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114、ベルメ海岸へ戻る

「遅かったな」


 私達がベルメ海岸に戻ると、ゲネト先生が不機嫌そうな顔で出迎えてくれた。たぶん、不機嫌そうな顔を作っているだけだと思う。ゲネト先生の目は怒ってないもの。


 ライネルスさんが脱出魔法という転移魔法みたいなものを使ってくれて、私達は不思議な体験ができた。たぶん海竜のチカラなのだと思うけど、海竜に触れた私達が透明になって、すべての障害物を無視して浮上する魔法だった。


 浮上するスピードはそれほど速くはなくて、アトラクションに乗っているみたいで楽しかったな。



「僕が、ガツンとやられましたからね」


「む? 自慢のメガネも無いようだな」


「壊れたから、ベルメのヘソに置いてきましたよ。おそらく、彼らは僕の死体を探しに来るだろうからね」


 レグルス先生とゲネト先生の会話は、私達だけでなく、他の学生達にも聞こえている。


(いいのかな?)


 彼の素性は、学生にはバレてるのだろうか。ユフィラルフ魔導学院の、いわゆる大学みたいなクラスだから、王族の人もいるのかもしれないけど。




「レグルス先生、酷い怪我だったんですね。何かの罠を踏んだと聞きましたが、血まみれですよ」


「あぁ、そうなんだ。変な魔法陣に引っかかってしまってね。ライネルスさん達と分断されたんだよ」


 あの人達は、レグルス先生のクラスの学生かな? 彼らは、ライネルスさんにも話しかけてる。他にも、海岸には多くの学生が集まっていた。


(そっか、だからそのままだったんだ)


 彼が、血の跡を洗い流さなかったのは、このためだ。遠くにいる人達にも、何が起こったのか一目瞭然だもんね。


 たぶん海岸で、ずっと待たされていたのだと思う。異世界人のサポートのために来たのに待ちぼうけでは、その理由を知りたくなるもんね。



「それで時間がかかったんですね。その罠は、レグルス先生ではなく、ミカン・ダークロードさんが狙われたのかもしれませんね。ブライトロード家には……あ、いや、何でもないです」


 学生は、ギルドマスターの方をチラッと見ると、話を途中でやめてしまった。彼も、リンツさんがギルドマスターだとは気づかないみたい。ブライトロード家の魔導士だと思ってるよね。


「いや、僕が狙われたみたいだよ。僕がやっている研究を嫌がっている人達だろうね」


「あぁ、紅茶病の研究ですね。俺の母親も紅茶病で亡くしたから、レグルス先生の研究は応援してますよ。ブライトロード領にある茶畑農家としては、妨害したくなるだろうけど」


(紅茶病の研究かぁ)


 レグルス先生のクラスの学生達は、皆、彼を応援しているみたい。ということは、彼の素性がバレてるわけじゃないのね。




『15組、集合だ』


(痛っ!)


 まるで頭をガツンと殴られたような音の響き。ゲネト先生の念話ね。思わず私は睨んでしまったみたい。


(わざとか……)


 ゲネト先生は、ニタニタと笑ってる。ほんと、この性格、なんとかしてほしいよ。


 ゲネト先生がいる方へと、15組の人と護衛が集まっていく。だけど、頭を押さえている人が多い。さっきの念話のせいね。


(たぶん、これは私に……)


 ゲネト先生が何を企んでいるかは不明だけど、私に文句を言って欲しいのだということはわかった。



「ゲネト先生、さっきの集合の念話は、何なんですか。暴力付きの念話なんて、聞いたこともないですよ」


 皆が集まったところで、私がそう文句を言うと、ゲネト先生は嬉しそうにニヤッと笑った。


「暴力付きの念話? 俺は、ただ大声で知らせただけだぞ?」


「普通に知らせてください。頭痛いです。暴力ですよ」


「ミカンさんは、デリケートなんだな」


 そう言いつつ、ゲネト先生はクラスの人達の方に視線を向けている。何かをサーチしてるみたい。私は、それをごまかすために、利用されているらしい。



「それで、大声で集めた理由は何ですか?」


「ん? 暴力付きの念話の実験だ」


(はい? ほんと、ゲネト先生の悪い癖ね)


「ゲネト先生、怒りますよ?」


「ククッ、いいね。ミカンさんの守護精霊にどこまで通用するのか、手合わせしてみたいと思ってたんだ」


 ゲネト先生の今の言葉は嘘だ。ノキの悪意探知器は、彼に全く闘争心がないことを教えてくれる。学生やその護衛達の心を揺さぶって、何かをサーチしてるのだろう。


「いいですよ。ゲネト先生は、私の守護精霊と戦ってみますか」


 私がそう返すと、ゲネト先生は少し驚いた顔をしている。


「いや、今はやめておこう。はぁ、びっくりした」


(私で遊んでるよね)




 ゲネト先生は突然、何かを空に放り投げた。


(グループ分けのスカーフかな)


 私の手には、紫色のスカーフが落ちてきた。他の色を取ろうとしたのに、まるで意思を持つかのように赤いスカーフに逃げられた。


「スカーフは取ったな? 明日から日替わりで、赤、青、紫の順の交代制で海底ダンジョンの見回りをする。担当の日は、必ずスカーフを身につけて海底ダンジョンの海底入り口に集合だ。それ以外の日は自由行動。冒険者ギルドの出張所が、そっちの海辺の漁村に開設されたぞ」


(海辺の漁村って……みっちょんの村?)


「それっていつまでですか」


「明日から9日間だ。その間は学校は休みだから、冒険者ランクを上げたい人にはチャンスだぞ。今日は、これにて解散。以上だ」


(また、現地解散だよ)



『フィールド&ハーツのユーザーミーティングをするから、関係者は、海辺の村の船屋に集合だ』


(これは普通の念話ね)


 ゲネト先生は、もう姿を消していた。




「ミカン、血だらけだけど、大丈夫か?」


 レオナードくんが心配そうな顔をして近寄ってきた。


「怪我はしてないよ。心配してくれてありがとう」


「なっ!? べ、別に心配なんてしてねぇからな。そんなことより、何色だ?」


(ふふっ、かわいい)


 レオナードくんは照れ隠しなのか、プンスカ怒ったような顔を作っている。


「私は、紫色だったよ」


「俺も紫色だったぜ。じゃあ、明日明後日は、俺達は休みでいいんだよな?」


「また一緒だね。うん、休みでいいみたい。でも異世界人は今日も……」


「ミカンがいない間に、大量の異世界人が海底ダンジョンに繋がる洞窟に入っていったぜ。今は海底ダンジョンはヤバいから、俺達は手分けして、異世界人に説明しておいたけどな」


(ゲームユーザーが洞窟に?)


「洞窟の案内の手伝いは?」


「なんか、宝探しするみたいだったから、俺達は不要らしい。海底ダンジョンへ繋がる道は、ゲネト先生が封鎖したようだ」


(よかった。10周年イベントは進んでるみたいね)



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