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10、夢に現れたのは誰?

『エリザの妹を殺せ!』


(これは、何? 夢?)


 何かの映像のような物が、次々と流れてくる。色は白黒で、鮮明なものもあればボヤけたものもある。その流れは速すぎて、私にはどれも、ちゃんと見えない。


 なぜか、強い恐怖心を感じる。私ではない変な感覚。怖がる私を別の私が見ているような奇妙な夢? 混乱してくる。私の中にある何かが……震えている? 


 ぐにゃりと歪む景色。


(こわい……私も、怖い)


 胸がギューッと締め付けられ、息が苦しくなってくる。一体、これは、何? 見えない何かに、私は殺されようとしている?




『みかんちゃん、怖れないで。大丈夫だよ。見えているものは、その身体の過去の記憶だ』


(えっ? 誰?)


『私は、キミに名を授けた神託者だよ。一度だけ、名付けた相手の夢に干渉する権利があるんだ』


(神託者? ゲームの案内人?)


『ふふっ、あの場所は、この世界とゲームを繋ぐ特殊空間なんだよ。この世界では、私達のような者は神託者だよ』


(あの、今、見えているのは夢なの?)


『そう、キミの夢の中だ。この世界に転生すると数日以内に、夢を使って記憶の引き継ぎが行われる。名前を授けたときにも記憶は引き継がれただろうが、これは、それを補完するものだ。キミの身体の記憶は、つらい物ばかりだろうね』


(よく見えない映像ばかりで……)


『うん、鮮明に見えると、心を壊してしまうからね。その身体は、母親を失ってから4回殺されている。キミが鮮明に覚えているのは、ひとつ前の持ち主の体験だ。だけど、すべてを知っておく方がいい』


(崖から突き落とされた記憶……)


『そうだね。その前は、舌を切られている。だからキミは、今も話しにくいんだよ』


(えっ? 舌を切られたの!?)


『そう。だからキミの前の持ち主は、話さなかったんだ。治療はされていても、ほとんど話せなかったのだろう。その前は池に突き落とされた。一番最初は、火に焼かれたね』


(そんな……あっ、だから姉は私にコップを持たせないのかな)


『火も水も、そして舌を切られたときは氷が使われたから、エリザはキミにその記憶が戻らないように遠ざけているね』


(そう……じゃあ私は、次は何で殺されるのかな)


 崖から落とされて死ななかったと、あの夜の声が言っていた。次は、何をしてくるのだろう……。



『みかんちゃん、時雨さんと会ったね。他にも味方となってくれる人がいる。だから過度に心配しないで。私も、キミの味方だ』


(神託者さんは、私のことをいつから知っているの? まさか、私のフレンドさん? だから、みかんちゃんって呼ぶの?)


『ふふっ、どうかな? 神託者は、職務中に素性を明かすことや、資格の無い人にゲームとの繋がりを語ることはできないんだ。だけど覚えておいて。あの部屋以外の場所で会えたら、私は必ずキミを助けるから』


(どうして、そんな……)


『みかんちゃん、私を見つけてくれ。私はキミを……あぁ、そろそろ時間だ。……また会えたら嬉しいな』


(えっ? それって……)



 最後の言葉は、あの部屋で見た、りょうちゃんからの返信と同じだ。これは偶然? それとも神託者さんは、りょうちゃんなの? だけど、りょうちゃんは女性だよね?




 ◇◇◇




「ミカン、おはよう。すごい汗ね。大丈夫かしら」


 目覚めると、私の汗を拭き、心配そうにしているエリザの顔がすぐ近くにあった。私が起きるまで、ずっと汗を拭いてくれていたのかな。


「お、おはよう」


 とりあえず挨拶を返すと、彼女はホッとしたのか、やわらかな笑顔を見せた。だけど、抱きしめたりはしない。


 昨夜、時雨さんと話していたことを、まだ嫉妬しているのかな。でもエリザの様子がおかしくなったのは、兄弟姉妹が11人いるという話からだっけ?


 もしかすると宿泊の連絡をしたときに、何か嫌なことを言われたのかもしれない。



(あっ、始まりの精霊……)


 朝になると現れる光。だけど、エリザには見えてないみたい。始まりの精霊の光は、自ら私に近寄ってきて、パッと弾けて身体に吸い込まれた。


 ステイタス画面はないけど、起きた瞬間の疲れた感じがスーッと消えていく。体力と魔力が全回復したのかな。




「入って来ていいわよ」


 エリザがそう叫ぶと、扉が開いた。侍女っぽい人達が二人と、黒服の男性が三人。礼儀正しく一礼すると、部屋に入ってくる。


 男性は大きな荷物を運んできた。そして床に置くと、無言で一礼して部屋から出て行く。


(数個のトランクと鏡?)


 その一つをエリザが持ち、別の小部屋へと行ってしまった。そっか、急な宿泊になったから、着替えを運ばせたのね。わざわざダークロード家から、ここまで呼びつけたってこと?



「お嬢様、お着替えをお手伝いします」


 私が座るベッドの前に鏡が置かれた。やはり汚れている。そして昨日と同じく、テキパキと着替えが進む。


(なぜ、鏡を持ってくるの?)


 侍女の一人は、たぶん私の専属みたい。昨日も気遣ってくれていたし、前の身体の持ち主の記憶にもある。



「かがみは、なぜ?」


 そう尋ねると、侍女が驚いた顔をしていた。あっ、そうか。前の身体の持ち主は、ほとんど話さなかったのよね。


「は、はい。姿見がないと、危険だからでございます。着替え中は無防備になりますし、私達のような者がお嬢様に触れることになりますので……。あっ、話が難しいですよね。申し訳ありません。えっと……」


(よくわかったよ?)



「ミカンってば、名前を授かってから、よくお話してくれるようになったわね。鏡は、ダークロード家の象徴でもあるの。この鏡は、ダークロード領で採れる黒曜石を使っているのよ」


 着替えをすませたエリザが戻ってきた。かなりキチンとした感じの騎士風の服だ。ダークロード家は騎士貴族だから、正装なのかもしれない。


「こくようせきって、みちの?」


「ふふっ、ミカンは賢いわね。ええ、そうよ。道に敷いていたものも黒曜石よ」


 頭を撫でられているけど、昨日までのような過激なスキンシップはない。やはり、エリザの様子がおかしい。



「ミカン、朝食を食べたら、草原を抜けて隣町まで歩いて行くわよ」


「となりまち? かえらないの?」


「ええ、ミカンは屋敷には帰らないの。ギルドマスターの提案よ。あれからすぐに動いてくれたみたい」



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