149、ノキと似てるみたい
「あっ、レオナードくんもいる!」
私達は、りょうちゃんの転移魔法で、ゲームアバターが騒がしく集まっている場所の近くに移動した。この場所なら、私達からはアバターが見えるけど、ユーザーからは見えない絶妙な距離だ。
(さすが、りょうちゃんね)
「ちゃんと女装できてるかな? 顔を隠そうか」
口紅を慌てて付けただけでも、りょうちゃんは完璧に女性に見える。もともと中性的な綺麗な顔だし、服も、女性の魔導士風だもんね。
「大丈夫だよ。女性にしか見えないよ。レオナードくんがいるから気にしてるの?」
「まぁね。イチニーの素性はバレたけど、リョウはバレてないからね。ただ、レオナードさんは優秀なシャーマンだから、疑いを持たれると暴かれてしまう可能性があるんだよ」
「そっか、複数所持者だと知られてるもんね。だから、女装するのね? 普通なら分身は性別を変えられないから」
私がそう言うと、彼はクスッと笑った。もしかすると、私はドヤ顔をしてたのかもしれない。
「あぁ、集まってきたね。この時代のフィールドに来るってことは、新しい攻略対象の物語からかな」
(ん? あっ、10年の時差があったっけ)
こちら側の草原は、10周年で開放されたと聞いていたけど、確かにこの時代に来るってことは、新攻略対象の物語中のミッションか。
私は『フィールド&ハーツ』を長くやってたけど、もうほとんど忘れてる。この世界に来て4年だもんね。
りょうちゃんが指摘したように、レオナードくんの近くには、他の新攻略対象の2人も来たみたい。でも、彼らはゲームだとは知らない。たぶん、ゲネト先生が上手く関連付けてるんだろうけど。
タイタンさんはいつものように偉そうな雰囲気だけど、二つの魂が同居してるカノンさんはオドオドしてない。転生者の方のカノンさんなのね。
(でも、なんだか変だな)
ゲームのユーザー達は、ユーザー同士のオープンチャットを使って、彼らが怒りそうなことを話してる。あの声って、私達にも聞こえるよね?
「りょうちゃん、オープンチャットなんだけどさ」
「あぁ、あそこまで速いと、私にも理解できないよ」
「ん? 普通に聞こえるよね? たくさんの人が話してるけど。でも、レオナードくんはともかく、あんな話を聞いていて、なぜカノンさんやタイタンさんがキレないんだろう?」
私がそう話すと、彼は一瞬、固まっていた。やがて、その理由に思い当たったみたい。
「あぁ、みかんちゃんには説明してなかったね。ゲームアバターが話しかけてくるときと、ユーザー同士のオープンチャットは、言語が違うんだよ」
「ん? そうなの?」
「ゲームの世界から転生して記憶を引き継いだ人には、言語に関する記憶もそのまま引き継いでもらってるから、同じように聞こえるんじゃないかな? 私達には、オープンチャットのやり取りは、未知の言語にしか聞こえない。私は頭の中で必死に翻訳するんだけど、あのスピードだと半分もわからないよ」
「へぇ、じゃあ、レオナードくん達には変な言語に聞こえてるのね」
「いや、全く意味のわからない言語は、異世界人が発する呼吸音のように聞こえてるんじゃないかな? 特殊な念話のように伝わるから、オープンチャットは自然の音に溶け込んで、聞こえないかもしれないよ」
(ん? でも、エリザは……)
「りょうちゃん、エリザは……私の姉は、オープンチャットを理解してたと思うよ?」
「エリザさんが? あぁ、それなら今ではなくて、だいぶ成長した彼女でしょう?」
(あっ、時差があるよね)
「確か、ベルメの海底ダンジョンで遭遇したときだから、悪役令嬢エリザ・ダークロードが20代後半の頃かな。姉は私より10個年上だから、今は19歳? ん〜、5年以上先のことかな」
すると、りょうちゃんは淡い光を纏い始めた。未来を見ているのかな? なんだかすごく綺麗。
「あぁ、なるほど。うん、エリザさんは、母親になってしばらくすると、みかんちゃんの世界の言語を少しずつ覚えるみたいだね」
「えっ? エリザに……姉に子供?」
「おや? みかんちゃんは知らなかったのかな。エリザさんには、今、すでに伴侶がいるでしょう?」
「ええっ!? 知らない! 誰? 誰が姉の……」
「ふふっ、それは私からは言えないな」
りょうちゃんは、悪戯っ子のように笑っている。もう完全に、いつもの調子ね。
「じゃあ、母親になると、なぜ私の前世の言語がわかるようになるの? あっ! わかった! その子供が、私と同じ世界から来た転生者なのね?」
なぜか突然、ポンポンと、頭を撫でられた。そして、りょうちゃんは、クスクスと笑ってる。
(ん? 何?)
「みかんちゃんって、精霊ノキ様と似てるよね。あっ、逆か。精霊ノキ様が、みかんちゃんに似てるんだ。ふふっ、かわいいな。名探偵っていうのかな?」
「もしかして私、ノキみたいなドヤ顔をしてた?」
「ふふっ、誰かを指差してはないけど、それ以外はよく似てるよ」
(ノキがやる、変な決めポーズか)
「それって、めちゃくちゃドヤ顔してるじゃない。恥ずかしい」
ドーン!
また、大きな音が響いた。だけど、ゲームアバターは、新たなアイテムは使ってない。
「繋がったみたいだな。向こう側からかな?」
「りょうちゃん、どういうこと?」
レオナードくん達は、ゲームアバター達の方へと駆け寄っていく。彼らの表情から、これが初めてではないように見えた。
(謎の爆発が多発してるの?)
『わぁっ! 本当に三人とも来ちゃったよ』
『新しい物語の新フィールドは、爆発騒ぎを起こせば、本当に全員集合なんだね』
私は、ゲームのユーザー同士のオープンチャットが気になった。
『新攻略対象が三人揃ったら、それだけで経験値倍増でしょ? これってバグかも。稼げるうちに稼がなきゃね』
『変な穴が空いたけど?』
『爆弾を使いすぎだんじゃない? まぁ、いいじゃん』
(良くないよ!)
「りょうちゃん、聞き取れた?」
「いや、速いからな。ただ、ゲームユーザーが嬉しそうなのは、わかるよ」
「何かバグってるみたい。新攻略対象を三人呼び寄せたら、経験値倍増って言ってる。変な攻略情報が広まってるんだと思うよ」
「そうか。ゲネトがわざと誘導しているのかもしれないけど、ただ、あの穴は想定外だろうね」
彼は、淡い光を纏い始めた。さっきの未来を見るのとは違う弱い光だ。たぶん、サーチ魔法よね。
「みかんちゃん、私達も行く方が良さそうだよ」
「うん、そのつもりだよ」
私は彼を先導するように、歩き始めた。
メンテにより、本日の更新が遅くなりました。
投稿ページが変わってしまって大混乱中です(*゜艸゜*)
とりあえず更新できてよかった♪(*^^*)
皆様、いつもありがとうございます♪




