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106、みかんの告白

「りょうちゃんには、私の心の中が見えてるんじゃないの?」


 そう尋ねても、彼は私の顔をジッと見ているだけで、返事をしてくれない。いや、私の答えを待ってるのか。


(やっぱり、怒ったのかな)



 りょうちゃんが、気分を害するのは当然のことだ。ついうっかりイチニーさんの名前を出してしまった私が悪い。こんな大切な打ち明け話をしてくれているときに、婚約者が別の男性の名前を口にするなんて、絶対に感じ悪いもの。


 だけど、この場所は、イチニーさんとの思い出が強すぎる。水場を飛び回る精霊ノキを見ていても、この水の上を歩いていたイチニーさんの姿が、私の頭に浮かんでくる。


 こんな風に考えているだけで、りょうちゃんには、私の考えが見えていると思う。でも、彼は私の答えを待っているみたい。


(私、ほんとに気が多いよね……)




「りょうちゃん、私の心の声が聞こえているだろうから、嘘はつかないよ。でも、正直に話して、嫌われたら悲しい」


 そう答えると、彼はふわっと笑った。


「大丈夫だよ。たぶん私の方が、みかんちゃんに嫌われそうなことをたくさんしている。みっちょんにストーカーだと怒鳴られそうなこともね」


 りょうちゃんは、私を安心させようとしているのか、私達共通のフレンドのみっちょんの話を挟んだ。やっぱり優しいな。



「そっか、じゃあ話すよ。正直なところ、よくわかんないんだ。私って、気が多いみたい」


「この世界では、複数の人と生きる人も少なくないよ」


(あっ、そっか)


 セレム・ハーツ様は、既に何人かと結婚してるんだっけ。つまり、りょうちゃんには、何人かの奥さんがいるんだよね。


 そう考えていると、りょうちゃんは口を開きかけたけど、私に話の続きを促した。



「私、一番最初に恋をしたのがレグルス先生なの。この身体が5歳のときだから4年前だね。あんな感じのメガネ男子に弱いというか……あっ、こんな話をフレンドの頃に、りょうちゃん達にしたことがあったよね?」


「うん、みかんちゃんが好きな俳優さんを聞いたね。レグルスは、目は悪くないんだけど、みかんちゃんが気に入るかと思ってメガネをかけるようにしたんだ」


「えっ? そんなことを考えてたの?」


 そう尋ねると、りょうちゃんはちょっと苦笑いしてる。セレム・ハーツ様なんだよね? 王位継承権を持つ王族が、そんなことするの?


「ははっ、まぁね。みかんちゃんに気に入ってもらいたかったんだ。メガネが似合うと、友も言ってくれたからね。それで? レグルス以外に好きな人は?」


 なんだか、りょうちゃんがソワソワしてる。



「さっき話したイチニーさんだよ。彼は平民で名前がないって言ってたけど、嘘だったのね。カードには複数所持者って書いてあったから、誰かの分身かな? カードじゃなくて、称号の複数所持者かもしれないけど」


 そこまで話して、りょうちゃんの表情を見てみた。さっきのような鋭い視線は感じない。


「みかんちゃん、続けて」


(あっ、やっぱり怒ってるかも)


 でも、りょうちゃんに嘘はつきたくない。イチニーさんのことを、私の口から聞きたいんだと思う。


「イチニーさんとは、ユフィラルフ魔導学院の初等科で会ったの。りょうちゃんも、レグルス先生のときに会ったことあるかも。ちょっとチャラいんだけど、とても真っ直ぐな人でね。始まりの草原で襲撃者に殺されそうになったときに、身を挺して守ってくれた。転移事故でベルメの海に落ちたときも守ってくれた。それに真っ直ぐに私に気持ちを伝えてくれて……身分差があるとわかっていても、好きになっちゃうよ」



「そう。その他には?」


 何だか、りょうちゃんの様子がおかしい。当たり前だよね。婚約者のこんな話、聞きたくないよね。


(あっ、婚約者!?)


 私、りょうちゃんの婚約者なんだ。今更ながらだけど、ジワジワと実感してきた。でも、私には拒否権はないってダークロード家の当主は言ってたけど、彼の方から婚約破棄はできるんだよね。


 私の気持ちは一気に上がった後、スーッと頭が冷えてきた。イチニーさんに対する私の気持ちも、きっと彼は正確に把握しただろうな。



「みかんちゃん、他に好きな人はいないの? これなら気が多いというほどじゃないよね」


 何だか、りょうちゃんは不安げにも見える。私の気持ちが浮き沈みしているからかな。


(あっ、言ってほしいんだ)


「あとは、りょうちゃんかな。ゲームユーザーだった頃、りょうちゃんは女の子だと思ってたけど、りょうちゃんみたいな性格の男性がいればいいなって思ってた」


「そっか、それで?」


(ちょっと嬉しそう)


「神託者の地位は、まだよくわからなかったけど、りょうちゃんは私達にフレンドとして接してくれたし、とても話しやすいし、一緒にいると落ち着くし気楽だなって思ってた。だから、イチニーさんのことは好きだけど、りょうちゃんとどちらが好きなのかはわからない。もちろんレグルス先生は、見た目は一番好きなんだけど」


 自分で話していて自分に呆れる。あまりにもストレートすぎる言い方をしてしまった。私、何様なの? 自己嫌悪だよ。



「みかんちゃん、ありがとう。他には?」


「へ? 他にはって?」


「みかんちゃんに好意を寄せている人達がいるでしょ? レオナードさんやカノンさん、それに15組には10人以上いるよね? ゲネトやリンツは?」


「りょうちゃん、何を言ってるの? 私の心の声は聞こえるんだよね?」


「隠されている心の声は聞こえない。シャーマンや高位の魔導士は隠せるじゃないか」


(ん? りょうちゃんが変?)


 彼の言葉が少し乱暴になった。



「私が好きな人は、3人だよ。でも、レグルス先生とりょうちゃんは同一人物だから、2人かな? レオナードくんは親しい友達だけど、私の感覚はアラサーだから11歳の少年に恋はしないよ」


「ゲネトは? 深く理解しているようだし、ゲネトが一人の学生をあそこまで信頼したことはない。リンツは? メラミンスポンジの件を任せるほど信頼しているのだろう?」


「りょうちゃん、どうしたの? 何か話し方が変わった」


 私がそう指摘すると、彼はハッとしたみたい。



「ごめん、みかんちゃん。私の嫉妬かもしれない。特にゲネトが、みかんちゃんを気に入っているから……」


「ゲネト先生? 私は便利にクラスをまとめるために使われているだけだよ? ノキのチカラには興味あるみたいだけど」



「そっか……よかった。頑張った甲斐があったよ」


 そう言うと、りょうちゃんは、手のひらに何かを出した。



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