141、めちゃくちゃ怒る精霊ノキ
空洞内の空気感が一気に変わった。
(わっ! 本当にベルメのヘソみたい)
時雨さんは、イチニーさんから渡されていた水晶玉っぽいものを投げつけたようだ。それを破壊されたことで、通路付近から空洞内に、うっすらと暗いモヤが広がっている。
地面に叩きつけて使う魔道具だと思うけど、時雨さんは投げつけた。これは、彼女の賢いところだと思う。勘違いさせて、確実に水晶玉っぽい魔道具を割らせたのね。
だけど、メリル様と呼ばれた人が集めている魔力には変化はない。ベルメのヘソと呼ばれる水場なら、攻撃魔法を放つことができないけど、自分に使う魔法は使えるんだっけ。
「フン、爆破系の魔道具か? そんなくだらない物で私の術を妨害できるとでも思ったか」
(完全に勘違いしてるよ)
暗いモヤが広がっていることに、全く気付いてないみたい。手に集めた魔力が変わらないからよね。
メリル様と呼ばれた人は、通路の方に向いた。
(あっ、マズイかも)
私が気付いたときには、もう衝撃波のようなものを、通路へ放っていた。
その攻撃を、私より早く反応した空の星さんが、身を挺して防いだ。バリアを張っているみたいだから、空の星さんは無傷みたい。
「おまえ! 裏切るのか!」
「自分は、従っていただけだ」
(ん? 何か変な言い方)
「おまえのバリアは、真空波を弾くのか。やはり、ザッハの者達は面倒だな。なっ? 何という愚かな子供だ。セレム! おまえの婚約者は先に逝かせるとしよう」
私が駆け寄っていることに、やっと気付いたみたい。右手に集めた魔力を使う気ね。
「愚かなのは貴方の方よ! もう貴方に勝ち目はない。もともと勝ち目はなかったけどね」
「ふっ、じゃあな、お嬢ちゃん」
メリル星から来た異世界人は、至近距離に迫っていた私に向かって、パチパチと弾ける魔力を放った。
(雷属性か)
水晶玉みたいな魔道具は、ベルメのヘソとは違って、完全に攻撃魔法を阻害するほどの性能はないみたい。
私は剣にイナズマを纏わせ、放たれた魔力を絡め取り、天井へと逸らした。威力はかなり減殺されてるから、走りながらでも楽勝ね。
「なっ? 何!?」
私はその勢いのまま、メリル様と呼ばれた人にイナズマを纏わせた剣を振り下ろした。
ガチ
鈍い音がした。
このモヤの中でも、自分を守るバリアは、普通に発動できるはずだ。
ピンッと音がして、何かの気配が消えた。
「う、嘘だろ!? なぜ、私のバリアが……」
慌てる男の首に、私は剣を当てた。
「ダークロード家を舐めるからこうなるのよ! いっぺん死んでみる? メリル星の魔法技術なら、蘇生魔法くらい使えるでしょ?」
「あ、な、なぜ、待て! おまえは何者だ!? この世界の住人に、こんなチカラがあるわけがない。どこの星から流れてきた?」
私は、現地人だと言い切ろうと思ったけど、やめた。
目の前にいる男は、強い衝撃を受けている。メリル星から来た異世界人は、事前にこの世界の住人を調べたはず。その結果として、自分達が最強だと思ったから、この世界を選んだのだと思う。
私がいろいろと考えても、ノキは何も言ってこない。
(これでいいってことね)
メリル星から来た異世界人を、この世界から追い出してやるんだから!
「私は、貴方達の知らない星からの転生者よ」
「転生者? 現地人なのか? いや、まさか……」
「貴方、バカなの? あぁ、そうだ。貴方達が仕組んだ紅茶病は、私の前世の技術で改善したわ。魔法にしか能がないメリル星とは違うのよ!」
「な、なっ、なんだと!? あのメラミンスポンジをもたらしたのは……」
「私が知る技術は、私の守護精霊なら、この世界で実体化できるもの。100均を舐めんじゃないわよ!」
「ひゃ、ひゃっ金? そんな錬金術が……クッ」
(錬金術じゃないよ)
その男は、転移魔法を使って私から離れた。
(さっさと、出て行ってちょうだい)
「錬金術を使う異世界人だなんて……まるで、タムエルじゃないか。クソッ、帰還するぞ!」
(タムエル?)
その人は、天井に魔力を放った。何かが割れる音がした直後、転がっていた騎士風の人達、そしてその人と一緒に現れた十数人が、転移魔法の光に包まれた。
だが……。
少し浮遊したけど、ポテポテと落ちてきた。
(転移魔法も使えないの?)
ベルメのヘソとは違って、魔道具では不完全な阻害しかしてないのに。
「どういうことだ!? その魔物か!」
カメキチの近くに落ちたメリル様と呼ばれる男は、手に魔力を集め始めた。
(カメキチが……)
ドドーン!
(ひぃーん!)
派手な音とともに天井から、カメキチの前に落ちてきたのは、巨大な幽霊っぽい獣!
「ミカンの従魔を盗む気だろ! バレバレなんだよ」
(あっ、レオナードくんの術?)
通路から空洞に出てきたレオナードくんからは、幽霊と同じく、漆黒のオーラが湧き立ってる。
「シャーマンか。おまえごときが、私の術を防げるわけないだろう?」
手に集めていた魔力をレオナードくんに向けて放とうとしたとき、その魔力は光となって散っていった。
(あれ? ベルメのヘソと同じだ)
「ふっ、本当に愚かだな、メリル王。この場のマナの変化に気づかないんだね」
イチニーさんが、カメキチの近くまで移動してる。あっ、影武者さんもいる。そして二人の手には、水晶玉っぽい魔道具が握られていた。
パリン!
「一つでは、全然効いてないみたいだが、これだけあれば効くだろ」
影武者さんは、冷たい目をして、その男の足元で魔道具を叩き割った。
「マナの流れが乱される。何を……」
「一時的に、攻撃魔法が発動できないようにする魔道具だ。転移魔法は阻害されないはずだけどね。おかしいな〜」
イチニーさんは、ケンカを売ってるみたい。
「セレム、おまえ……。クソッ、なぜ、転移魔法が発動しない!? 結界は消したというのに……いや、何? 結界が消えてないだと?」
「ふぅん、ということは、メリル王の結界は誰かに乗っ取られたんだね。所詮、その程度の魔導士だということだ」
(また、メリル王って言った)
イチニーさんは、この人が、メリル星から来た異世界人達の王だと言ってるの?
「アタシから逃げられるわけないだろ! 人間!」
私の目の前に、5歳児くらいの少女の姿をしたノキが現れた。そういえば、何かの準備をしたんだっけ。転移阻害?
「どこから……何? サーチが効かないだと?」
「アタシは、ノキ! みかんの守護精霊だ。アタシに2文字の名前をくれたみかんを殺そうとした罪、死をもって償え!」
(ノキが、めちゃくちゃ怒ってる)




