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132/196

132、イチニーさんの目的は何?

「カゲムシャ? あぁ、暗殺ばかりやっているAランク冒険者か。確かにシャーマン家からすれば、厄介者だ。そんな奴がミカンに仕えるだと? ふざけんなよ」


 レオナードくんは、影武者さんに対して敵意を向けた。レオナードくんがこんな反応をするのは、初めて見たかも。


「お坊ちゃんには理解できねぇだろうけどな。ミカンが政略結婚する相手のことを考えれば、俺みたいな護衛がいる方がいいだろ」


「確かに謎の多い老人だろうけど、ミカンはダークロード家なんだぜ? 強い使用人ならいくらでもいる」


「どんなオッサンが爺さんか知らねぇけどな、ミカンのことなんて放置するき決まってる。嫁いだ先で、ミカンが嫌な目に遭うのは明らかだろ。俺がついていてやらないとな」


(ちょっと、二人とも……)


 レオナードくんと影武者さんの口論を、イチニーさんは真顔で聞いている。


 自分のことをオッサンとか老人と言われても、素性を明かせないから黙っているしかないよね。だけど、いい気はしないはず。



「そういうケンカは、私のいない所でやってくださる?」


 私が冷たく言い放つと、彼らはハッとしたみたい。


「いや、ミカン、別にケンカってわけじゃないけどさ。本気で、人斬りを護衛にする気かよ?」


(返事が難しい)


 だけど、ここで断るわけにはいかない。影武者さんの生きる意味が、私の護衛になることなら……。


「私の護衛には、剣術だけでなく様々な教養が必要よ。それを学ばない人は雇えないわね」


 私がそう言うと、二人は異なる表情を浮かべた。レオナードくんは、私が拒否したと思ったみたい。そして影武者さんは、私が許諾したと受け止めたのね。


(まぁ、いっか)



「へぇ、ミカンさんの護衛になりたいんですか。それは困ったな。私もミカンさんを守るつもりなんですけどね」


 イチニーさんが、話に割り込んできた。さっきまでとは違って、いつものチャラチャラした雰囲気だ。


「おい、イチニー、何を言い出すんだ」


「レオナード様、私はずっと前から、ミカンさんが好きだと宣言していたでしょう?」


「だから、おまえは手を出すなって言ってんだよ。ミカンの婚約者は、セレム・ハーツ様だぜ? イチニーみたいな冒険者が、近寄ることなんてできないぞ」


(いや、本人だよ)


「じゃあ、レオナード様が私を紹介してくださいよー」


「はぁ? おまえみたいに飽きっぽい奴を紹介できるわけないだろ。ってか、俺もセレム・ハーツ様に会える身分じゃないぞ」


 イチニーさんは、レオナードくんをからかって楽しそうだけど、何をしに来たんだろ? 


 クラスメイト達は、影武者さんと行動を共にする、空の星さんとベティさんのことも警戒してる。とりあえず、このピリピリした感じをなんとかしなきゃ。




「レオナードくん、紹介するよ。彼らは、シグレニさん経由で知り合いになった冒険者友達だよ。たぶん、シグレニさんも近くにいると思う」


 時雨さんの名前を出すと、レオナードくんだけでなく、15組の人達も、少し安心したみたい。時雨さんの知名度の高さと信頼性は、すごいよね。


「それなら、早く言ってくれ。その男が変なことをいうから、警戒したぜ」


「あー、うん。あっ、異世界人の団体さんだよ。みんな、道を開けてあげて」



 私達がいた通路を、大量のゲームアバターが通っていく。レオナードくんの姿を見つけると、手を振る人もいる。


(新攻略対象だもんね)


 私の姿は、ゲームアバターからは見えないみたい。ゲーム画面に表示される範囲って、結構狭いのよね。


 だけど、なぜこんなにゾロゾロと、ここを通っていくんだろう? この先は、何もない第三層なんだけどな。



「ミカン、なぜ大量の異世界人が、この道を下っていくんだ? この先の第三層は行き止まりだぜ。集団迷子かもしれないが、どうする?」


 レオナードくんは、自分の仕事を思い出したみたい。だけど、ここを通っていったアバター達は、レア装備を身につけていた。そんな人達が道に迷うわけがない。


「第三層で、集まるのかもしれないね。私達は、この裏に行かないようにする役割があるから、持ち場は離れない方がいいよ」


「そうだな。この先の第三層はただの空洞だから、危険はないか」


 他のクラスメイト達も、互いに頷き、ベルメのヘソに繋がる隠し通路の前に立った。




「ミカン、そろそろフィナーレが始まるんじゃねぇか? 狙われるぞ。メリルの奴らに」


 影武者さんが、そう耳打ちしてきた。


「フィナーレ? 何それ」


「は? イベント最終日といえば、どこかにスポットが現れるだろ。ポイント2〜3倍、ドロップも2〜3倍のフィナーレフェスティバルだよ」


(知らない……)


 空の星さんとベティさんも、コクコクと頷いている。私がぼんやりしていると、ベティさんが私に腕組みをしてきた。今日は、ポニーテールね。


「みかんさん、ランカーなら知ってる穴場だよ。メリルが妨害してくる。一度、フェスティバルが不具合祭になったことがあるんだよね。エリザが若かったから、きっと今頃だよ」


「えっ? そうなの?」


「うん、1周年イベだよ。それで、運営がお詫びのアイテム配布をしなかったから、辞める人が続出したんだよね」


「あっ! 覚えてる! 1周年イベントの最終日、謎のログアウトが起こったよね。時雨さんも怒ってたよ。あれって……そうか、強制ログアウトか」


(それで、イチニーさんも来たのかな)


 10周年イベントの最終日に不具合祭になったら、『フィールド&ハーツ』を辞める人が続出するよね。特に、ランキング争いをしている人は、絶対に怒る。下手すると、あちこちのSNSに不満を書き込まれて、サービス終了に追い込まれるかも。




「おい、イチニー、おまえは用があるんだろ?」


 レオナードくんはそう言うと、イチニーさんにシッシと追い払うような仕草をした。イチニーさんは、メリルがゲームアバターを狙うのを、ここで待ってるんだよね。


 もしかすると、影武者さん達が姿を現したのも、この通路の先で、フィナーレがあるからなのかもしれない。



「はい、用がありますよ」


「じゃあ、さっさと行けよ」


 イチニーさんは、私の方をチラッと見ると、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。この顔は、りょうちゃんがよくやる顔だよね。


「私の用事は、ミカンさんとのデートですよ」


 彼はそう言うと、私にウインクしてきた。チャラい。


「なっ? そんなわけないだろ」


「見回り時間が終われば、自由ですよね。待ちきれないので、合流することにしたんですよ」


「ミカン、そんな約束をしてたのか?」


「へ? いや……」


「私はミカンさんに、恋人しようと言ってもらったんですよ」


(ちょ、イチ……りょうちゃん!!)



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