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105、複数所持者のこと

「カードに嘘はないよ。説明する前に言っておく。私がダークロード家に婚姻を申し入れたのは、政略結婚ではない。純粋に、貴女と共に生きたいと思ったからだ」


 彼は、私を真っ直ぐに見て、そう言った。その表情に嘘がないことがわかる。私は、ジワジワと頬が熱くなってくるのを感じた。


「りょうちゃんは、なぜ……」


 彼が王族のセレム・ハーツ様だとわかり、だけど、彼は王族扱いされたくないこともわかった。


(今まで通りがいいんだよね?)


 とても無礼なことかもしれないけど、私は彼を、見た目通りの名で呼ぶことに決めた。あっ、こんなことを考えていると、りょうちゃんにはバレちゃうのかな。心の声が聞こえるって言ってたけど。


 そう思っただけで、りょうちゃんは悪戯っ子のような顔をしてる。やっぱりバレてるみたい。



「みかんちゃん、私は複数所持者なんだ。その意味も説明しないとね。複数所持者には、いろいろなタイプがあるんだけど、私はカードの複数所持者なんだよ」


「ん? 他にどんな複数所持者がいるのか知らないけど」


「そうだね。一般的には、称号の複数所持者だよ。何かを極めると称号が得られるからね。レオナードさんのようなシャーマン家には、称号の複数所持者が多いよ」


 そういえば、レオナードくんは、イチニーさんに複数所持者だったなとか言ってたっけ。シャーマン家では、よくあることなのかな。


「一般的には、ってことは、りょうちゃんは違うの? あっ、カードの複数所持者だっけ。称号を得て何かをすれば、カードがもらえるの?」


「やはり、みかんちゃんは賢いね。一番最初に得た称号が『名を授かりし者』だった場合、新たな称号を得れば、一定の条件を満たすと、新たなカードを作ることができるよ」


「名を授かりし者ってことは、貴族や大商人などに限られるのね」


 やはりこの世界は、身分差が激しい。


「すべての貴族ではないんだよ。この世界の現地人で、王族と血の繋がりがある者だけだ。つまり、他の星から移住してきた異世界人は、貴族でも複数所持者にはなれない」


「異世界人の侵略から守る仕組みなの? 確かに身分証が二つある方が、地位の高い人は安心だよね。でも見た目が……」


 どう見ても、りょうちゃんはセレム・ハーツ様とは別人だ。あのメリルという星から移住してきた襲撃者達は、レグルス先生を狙ったみたいだけど、りょうちゃんと一緒にいて襲撃されたことはない。




「みかんちゃん、ここから先の話は、レオナードさんも知らないことだ。だから、このベルメのヘソを出たら、精霊ノキ様に記憶の保護をしてもらってくれる?」


「へ? ん〜、ノキにできるのかな?」


「ふふっ、こう話しているだけで、精霊ノキ様は準備をしてくれたみたいだね。やはり、2文字の名前ってすごいな」


 彼は水場の方に視線を移した。私も、水場の上を飛び回っているノキの方を見る。なんだかノキがふんぞり返った格好をしているように見えるけど……。


「ノキにできるなら、大丈夫だと思うけど」


「ふふっ、アタシを誰だと思ってるんだ? と叱られてしまったよ」


「えー? ノキは、私には何も言ってこないよ?」


 再びノキの方に視線を移しても、何も言ってこない。ノキは赤い光に、何か偉そうに指示してるみたい。あの赤い光は、セレム・ハーツ様の守護精霊ってことよね?



「私の守護精霊は複数いるんだよ。名前はない。だから、圧倒的に精霊ノキ様が上位だね」


「へぇ、それでノキが偉そうにしてるね」


「ふふっ、実際に偉いんだと思うよ。精霊主さまから、何かの任務を与えられたみたいだし」


「私には、何も言ってこないよ」


「それは、みかんちゃんが主人だからだよ。守護精霊には、絶対的な主従関係があるからね」


「ふぅん、話してくれてもいいのにな」


 まぁ、ノキとしては、プライドもあるのかな。



「話を戻すね。私がすべてを説明し終えるまで、ここから出してくれそうにないし」


 りょうちゃんは、ふわっと微笑むと、私を真っ直ぐに見た。えっと、何の話だっけ?



「カードの複数所持者の話だよ。異世界人には、私がカードの複数所持者だと知られている。だけど、その内容を正確には知らない」


「身分証が二つあるってことよね? あっ、見た目の話?」


「みかんちゃん、複数の称号を持つ人は珍しくないんだ。そして、その称号ごとにカードを作ることができることも知られている。これは、転生事故への対処に必要だからね」


(あっ! カノンさんね)


「ひとつの身体に、二つの魂が入っている人のため?」


「そうだよ。カノンさんは、転生者の魂が入ったあとに生き返った。たまにこういう事故があるんだ。称号を得てカードを作ると、その二つの魂の器となる身体を分けて、別の人間にできる」


「えっ? カードって、何なの?」


 りょうちゃんの説明では、カードには人間を作り出すチカラがあるように聞こえた。いや身体を分けるってことは、分身ってことかも。



「称号カードは、マナで出来ている。カードごとにマナの形を造形することで、所持者の身体を造り出すことができるんだよ」


(む、難しい)


「えーっと? カードが人間を作るの?」


「ふふっ、まぁ、そうとも言えるかな。人は死ぬとマナに分解される。その構造を利用した魔法だよ」


 りょうちゃんは私に理解させるのは無理だと諦めたみたい。魔法学も難しいけど、そもそもの原理がわかんないもんね。



「りょうちゃんには、魂が二つあったの?」


 私がそう尋ねると、りょうちゃんは一瞬ポカンとした。変なことを言ったかな? カードは、同居した二つの魂を別の身体に分ける役割があるんだよね?


「あ、あぁ、そういう理解か。あはは、びっくりした」


 りょうちゃんは、私の考えを覗いて、やっとわかったみたい。ってことは、りょうちゃんは違うのかな。



「私は転生事故に遭ってないよ。カードを作ると称号に応じたステイタスを持つ別の姿を得る。ステイタスは成長するけど、姿は固定されるから変わらない。だから、私は永遠に31歳なんだよ」


「ふぅん。永遠に何歳という人は、分身みたいなものなのね。イチニーさんも誰かの分身……。あっ、ごめん、何でもない」


 イチニーさんの名前を出すと、りょうちゃんは私に鋭い視線を向けたような気がした。


(怒った、かな……)


 私の婚約者はセレム・ハーツ様で、レグルス先生は変装っぽいけど、りょうちゃんはセレム・ハーツ様の分身だもの。感じ悪いよね、私。



「みかんちゃんは、誰が一番好きなの?」



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