124、影武者さんが笑った!
『やっと、修復できたぞ』
(ん? ノキ? 何の修復?)
『メリルの奴隷の魂だけ捕まえてただろ? その魂が入る器の修復だ。この世界のマナを混ぜたから、見た目は変わったけどな』
私の左腕から伸びていた透明なえのき茸が、キラッと光った。そういえば、暗い表情の人の自爆前に、ノキがえのき茸を伸ばして、その人に巻きついてたっけ。
(ノキが助けたの? でも、メリルの人の姿が見えないよ。自爆して死んで幽霊になったってこと?)
『いや、死んでない。メリル星の奴隷は、死ぬと魂まで消えるからな。魂に自爆の魔法が仕組まれているから、奴隷は絶対に逆らわないんだ』
(ひどい……でも、さっき爆発したよ? 魂が消えたんじゃないの?)
『アタシを誰だと思ってるんだ? 自爆の魔法は解除できないから、魂から外し臓器に移した。さっきの爆発は器だけの爆発だ』
(ノキ、話が難しいよ。結局、助かったの?)
『はぁ、みかんは本当に魔法の仕組みが苦手だよな。魂のような不安定な形のものに施された魔法は、似た属性の物質に移すことができるから、臓器の一部の形をゲル化して……」
(もう、ノキ! そんな説明は求めてないよ。私にわかるわけないじゃん)
『みかん、もう少し、学ぶ姿勢が……』
(お説教はいいよ。今、非常事態だよ? 結界に閉じ込められてるのに)
『ほら、結界があるということは、奴隷が死んでない証だろ? 一応、理解できてるじゃない』
(全然、意味わかんない。あっ、そういえば、結界は命と繋げたか、とか何とか言ってたっけ?)
その後、ノキは姿を消したから、意味不明なままだけど。
『あぁ、アタシの知らない術式だ。命を代償にするから、たいした魔力が無くても絶対防御の結界になるんだ。この結界は、中からは砕けない。内側の強度はどんな爆発にも耐えるからね』
(えー、じゃあ、ずっとこのまま?)
『いや、外から見れば異常な球体だろうから、そのうち誰かが気づく。中の様子が見えないだろうからな』
(普通に結界の先が見えるのに? 透明じゃないの?)
『中にいる者はすべて殺されるはずだから、外側にだけ目隠しの結界が重ねられている。外側の結界は奴隷が持つ魔力だけのものだろうが、命を代償にした絶対防御結界との作用によって……』
(ノキ、話が難しすぎて、頭痛くなってきた)
『はぁ……仕方ないな』
ノキはそう言うと、私の目の前に姿を現した。白いふわもこの姿だ。私が手を伸ばすと、腕の中にすっぽりと入ってくる。
(うーん、癒される〜)
私に撫で撫でスリスリされても、ノキは、されるがままになってる。その困った顔も、最強にかわいい〜。
「みかん、それが守護精霊の本来の姿なのか?」
私が撫で撫でむにむにとノキのふわもこを堪能していると、影武者さんがそう尋ねてきた。彼の表情は、穏やかに見える。私との勝負の件は、たぶん本気にしてないだろうけど、彼の目は、わずかだけど輝きを取り戻している。
「うん、そうだよ。小型のうさぎみたいでしょ? 最強にかわいいの」
「ふっ、そう言うおまえの方が、最強にかわいい……いや、なんでもない」
「へ? 何て言った? 最後の方、よく聞こえなかった」
「ぬいぐるみに満面の笑みを浮かべる親戚の子供みたいだと思っただけだ」
「ん? 私は子供じゃないよ?」
「ふぅん、あっそ」
影武者さんは、何か、はぐらかしたみたい。まぁ、いいけど。あっ、最強にかわいいノキを触りたいのかな? でも、ノキは嫌がるよね。
ガキッ!
通路の方から、鈍い音が聞こえた。
ガキガキッ! ギギギッ!
「何の音だろう? 何も見えないけど」
私の腕の中にいるノキは、全く警戒してない。しばらくすると、音は聞こえなくなった。
「やっと、空の星が気づいたんじゃねぇか?」
「でも、誰もいないよ? 音は聞こえなくなったね」
「力尽くでは壊せないんだろ。結界破壊の魔道具を仕掛けてるのかもな。向こうの姿が見えないのは、これが多重結界だからだ。防御結界だけなら、ここまでの透明度はない。石を砕いた強度から推察すると、複数の結界を重ねて、しかも何かを媒介にしてマナを反転させて……」
「影武者さん、それ以上難しい話をしないで。私の頭が爆発するよ」
「は? おまえ、ユフィラルフ魔導学院に通ってるんだろ? しかも優秀な成績だと聞いたぜ? 今のは、冒険者ギルドで教えている基本的な魔法学の話だ」
「魔法学は苦手なの。魔法学だけはテストに受からないから単位が取れない」
「は? あはは、あはははっ。剣士貴族のダークロード家のお嬢ちゃんが、無理に魔法学校に行くからじゃねぇの?」
「ひどーい! 魔法学って、物理学とか数学とかを複雑に混ぜてて、ありえなくない?」
「物理学? 中2レベルの物理じゃねぇの?」
「物理と化学と数学全般は、捨ててたもの」
「あはは、マジかよ。あははは」
(嘘! 影武者さんが本気で笑ってる)
私がムスッと不機嫌な顔をして見せると、彼はさらにゲラゲラと笑ってる。失礼すぎない? でも、笑うことができるようになって、よかった。
『あぁ、やはり、アイツらが来たか』
(ん? ノキ、何?)
『ふっ、まぁ、アイツらレベルじゃないと、結界は壊せないだろうな。このアタシが奴隷の魂を保護しているからな』
何だか、ノキがドヤ顔をしてる。そんなドヤ顔も最強にかわいいっ! 私は、撫で撫での手が止まらない。
通路の方から、いろいろな色の光が見えた。魔法の光みたいだけど、姿は見えない。
(あっ! いっぱい居る!)
その光が結界を覆った後、結界がキラキラな光に変わった。マナに変換されたみたい。そのキラキラとした光がゆっくりと下に落ちると、通路にたくさんの人の姿が見えた。
「大丈夫か!?」
真っ青な顔をしたりょうちゃんが、私の方に駆け寄ってきた。本気で心配してくれていたのが伝わってくる。
「りょうちゃん、大丈夫だよ」
「だが、すごい血だ……。あぁ、彼の血か。影武者さん、回復は……」
「あぁ、アンタか。俺は問題ない。みかんがスポンジの木の新芽を持っていたからな。アンタが結界を壊したのか? いや、マナに変換したような……」
「私ひとりでは不可能だよ。シャーマンとの融合魔法だ。この結界内で生き延びることができたのは、キミ達だけだよ」
りょうちゃんは、私達に何かの魔法を使って、やっとホッと安心したみたい。たぶん、サーチ魔法ね。
「ったく何をしてるんだ? しかも、変な魔物を作ったな」
ゲネト先生は、そう言うと、壁の方をジッと見ていた。
(変な魔物?)




