118、カードに特殊能力が記載されてる
「なぜ、夕方以降だと断言でき……あー、確かにそうか」
さっきまで目を吊り上げていた影武者さんは、空の星さんの説明で納得したみたい。だけど、私にはさっぱりわからない。
「時雨さん、どういうこと? メリル星の異世界人は夜行性なの?」
私は小声で時雨さんに尋ねたのに、彼らにも聞こえたみたい。
「みかんさん、メリル星の異世界人は、ユーザーを邪魔してゲームをサービス終了に追い込む気だろ? 朝から昼間にかけては無課金のライトユーザーが多いけど、夕方から深夜にかけては課金者が増えるからな」
「課金の有無って、サービス終了と関係あるの?」
私がそう聞き返すと、説明してくれた空の星さんは、少し困った顔をしてる。
「おまえなー。運営は、課金者がいなきゃ成り立たないだろーが。ゲームはタダじゃないんだぜ? 課金者が離れてしまえば、サービス終了に追い込まれるだろ」
(影武者さん、怖いな)
そっか。彼らは当たり前の一般論を話してる。たぶん『フィールド&ハーツ』は課金者がいなくても、サービスは終了しない。終了するのは、ユーザーがいなくなるときだと思う。
でもこれは、りょうちゃんから聞いた話で、私がそう思っているだけかもしれないけど。
「影武者、おまえは言い方がキツイんだよ。ほとんどのユーザーは無課金なんだから、運営の収益構造は知らないんだよ」
「ふん、あまりにも無知だな」
(いや……まぁ、そうね)
確かに、課金者が運営を支えているのよね。
「だが無課金者がたくさんいることで、課金の意味が出てくるんだから、そんな言い方をするなよ」
空の星さんは、正義感が強くて、ちょっと先生っぽい所もある。神殿の人だからかな。
「何をケンカしてるのー。また、影武者?」
ベティさんが合流すると、ガラッと雰囲気が変わった。彼は、今日は紺色のリボンでツインテールにしているけど、服装はワンピースではなく、冒険者風の軽装だ。でも、やはり女の子にしか見えないけど。
「は? 無課金者の無知を……イテッ」
影武者さんの頭を、みっちょんがパチンと殴った。
「いつまでも過去の栄光でマウント取ろうとしてんじゃねぇよ。この世界では強い人が偉いんだからな」
(いや、みっちょん……)
この世界では身分差が激しいから偉いのは……いや、今は冒険者のミッションとして、メリル星の異世界人を排除するから、強い人が偉いで正しいか。
「みっちょさん、正論だね。強い者が偉いのは正しい。冒険者ランクのことじゃないよ? 海底ダンジョンではランクは関係ないからな」
空の星さんは、影武者さんを牽制したみたい。影武者さんは、Aランク冒険者らしいもんね。
「チッ、とりあえず、みんなカードを出せや。6人でウロつくより、3人ずつに分かれる方が効率がいい。海底ダンジョンの海からの入り口付近と、地下2階層に、待ち構えやすい場所があるからな」
影武者さんがそう言うと、みんなカードを出している。それを見て、組分けするつもりみたい。
(私、恥ずかしいよね)
「みかんちゃんも出して。名前を気にしてる? みんな、みかんちゃんの家名は知ってるよ」
時雨さんにそう言われては、拒否できないか。私は、手にカードを出して見せた。
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【称号】名を授かりし者
【名前等】ミカン・ダークロード(9歳)
【総合レベル】 91
【冒険者ランク】 C
【商業者ランク】 B
【製造者ランク】 S
【特殊能力等】 創造者
────────────────
久しぶりに見たけど、かなりレベルが上がってる。商業者ランクや製造者ランクは、メラミンスポンジの影響だと思う。特殊能力がついてるのも、メラミンスポンジのことかな?
「みかんちゃん、もうすぐプラチナカードね。すっごく早いね」
「ん? たぶん、製造者ランクの影響だと思うよ」
なぜか、みんな私のカードに釘付けだった。製造者ランクがSランクだからかな。私が……というか精霊ノキが、メラミンスポンジを作っていることは、時雨さんとみっちょんは知ってるはずだけど。
「みかんの製造者ランクは、100均だろ? 創造者って何? 100均の発明?」
(みっちょん……)
私は、他の3人にはメラミンスポンジのことは、知られたくないんだけどな。
「私も久しぶりに見たから、特殊能力は今初めて気づいたよ。今度、ギルドマスターに聞いてみる」
すると、空の星さんが口を開く。
「みかんさん、創造者という特殊能力は、守護精霊や加護が強いことを差してるんだよ。カードは身分証として使うから、重要なことは言葉を変えて記載するんだ」
「へぇ、すごく詳しいのね。あっ、そっか、神殿の人だから」
「それもあるけど、ランカーは皆、知ってるよ。情報は何より重要だからな。創造者は、見つけたら味方にするべきだね。でも、複数所持者には気をつけないといけない。欺く能力が高い」
「えっ? 複数所持者って……」
(りょうちゃんのことだ)
「おい、それって、りょうのことか?」
みっちょんは、隠し事ができない。
「みっちょさん、その人って何者?」
「りょうは私達のフレンドで、しんた……じゃなくて、えーっと、とりあえず、りょうはりょうだ」
みっちょんが神託者だと言いかけたのを、慌てて時雨さんが小突いて止めた。
「ふぅん、フレンドか。じゃあ、ソイツは無害だろ。ヤバイ複数所持者は、そのことを隠すからな」
コミュ障なはずの影武者さんが口を開いた。
「りょうは、ヤバくないぜ。ちょっとニタニタするキモイところがあるだけだ」
(みっちょん……)
「ヤバイ複数所持者は、身体の複数所持者だ。どれが本体かわからないくらい高性能なダミーの身体を操る。忍者の分身の術どころじゃねぇぜ」
(ん? 何か変だな)
りょうちゃんは複数所持者だけど、その見た目はすべて異なる。影武者さんの話は、まるでクローンのように聞こえた。あっ、複数所持者にはいろいろなタイプがあるんだっけ。
「影武者、その複数所持者ってのは、身体が増える分身のことか? それとも、カードの複数所持者か?」
「は? カードは一人一枚だろ? 何を言ってんだよ」
「影武者、それは有益な情報だ。メリル星の技術で、クローン人間を造ってるんだな。だから、どれだけ斬っても異世界人が減らないのか」
空の星さんは、なぜか私を真っ直ぐに見たあと、他の人達をぐるりと見回した。
「2人ずつ3組に分けよう。メリルを潰す組、メリルを欺く組、そしてメリルを集める組だ」
彼は、意味ありげに、ニヤッと笑った。




