117、サラとグラスの関係が気になるミカン
「ミカン様ぁ、素敵なお皿をたくさん買えましたよ〜。不思議なお魚も、忘れずに買いましたぁ」
豪華客船を降りると、港ではサラとグラスさんが待ってくれていた。サラは、とても機嫌がいい。グラスさんの表情も、やわらかく見える。
(デート作戦は成功かな)
「サラ、グラスさん、ありがとうね。
「ミカン様、食器の店が、工房にある転移魔法陣を自由に使ってくれていいと、利用許可証を渡してくれました」
「へぇ、それを使って定期的に買い物に来てくださいってことかしら。商売上手ね」
私がそう言うと、グラスさんは軽く頷いた。でも、サラは……。
「ひぇぇえ、そんな思惑が隠されていたのですかぁ。サラは、とっても親切な商人さんだと思ってましたよぉ」
(ふふっ、サラらしい)
「サラ、もちろん親切な商人でもあると思うよ」
「よかったですぅ。サラが騙されたのかと焦りましたぁ」
(いやいや、サラ……)
そんなサラに、グラスさんはため息をつきつつも優しい目を向けている。うん、いい感じね。危なっかしいサラには、グラスさんみたいな人がついてないとね。
「ミカンさん、明日はどこの転移魔法陣を使う?」
「ユフィラルフ魔導学院のギルド出張所を使うつもりだよ。時雨さん、待ち合わせする?」
「そうね。でもユフィラルフの町では、ミカンさんは付きまとわれるよね」
(あっ、そうだった)
「確かに、学校の前では待ち構えてるかも」
「グリーンロードの冒険者ギルドを使うのは難しい? あの草原は、今は弱い異世界人ばかりだけど、少し前よりは通りやすくなったはずだよ」
始まりの草原か。もうすぐ『フィールド&ハーツ』の正式オープンだから、今いる人達はプレオープンのユーザーだけだもんね。
イベントのときはいろいろな年代と結ぶから忘れそうになるけど、10年の時差がある。ベルメに来るのは10周年イベントのベテランユーザーだけど、始まりの草原にはプレオープンのユーザーがいる。
「それなら、自分が迎えに行きましょうか?」
私達に声をかけてきたのは、空の星さんだった。見た目は性別不明だけど、サラ達には女性に見えているかな。船では、女子会をしていたと思ってるはず。
「転移魔法が使えるの?」
「ええ。一応、ザッハの孤島にある神殿の者ですからね」
空の星さんは、私の使用人に聞かせるつもりで、こういう言い方をしたみたい。神殿の人と聞いて、サラが目を輝かせている。
「じゃあ、ミカンさんのアパート前で待ち合わせましょうか。ユフィラルフ魔導学院近くの貴族専用のアパートよ」
(えっ? それでわかるの?)
「あぁ、いい場所ですね。シグレニさんも行きやすいでしょう。では、明日の夕刻に。自分の守護精霊に到着時間の連絡をさせますね」
そう言うと、空の星さんは手の上に、星の形の光を出して見せた。本当に絵に描いたような星の形をしている。
「わっ、聖職者の加護! ハッ、し、失礼しましたぁ」
サラが叫んだ後に、口を手で覆ってる。そんな彼女の行動に、空の星さんは優しい笑みを向けた。でも、必死に笑いをこらえてるみたい。
(サラってば……)
私達は、みっちょんの村から、ユフィラルフの町に戻った。
◇◆◇◆◇
「ミカン様ぁ、お弁当は何人分にしましょうかぁ?」
翌朝、遅めの朝食を食べていると、サラが張り切って……ちょっと空回りしていた。
「お弁当?」
「はいっ! ミカン様たちは、夕方から夜明けまでの見回りミッションなんですよね? 一緒に行動される他の皆さんの分も、お弁当がある方がいいですよね」
ベルメの海底ダンジョンで、お弁当なんて広げてられないと思うけど。
「サラさん、ピクニックじゃないんですから、冒険者は携帯食しか食べませんよ? 食べるとしてもパンぐらいじゃないでしょうか。匂いは魔物を呼び寄せてしまいますからね」
「でも、昨日の不思議なお魚もありますし、海底ダンジョンで朝までなんて過酷すぎますぅ。夜になると、すっごく寒いですよぉ」
「ミカン様には精霊ノキ様がついているから、大丈夫ですよ」
「でもでも、お腹が減っちゃうじゃないですかぁ」
(やだ、ケンカしてるよ……)
二人とも、私のことを考えてくれているのは、よくわかる。でもサラはあまり冒険者をしてないから、こういうときの価値観は少しズレてる。
だけど、サラのこの顔は……絶対にひかないよね。
「じゃあ、サラ。歩きながらでも食べられる弁当を考えてよ。一緒に行動するのは6人だよ」
「わかりましたっ! 考えますっ」
「私は少し昼寝するね」
グラスさんにチラッと視線を移すと、思いっきり頷いてくれた。私のサラへの対応が上手かったってことかな。
◇◇◇
「あれ? みかんちゃんが魔法袋を装備してるのは珍しいね」
夕刻、星の形の光が知らせに来た後、アパートの前まで出て行くと、既に時雨さんと空の星さんが待ってくれていた。
「遅くなってごめん。これは、侍女が持たせてくれたお弁当なの。サンドイッチとシチューだって。6人で行動すると言ったのに、軽く3日分はありそう」
「へぇ、深夜の海底ダンジョンが寒いからかな? 結界を張れば食べられるから助かるね」
(あっ、結界か)
時雨さんは、いろいろな魔道具を持っているもんね。ベルメのヘソに行かなくても、結界を使えば確かに安全に食事ができる。
「では、待ち合わせの港町に行きますか」
私達は空の星さんの転移魔法で、みっちょんの村へと移動した。
◇◇◇
「遅いぞ。おまえら」
(わっ、影武者さんが怒ってる)
「そうか? まだ早いくらいだろ」
空の星さんがすぐさま反論してくれた。私が遅くなったのに、それは伏せてくれている。
(いい人だな)
「何が早いんだ? もう、他の奴らは、朝から潜ってるぞ。なぜ夕方からなんだよ」
私も、それは疑問だった。
この世界に転生してきたゲームユーザーである私達に、ゲネト先生はまるでイベントのように、ミッションを課した。
テーブルごとのチーム戦で、その成果によって報酬を出してくれるらしい。冒険者ギルドの経験値も入る。
こうすることで、私達は積極的にメリル星から来た異世界人を排除しようと動くし、ゲームアバターが10周年イベントを進めやすくなる。
ゲームで追加された特別ミッションは、メリル星の異世界人が設置した魔物が出る壺の無力化と、監視用のくっつき貝の排除。こうやって、ゲームユーザーを利用するのね。
「影武者、メリル星の異世界人が本格的に動くのは、夕方以降だからだよ。効率重視でいこうぜ」




