136、ミカン、超レアボスにされる
私は、ゆっくりと第三層の空洞に入っていった。
(あー、そういうことか)
彼がなぜ私を、空洞内の討伐担当にしたのかがわかった。ゲームアバター担当なのね、私は。
影武者さんとイチニーさんは、ゲーム画面に表示されない場所で次々と現れる魔物を狩っている。二人は本当に競い合っているのかも。
さっきの壺が割れる音は、地面に落としたものもあるけど、空洞の壁に投げつけた方が圧倒的に多かったみたい。これは奴らが、ゲームアバターを本気で狙っているということね。
ゲームのユーザーも広域図にすれば、この空洞全体にいるモンスターがわかるけど、ただの点で表示されるだけだ。それにそもそも、交戦時のフィールドでは広域図は使わない。
きっと、その情報はメリル星から来た異世界人も知ってる。ユーザーの画面外から攻撃をすることで、戦闘不能にしようとしてるんだ。
交戦時に離れた場所から攻撃を受けても、ここに集まっているゲームユーザーはランキング狙いの人ばかりだから、簡単には戦闘不能にはならないと思う。
(だから、紛れ込んでるのね。卑怯者)
ゲームアバター達の中に、影武者さんとイチニーさんへ、鋭い視線を向ける人がいる。アバター特有の淡い光を放ってない。あの人が、メリル星から来た異世界人に間違いない。
きっと、ユーザーの注意を画面内のモンスターに向けさせる役割だと思う。ゲームアバターは魔法では操れないもんね。
そして、同じ顔をしたクローン人間は、2種類の顔があるみたい。彼らのほとんどが、ゲームのユーザーの画面に表示されない場所にいる。彼らは、魔物が吹き出す壺を置いたり、魔物に指示を与えるために待機しているのだと思う。
(全体像が見えてきたわ)
ゲームアバターに紛れ込んでいるのが指揮官で、奴隷とクローン人間に実行させているのね。指揮官は、目立つのはひとり。だけど、アバターのふりをしている違和感のある淡い光を放つ人もいる。こっちが本当の指揮官ね。
『みかんさん、側に置いてください』
(ん? 赤い光。彼の守護精霊さん?)
『はい、セレム様の……じゃなくて、イチニー様の守護精霊です。人の念話は察知されるので、私に連絡役をさせてください』
(そう、わかったよ)
そういえば彼は、4つの身体のすべての能力が使えるんだったよね。だから、りょうちゃんの能力もイチニーさんは使える。ただ、ステイタスは称号によって差があるから、今は剣術が強い状態だろうけど。
『そろそろ、ゲームアバターの視界に入りますよ』
(ふふっ、ナビをしてくれるのね。ありがとう。彼とも会話を共有してるのかしら?)
『はい、共有しています。みかんさん、統率者がアバターの中にいます。気をつけてください。光を纏ってない個体です』
(うん、それは見つけた。でも彼女は違うと思うよ。本当の指揮官は、ゲームアバターのフリをしてる)
『ええっ? どの個体ですか!?』
赤い光がそう叫んだ瞬間、イチニーさんがチラッとこちらを見た。同時に聞こえてるみたい。
(彼女は、不自然な淡い光を纏ってるよ。三属性が使える三元剣を持ってるけど、あの剣には何の属性も備わってない。ノキのチカラで、そう見えるのかもしれないけど)
『属性の無い剣を持つ女性ですか? あっ、見つけました! 纏っている光は、何かのバリアですね。マナを感じます』
(そっか、精霊様にはマナの方がわかりやすいね)
『ひぇ、私は精霊ではなく、弱い守護精霊ですよ〜』
赤い光は照れたのか、私の肩の近くを不規則に飛び回っている。ふふっ、なんだか可愛い。
ゲームアバターから見える距離まで近づくと、何人かのユーザーがすぐに私に気づいた。
『エリザの妹じゃない?』
『ほんとだ。なぜ?』
『そういえばエリザも、ベルメの海底ダンジョンによく現れるよね』
ユーザー同士のオープンチャットが飛び交う。
(全部、まる聞こえよ)
だけど私は気づかないフリをしておく。悪役令嬢エリザ・ダークロードも、チャットには反応しなかったもの。
『お嬢ちゃん、危ないよ? 今、途切れてるけどすぐに、モンスターが湧いてくるの』
アバターの一人が話しかけてきた。悪役令嬢らしくしなきゃね。私は表情にも気をつけて口を開く。
「貴女は、何を言っているのかしら。モンスターなら、壁側に大量に湧いているわ」
私がそう言うと、ゲームのユーザー達は、広域図に切り替えたみたい。影武者さんやイチニーさんの姿は見えないだろうけど、大量のモンスターがいることはわかるはず。
『広域図に切り替えてみて。エリザの妹が言った通りだよ』
『さっきまでは何も居なかったのに。ここで狩ってたから壁面側に逃げたのか』
「ちょっと待って。壁面近くは、ゾーン外だよ。この魔法陣内しか、ポイントアップにならない」
(今の声、普通の肉声だ)
声の主は、完全にゲームアバターに見える。だけど、アバターの声の響きじゃないよね。ここにいるメリル星から来た異世界人は、二人じゃなくて三人だ!
『確かに魔法陣の外だね。こっちに呼び寄せるアイテムを使おうか』
『使ってるよ』
『あれ? アンタ、もう戻ってきたんだ。さっきの地殻変動で戦闘不能になってたのに』
『アイテムを大量消費してでも、10周年イベは100位に入らないとね! 奇跡の水が欲しいもん』
(地殻変動? 地震のこと?)
そういえば、ここには、私達の前を通って行った半分も居ないな。ダンジョン内転移でここに来た人も多いはず。かなりの数が減らされたのね。
全回復アイテムを使っても、ベルメ海岸からやり直しになる。ダンジョン内転移のアイテムは長距離移動ができないから、複数個を使用したはず。
(これが繰り返されると、ユーザーは離れるよね)
『あっ! 新たな情報だよ』
『エリザの妹ミカン・ダークロードが、イベントの超レアボスだって!』
『遭遇するだけでも1,000ポイント! ミカン・ダークロードに戦闘不能にされたら、ベルメの奇跡の水10個もらえるんだって!』
(はい? 何、これ)
ゲームユーザー同士のオープンチャットが、変なことを言ってる。
『みかんさん、ゲネトさんが追加したようです。ユーザーを気にせず、ぶっ飛ばせとの伝言です』
(えっ? ゲネト先生からの伝言?)
『はい、ゲネトさんの守護精霊からの伝言です』
あっ、だから先生はこの空洞の外にいるのね。ゲーム開発者だから、こんな追加もできるんだ。
(じゃあ、私は引き金をひかなきゃね)
「貴女達、ここで集まるのは迷惑よ。出て行きなさい!」




