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128、水の精霊ウンディーネと精霊ノキ

「はい! ご主人様。必ず、成し遂げてみせます!」


 カメキチは、つぶらな瞳をキラキラと輝かせて、頭を何度も上下させている。すると、カメキチの全身が淡く輝き始めた。


(キラキラが集まってる?)


「みかん、今この亀は、ベルメの海底ダンジョンと会話をしている。身体に集まっている淡い光は、守護精霊になる前の光だ」


 小さな少女の姿のノキは、私に話しているようだけど、なんだか変だな。声の響きが、さっきまでとは少し違う。広範囲に聞かせているのかも。


「それって、カメキチが光を集めて喰ってるってこと?」


「いや、今は会話をしているんだ。みかんからの命令を伝えている」


「私がカメキチに、この海底ダンジョンのヌシになりなさいって言ったのがマズかった?」


 私は、このベルメの海底ダンジョンが、メリル星から来た異世界人の罠だらけだから、それを排除させたかっただけなんだけどな。




「へぇ、面白いな。さすが2文字の名を持つ守護精霊だ」


 ゲネト先生が、突然、意味不明なことを言った。何かの術を使ってるみたい。海底ダンジョン内の様子を調べているのかな。


「ゲネト先生、魔道具では拾えません。どういう状況なのですか」


 時雨さんは、いつの間にか、手に複数の魔道具を持っていた。やはり海底ダンジョン内の様子の調査か。


「シグレニさん、その魔道具では拾えないよ。精霊間のやり取りだからな。あー、その二つを掛け合わせると聞こえるかもしれない。皆も気になるだろうから、ちょっと貸してみなさい」


 ゲネト先生は、時雨さんが持つ魔道具二つを勝手に奪うと、何かの術を使って重ね合わせた。


(合体しちゃった)


 そして、ゲネト先生が魔力を込めると、合体した魔道具が淡い光を放ち始めた。



『……最下層がいいよ』


(ん? 何の声?)


 周りを見回しても何もいない。皆は、合体した魔道具を見てる。あっ、魔道具が拾った音なのね。


『でも、精霊ノキ様が身体を与えた魔物なのよ? 最下層は暗いし、美しくないよ』


『異世界の亀という種族らしい。精霊ノキ様が守護する人間の思念を具体化したようだ』


『え〜っ? じゃあ、別の侵略者なの?』


『侵略されないように、魂だけを呼んだ異世界人だ』


『じゃあ、安心ね。それなら、あの移民よりも弱いよね。この世界の人間に転生しただけでしょ? あの移民のような膨大な魔力はないね』


 たくさんの声が聞こえてきた。これって、精霊様同士の会話を盗み聞きしてるの?


(そんなことしていいの?)



『さっきの説明を忘れたか? 精霊ノキ様が身体を与えられた魂だ。移民の奴隷だったらしい』


『えーっ? あの移民が魔物になったの? 侵略されちゃうよ。精霊は全部殺されちゃうよ!』


『あのなー。魂だけを呼んだ異世界人が使役しているんだから、そんなことになるわけない』


『そうだ、精霊ノキ様が守護精霊なんだぞ』


『あの移民が魔物になって、別の異世界人の武器になったんでしょ? 別の異世界人が、この世界を乗っ取るのよー』


(なんか、話が混乱してる)


 精霊様同士がケンカしてるのね。その声を、ゲネト先生が魔道具を合体させて私達に聞こえるようにしたのか。




「なぁ、みかん。この声は精霊なのか? 頭の悪い精霊が混ざっているから、話がややこしくなってるぞ」


 みっちょんが、的確な指摘をした。


「うん、精霊様同士の話し合いみたいだね。頭が悪いというより、私達のようなゲームユーザーだった転生者と、メリル星からの移民って、区別つかないんじゃない? どっちも、この世界の精霊様から見れば、異世界人だもの」


「ふぅん、だけど私の守護精霊が、頭の悪い精霊がたくさんいるって言ってるぞ。メリルにだまされてる精霊もいるみたいだ」


 みっちょんがそう話したとき、魔道具から聞こえていた声がピタリと消えた。


(精霊様たちに、バレた?)



「みかん、バレたんじゃなくて、アタシがバラした。今、責任者を呼び出してる」


 ノキが、不機嫌そうな顔で仁王立ちしてる。


 チビっ子の仁王立ちはかわいいんだけど、カメキチに集まっていた光が揺れていた。守護精霊になる前の光には、ノキの仁王立ちは恐ろしいみたい。




『お待たせいたしました。精霊ノキ様、そして、ミカン・ダークロードさん』


 しばらくすると、仁王立ちのノキの前に、水の精霊っぽい美しい女性が現れた。人の姿をしているけど、透き通っていて、神秘的なオーラがある。


「精霊ウンディーネ! 棲家を決めろと言っただけなのに、なぜこんなに時間がかかるのだ? 頭の悪い精霊が多すぎる!」


(精霊ウンディーネ様!? ひぇ)


 精霊ウンディーネ様といえば、水を司る精霊の中のトップだ。確か、この世界では、精霊主さまの下に四大精霊がいて、精霊ウンディーネ様は、その四大精霊のひとりだ。



『申し訳ありません。私が出向く必要はないと任せていたら、時間がかかっていますね。精霊ノキ様が器を与えられた魔物は、あれですか』


 精霊ウンディーネ様が、カメキチに近寄っていく。そしてカメキチを調べているのか、そっと触れた。


「カメキチだ。この海底ダンジョンは、主要なほとんどの場所をメリルから来た異世界人に占領されている。ベルメの海底ダンジョンを完全に奪われると、ザッハの孤島も、力を失うぞ! おまえがサボっているからだ、精霊ウンディーネ」


 ノキが、めちゃくちゃ偉そうなこと言ってる。相手は、大精霊様なのに。



『ここには力の強い精霊が複数いるので、安心して任せていましたが、どうやら、移民が王族の力を封じた影響が出ていますね』


 精霊は、もともと王族の願いから生まれたから、王族が弱ると、精霊も弱るんだっけ。だから、今回の10周年イベントでは、ゲームユーザーを利用して魔石を集めさせている。


「その話さえ、この世界の多くの住人が忘れている。紅茶病のせいだろうな」


(えっ? 紅茶病?)


 ノキの言葉で、りょうちゃんがハッとしているのが見えた。彼は、紅茶病で奥さんを失ってから、ずっと紅茶病の研究をしている。


『移民が持ち込んだ植物のお茶ですね。それ自体には毒性は無いようですが、なぜか奇病が発生してしまいました。マナの流れを阻害することで、人間の寿命を極端に縮めてしまうようです。ただ、移民の間には、この奇病は起こっていません』


「おまえはまだ、そんなことを言っているのか。紅茶病は、メリルによって作られた病だ。現地人の女性が若くして命を失い、メリルの女性が貴族社会に深く入り込んでいるだろう?」


 ノキの言葉に、皆は固まってしまった。



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