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103、精霊ノキの加護への対価

「う、うぅ……はぁ、はぁ、ふぅ」


「レグルス先生! 大丈夫ですか。苦しくても回復魔法は使わないでください!」


 スポンジの木の新芽を飲み込んだレグルス先生は、苦しそうに表情を歪めた後、ゆっくりと目を開けた。


(よかった!)


 精霊ノキは、彼が瀕死の状態だと言っていたけど、スポンジの木の新芽1本を飲み込んだだけで、額からの出血は止まったみたい。



「ミカンさん、あ、あぁ、僕は貴女に救われたのですね」


 レグルス先生は、ゆっくりと上体を起こし、周りを見回している。


「襲撃者は、あちらの通路から逃げていきましたよ」


「ミカンさんが追い払ったんですか? いや、だが、これはおそらく異世界人……他の星から移住してきた異世界人ですよね? そんなチカラが……」


「彼らは、自滅したみたいです。水場に毒を撒いてあったり、この場所に黒い影のような幽霊を集めていて、その黒い幽霊に襲われたんです」


「黒い幽霊?」


(あー、伝わらない)


 そう考えていると、私の目の前に、ふわもこの精霊ノキが現れた。やっぱ、最強にかわいいね。



『おい、人間。おまえは今、呪いにかかっている。だからスポンジの木の新芽でも、半分しか回復しない。みかんはアタシが防御したが、おまえの守護精霊は防げなかったみたいだ』


「ちょっと、ノキ! まずは、はじめましての挨拶でしょ。レグルス先生、すみません。この子は、私の守護精霊で……」


『みかん、はじめましてじゃないぞ。ここはベルメのヘソだ。嘘は通用しないからな』


「えっ? ノキがレグルス先生に姿を見せたのは、初めてじゃなかったっけ?」


 レグルス先生の方にも視線を移すと、彼は真っ直ぐにノキを見ていた。私の視線に気づくと、少し戸惑っているように見える。



『おまえを襲撃した人間は12人。うち1人はおかしなソウルイーターに襲われ、自分達が仕掛けた毒に溶かされて死んだ。メリルキラーと言っていたな。人為的に作り出された悪霊だった』


 精霊ノキが偉そうにしていても、レグルス先生は気分を害する様子はない。ノキの見た目が可愛いからかも。


「そうでしたか。僕とミカンさんが踏んでしまった魔法陣は、この世界のものではありません。だから、海竜も気づかなかった。僕のミスです。常に浮遊魔法を発動しておくべきでした」


「えっ? この世界のものじゃない魔法陣って……」


『消滅したメリルという星の魔法だ。あのソウルイーターがメリルキラーと呼ばれていたことから推察すると、このベルメの海底ダンジョンに、メリルという星を消滅させる原因となった状況を作り出したのだろう』


 ノキの話が難しい。他の星から移住して来た異世界人は、メリルという星から来たという理解でいいのかな。


 チラッと、ノキが私に視線を移した。コクコクと頷いている。今の私の考えが合っていたみたい。


(ふふっ、かわいい〜)



「僕達が踏んだ魔法陣には、連続転移魔法が組み込まれていました。ベルメの海底ダンジョン内にエリア指定していたようです。だから、すべての魔法が無効化されるベルメのヘソにたどり着くまで、転移が繰り返される。ここに仕掛けを施せば、確実に引っ掛かります。僕は途中で意識が飛んでしまいましたね。申し訳ないです」


 レグルス先生は、私に頭を下げた。


「ちょ、レグルス先生は悪くないですよ。まだ、怪我も治ってませんし、そんなことしないでください」


『謝るなら、おまえの守護精霊だろ。おまえのような者を守護するにはあまりにも……いや、アタシが話すべきことではなかったな。その呪いを解く薬を持っているか? 回復魔法は呪いで効果が反転する。しかも、毒は毒として作用する』


「そんな呪いは、この世界には存在しない。反転するなら、すべてが反転します……どうすれば……」


『ふん、おまえの守護精霊にも解除はできないか。仕方ないな。みかんが悲しむからアタシが取ってきてやる。おまえは、その対価を、みかんに支払え』


 ノキはそう言うと、ふわふわと水場の方へと飛んでいく。ベルメのヘソの湧き水を汲みにいくのかな。



「レグルス先生、すみません。ノキは、生まれたばかりで反抗期というか……」


「ミカンさん、ふっ、貴女の守護精霊は、すべてを見通しているのに、貴女に伝えることを取捨選択してくれている。精霊には年齢という概念はありません。生まれたときには既に完成した個体です。だから精霊ノキ様は、人でいえば大人ですよ」


「そう、なんですね」


 レグルス先生は、少しよろけながら立ち上がった。私も彼を支えながら一緒に立つ。身長差がかなりあるから、これだけ近いと彼の表情は見えない。レグルス先生は、背は高くない方だと思うけど、私は9歳だもんね。中身はアラサーだけど。



「レグルス先生、無理しないで座っている方が……」


「いえ、今、私の守護精霊を経由して、精霊ノキ様から加護を受けたので大丈夫ですよ。呪いを解いてくれました。やはり2文字の名を持つ精霊は、神に近い存在ですね」


「えっ? もう?」


 水場の方を見てみると、ノキは、別の赤い光を放つ何かと一緒に、ふわふわと飛び回っている。


「ええ、あー、あの赤いのは僕の守護精霊です。今、異世界人が撒いた毒を浄化しているようですよ。僕の守護精霊は……ふふっ、そうだな。それが対価か」


 レグルス先生は、自分の守護精霊と話しているのか、ひとりごとのようなことを喋っている。淡い光が見えた。回復魔法を使って怪我を治したみたい。もう、自分の足で立てるかな。


 私は、レグルス先生から手を離した。



「レグルス先生、もう大丈夫ですか」


 彼の顔色にも赤みが戻っているのが見えて、ホッとした。でもメガネが歪んでる。レンズも割れてしまったみたい。


「ええ、大丈夫です。この眼鏡は魔法では直せないな」


 メガネを外したレグルス先生は、どこかで見たことのある顔だと思った。綺麗な顔だけど、メガネがない方が年齢は少し上に見える。




「ミカンさん、貴女には多くの隠し事をしてきました。申し訳ありません。ただ、貴女に嘘はついてないつもりです」


「えっ? レグルス先生、急にどうしたんですか」


「貴女と精霊ノキ様がいなければ、私はレグルスを失っていた。加護への対価を支払いましょう」


「へ? レグルスを失う? どうしちゃったんですか。あ、頭を強打したから……」


(どうしよう?)


 頭を打った後遺症って、治せる魔法はあるのかな。サラなら、何か知ってる?



 混乱する私の前で、レグルス先生はふわっと微笑み、強い光に包まれた。



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