない? レオナードさまが避難させたから』


(レオナード、さま?)


 ユーザー同士のオープンチャットは、本当にのんびりとしたものだ。だけど、私達はそうはいかない。



「ミカン、異世界人達は、なぜ逃げないんだ?」


「あの人達の本体は、別の場所にいるからだよ。もし戦闘不能になっても、数時間後には復活できるからね」


「あぁ、分身だったな。だが、ダメージは受けるよな?」


 三人の中で、レオナードくんだけは冷静に見えるけど、ちょっとイラついてきた気がする。


 異世界人がこの世界に分身で来ていることは知られている。でも、彼らは、優しく守ってやれと言われているみたい。


 そうじゃないと、乙女ゲームは成立しないもんね。フィールドでは、攻略対象が助けてくれて、優しい言葉を囁いてくれるものだから。



「おい、もう俺は、あんな奴らの世話は嫌だぜ。なぜ、ゲネト先生は……」


「タイタン、またそれかよ」


「うっせ。はぁ、ったく……」


(へぇ、上下関係ができてるのね)


 レオナードくんは上級クラスに進学したから、もう15組ではない。タイタンさんは、レオナードくんを先輩として扱うようになったみたい。



『グアラララン、クラ〜ッ、グララン〜』


(やっぱり歌声?)


 霧状で草原に浮かんでいたモノは、形がはっきりしてきた。大きな翼がバサバサと動き始めると、その身体を覆っていた霧のようなモノは消え、その姿を現した。


(なんかドラゴンみたい)


 この世界に、ドラゴンはいない。海竜という竜はいるけど、海竜はモンスターではなく神に近い存在だもんね。



「りょうちゃん、アレって……」


「ブライトロード領にいる飛竜かな? カノンさん、どうですか?」


 りょうちゃんは、カノンさんに話を振った。すると、カノンさんの雰囲気がガラッと変わった。急にオドオドした表情をしている。


(現地人のカノンさんに交代したわね)


「確かに、ブライトロード領にいる飛竜です。しかも、霧状に姿を変えたから、どんな隙間もすり抜ける特殊な種族です。たぶん……」


 カノンさんは、レオナードくんに視線を移した。すると、レオナードくんが口を開く。


「飛竜のアンデッドだな。だが、俺には操れない。言葉が通じないから、術が効かないんだよ。こちら側からは、絶対に仕掛けるなよ?」


(モンスターに言葉は通じないよね?)


「そうですね。こちらから攻撃をしなければ、何もしてきません。たぶん、ブライトロード領にある飛竜のナワバリに繋がってしまったのでしょう」


 カノンさんはそう言うと、タイタンさんに鋭い視線を向けた。無茶をするのは、タイタンさんだけだ。でも、私の感覚が正しければ、タイタンさんは勝てる相手にしか勝負を挑まないから大丈夫。



「こちらに興味を抱くと厄介だな」


 りょうちゃんがポツリと呟いた。


「りょうちゃん、あの飛竜って、異世界から来た種族かな?」


「メリル星から連れて来たみたいだね。メリル星に置いておきたくなかったんだろう。人工的に造った魔物みたいだからね」


(あぁ、だから言葉が……)


「どうする?」


「様子を見ようか。ここの気候はブライトロード領より寒いから、引き返すかもしれない」


「今日は特に寒いもんね」



 ヒューッ!



 あーあ、ゲームアバター達が、攻撃を始めちゃったよ。


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