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129、紅茶病の原因

『そうなのですか! なぜ、精霊ノキ様は、そのようなことをご存知で……あぁ、なるほど』


 精霊ウンディーネ様は、自分で自己解決してしまったみたい。だけど、私には全くわからない。たぶん、みっちょんはもちろん、時雨さんにもわからないのだと思う。


(あっ、りょうちゃん……)


 りょうちゃんが苦しそうに表情を歪めているのが気になった。彼は、いろいろな感情で押し潰されそうになっているのかもしれない。


 でも、精霊ウンディーネ様とノキの会話に、割り込むことはできないよね。みっちょんでさえ、口をパクパクしてるけど、わきまえてる。


(私ならいいか)




「ねぇ、ノキ。どうして紅茶病が、メリル星から来た異世界人によって作られたとわかって、私に教えてくれなかったの?」


「アタシも今、知ったばかりだからな」


「どういうこと? 他の精霊様の情報?」


(いや、違うか)


 ベルメにいる精霊達が知っているなら、精霊ウンディーネ様が知らないわけないもんね。


「その亀が断片的に知っていた。記憶を繋げていけば、真実が見えてくる」


「えっ? カメキチ情報なの?」


 私がカメキチの方に振り返ったけど、つぶらな瞳のその顔は、困っているように見えた。



「紅茶病についての知識は、何もないようだ。ただ、その亀の記憶には、茶畑での労働や、マグカップの製造、土の選別、何かの液体の運搬があった。その亀だけでなく、多くの奴隷が従事する記憶も見えたからね」


(全然、わかんない)


「ノキ、それって普通に働いてるだけじゃないの?」


「みかんは、本当に疑うことを知らないよな。メリル星から来た異世界人が、わざわざ茶畑だぜ?」


「どういうこと?」


 私が首を傾げていると、時雨さんが、ポンと手を叩いた。



「みかんちゃん、わかったよ。メリル星から来た異世界人は、魔法にけてるでしょ? わざわざ奴隷に畑仕事をさせなくても、普通の植物なら魔法で育つよ」


 時雨さんの説明で、影武者さんは理解できたみたい。だけど、みっちょんはまだ睨んでる。みっちょんもわかってなくて、少し安心した。



 紅茶病の話をしてるけど、カメキチの棲家は決まったのかな。精霊ウンディーネ様は、ノキの側に浮かんでいる。カメキチの棲家は、精霊ウンディーネ様が動かないと決まらないんじゃないのかな。


 この場所に入りたがっているゲームユーザー達のことも気になる。空の星さんとベティさんが、アバターを近寄らせないようにしてるけど。



 すると、りょうちゃんが口を開く。


「精霊ノキ様、私は水に毒が含まれるのではないかと考えていましたが、土もなのですね。魔法で生育を促すと、土に含まれる毒素はマナに分解されるから、奴隷に茶畑を作らせていた。その運搬されていた液体というのは、ベルメのヘソに溜まる毒でしょうか」


「だろうな。巧妙な仕掛けだ。有害だと簡単に排除される。だから、こんな方法を考えたのだろう。ギルドマスターが、アレの出所を伏せているのは正解だったな。知られると、みかんに全戦力を向けられたかもしれない」


(ん? なぜ私?)


「ノキ、全然わかんない」



 私が少しイラついたことに気づいたゲネト先生は、ニヤッと笑った。そして、何かの術を使ったみたい。結界のあった場所に、また結界ができてる。さっきとは違って、目に見える結界だ。


 ゲネト先生が、りょうちゃんを小突きながら、口を開く。


「防音結界を張った。大精霊が邪魔をしない限り、この中にいる者にしか声は聞こえない」


「アタシは、邪魔しないよ」


 少女の姿をしたノキが、即座にそう答えた。ゲネト先生は、精霊ウンディーネ様のことを大精霊と呼んだのだと思うよ?


「ふふっ、精霊ノキ様、ありがとう」


(ゲネト先生、大人だ)


「うむ。気にしなくていいよ」


 ノキは、なぜかふんぞり返ってる。もしかしたら、ノキも大精霊なのかもしれないけど。



 ゲネト先生は、また、りょうちゃんを小突いたけど、彼は表情の読めない顔をしている。余裕がないんだと思う。


「仕方ないな、俺から話すか。間違えたら恥ずかしいから、りょうに話させたいんだがな」


 ゲネト先生はそう言うと、軽く咳払いをして、結界内にいる人達をぐるりと眺めた。淡く光ってるから、何かの術を使ってるよね。



「よし、問題ない。ミカンさんは気づいてないようだが、キミが精霊ノキ様に創造させたメラミンスポンジだけどね……」


「はい? なぜ、メラミンスポンジが出てくるんですか」


「ふっ、まぁ、聞け。メラミンスポンジが広まってから、そろそろ1年くらいか? 安価なサイズが販売されるようになってからは半年ちょっとか。この半年間で、紅茶病による死者が激減している」



 すると時雨さんが口を開く。


「宿屋ホーレスで長期滞在されている紅茶病の女性も、病状の進行が止まってますよ。王都にある紅茶研究所の紅茶のおかげだと思うんですけど?」


「あぁ、それもあるな。だが、今の話を総合的に考えると、紅茶病の原因は、カップに残る色素だろう。それをメラミンスポンジは取り除くことができる」


(あっ! あのドロドロ汚れ?)



「もしかして、ノキって、それがわかっててメラミンスポンジを作ったの!? すごいね、ノキ」


「いや、ひゃ、あはは、えーっと……何も考えてなかった」


「えっ? ノキの力で、紅茶病の原因を取り除いたんじゃないの?」


「アレは、みかんがいつも鏡を磨きたいって言ってたからじゃないか。アタシは、みかんの夢を叶えただけだ」


(あっ、そっか)


 そもそもノキは、今、紅茶病の原因がわかったんだもんね。



「おそらく、茶畑の茶葉自体には毒はない。ただ、その色素は劣化すると自然に毒に変わる性質を帯びているのだろう。ベルメのヘソの毒は加工しやすいからな。さらに、色素がこびりつきやすいマグカップを普及させたことで、一気に奇病が広がったのだ」


 ゲネト先生の説明で、やっと理解できた。


 この世界にはサーチ魔法を使う人が多い。サーチの魔道具もある。それらをすり抜けるタイプの毒を、メリル星から来た異世界人は作ったってことよね?


 劣化した色素を身体に取り込まなければ、何の害もないのだろう。だから、これほど魔法を使う人が多い世界でも、原因が発見されなかったんだ。


 ノキが、メリルの奴隷を手に入れることに執着していたのは、このためかな。ということは、ノキのお手柄だね。



『皆さん、有意義な集まりにお招きありがとうございます。お礼も兼ねて、その魔物の棲家はベルメのヘソに用意しますわ』



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