123、影武者さんの前世の話
「えーっ? 何それ!」
(犯罪じゃない!)
「俺の方が、何それって言いたい気分だぜ。原因がわからなかったから、この世界に転生してきたときは苦しかった。まぁ、原因がわかっても納得なんてしない」
「当たり前だよ! 普通に犯罪だもの。お兄さんは逮捕されたの? あっ、わからないか」
私、何を聞いてるんだろ。殺された彼が、その後のことなんか知るわけないのに。
「いや、捕まらねぇだろ。たぶん俺の死体は見つからない。海に捨てられたからな。魚のエサになったんじゃねぇか」
(あれ? 知ってた)
「影武者さんは、その情報をどうやって知ったの? あっ、担当した神託者さんから聞いた?」
「は? 神託者なんて信用できるわけないだろ。『フィールド&ハーツ』をしていた仲間と、こっちで会ったんだよ。俺の1年後くらいにこっちの世界に来たが、俺が行方不明になった後、いろいろ捜してくれてたらしい」
「そうなんだ。私が派遣で働いてた会社も、社長の息子が大金を持って消えたって言ってた。そういう事件があるから、それを利用しようとする腹黒い人もいるのね。あ、ごめん、お父様だよね」
「ふぅん、よくある話なのかもな。あまり表面化されないだけで。親父の会社は、完全に親父と兄貴が私物化してたぜ。何でも会社の経費にしたり、株で損をした穴埋めに会社の金を使ってたからな。世間的には、社会福祉もしてるホワイトな会社だと思われているから、ムカつくんだよな」
「そっか。私が派遣で働いてた会社も、ホワイトなイメージだったよ。だけど、その社長の息子が大金を持って海外に逃げたから、私達は派遣切りされたんだよね」
「バカ息子がいると、善良な会社も悲惨なことになるんだな。ウチの兄貴みたいな殺人者が真似するわけだ。○○○って会社、知ってるか? さっさと潰れろって思うぜ」
(ん? その会社って……)
「ちょっと待って。それ、私が派遣で働いてた会社だよ?」
私がそう言うと、影武者さんの表情が驚きに染まった。
「マジかよ? ○○県にある?」
「うん、最寄駅は、○○○駅」
(彼が、甘やかされて育った社長の息子?)
そういえば、どこかの支店長が社長の長男だったっけ。あの日、大金を持ち逃げしたのは後妻の子だと、他の派遣の人が噂していた。
「そうか。みかんは、そのせいで派遣切りか。災難だったな。親父の会社は倒産したか?」
「私は派遣だから、仕方ないんだけどね。契約の更新ができないと言われた日に、人材派遣会社に行って嫌な思いをしたよ。その帰りにバス事故に遭ったから、会社のその後はわからない」
「派遣切りがなければ、みかんは寄り道をしなくてバス事故にも遭わなかったってことか。全部、親父と兄貴のせいだ。すまない」
影武者さんは、なぜか私に、深々と頭を下げた。
確かにバス事故には遭わなかっただろうけど、その55日後に私は自殺するんだよね……。りょうちゃんが関わる隙がなかったら、私はこの世界には来られなかったかもしれない。
「影武者さんは悪くないよ。それに、今、私達は『フィールド&ハーツ』の世界に転生したんだからさ。この世界を助けてあげられたら……」
「あぁ、わかってる。そのために俺達が呼ばれたこともな。だが本当に、俺は頭が狂いそうなんだよ。こっちに来てからずっと、俺は死に場所を探している。いや、悪い。エリザの妹の方が過酷なのに……」
(お兄さんに殺されたんだもんね……)
そしてグリーンロード領に転生した今もお兄さんがいて、虐げられているなら……救いがない。
私の場合は、姉のエリザに溺愛されているから、前向きになれたのだと思う。姉は絶対的に味方だし、信用できる使用人もいる。さらに、時雨さんやみっちょん、そして、りょうちゃんもいる。
そうか。だから、影武者さんは暗殺ばかりしてるんだ。前世の憂さ晴らしもあるかもしれないけど、死に場所を探しているのか。
彼が倒れる前に言った言葉は、あまりにも寂しくて、あまりにも優しくて切ない。影武者さんは、必死に生きる居場所を探してるんだと感じる。
「悪りぃな。暗い話になっちまった。気にすんな。こっちにきて、もう5年以上になるから、さすがに慣れた」
「えっ? 私はまだ4年ちょっとだよ? 計算が合わない」
「何の計算だ?」
「私は、この世界に転生してくる直前に、社長の息子が大金を持ち逃げしたって聞いた……あっ、もしかして……」
(すでに殺されていたの?)
「あぁ、その計算か。俺が兄貴に殺されて1年くらい経ってから、俺が公表しようとした横領が明るみに出たみたいだな。こっちに来た仲間は、ネットニュースを見たって言ってたぜ」
「そうなんだ。そのお仲間さんは、私と同じ時期に、この世界に来たのかもね。私、会ったことある? ユーザーミーティングにいた?」
私がそう尋ねると、影武者さんの目つきが変わったように見えた。動揺しているのか、気分を害したのかはわからない。
「エリザの妹と会ったという話は聞いたことなかったな。アイツは、この世界に来て、俺に会ったせいで殺されたからな」
(えっ……ちょっと……)
「ごめん、変なことを言った」
「いや、気にすんな。この世界は、そういう世界だ。弱肉強食だろ?」
私は、その人がなぜ亡くなったのか、聞けなかった。彼が自分のせいだと言っていることが事実なのかはわからない。でもこれ以上、立ち入るべきではない。
「ははっ、また暗い話をしちまったな。空の星が、俺達が結界に閉じ込められていることに気づかないせいだ」
(また、自嘲気味に笑う……)
私は、彼を放っておけないと思った。同情なんかされたくないだろうけど、あまりにも彼の人生はハードすぎる。
記憶の引き継ぎをしたのも、きっと、彼はこの世界での新たな人生を期待したからだと思う。こんなことになるなら、前世の記憶がない方が、影武者さんは幸せだったよね。
(今の私にできることって、ないのかな)
「影武者さん、私と勝負しない?」
「は? 何の勝負だよ。前世のハードさは俺の勝ちだろ?」
(乗ってきたね)
「前世じゃなくて今の勝負よ。1年後、どちらが強いかの勝負」
「はぁ? おまえ今、いくつだよ? 俺は19歳だぜ? あまりにも体力差があるじゃねぇか」
「今、9歳だよ。だけど中身はアラサーだからね。それに剣を授かったから、これでも成人なのよ」
「ふぅん」
影武者さんは興味なさそうな返事をしたけど、彼の目からは、虚さが消えた気がする。死に場所を探さない理由になれたらいいけど。




