星座になりたかった金平糖
金木犀みたいな橙色の金平糖には、星座になりたいという夢がありました。
なぜ金平糖が星座を知っているのかといえば、夜店で買われて今のお家に帰る道々、りさちゃんが大事そうに抱えたガラス瓶の中から、お父さんとりさちゃんのお話を聞きながら夜空を見ていたからです。
お父さんは、夏の星座のお話をしていました。
夜店の提灯の灯りよりもずっと小さな光だけれど、遠くにあっても確かに届いている星々の輝きに、金平糖は憧れました。
りさちゃんのおうちに来てから一週間、日に日に瓶の中身は減っていきました。りさちゃんはお父さんとの約束を守って、毎日少しずつしか金平糖を食べませんでしたが、金平糖が大好きでしたから。
じりじりと減ってしまった金平糖は、ついに我慢できなくなりました。
ずうっと遠くへ行こう。
そう決めると、金平糖は瓶の中からりさちゃんに頼みました。
「りさちゃん。僕らは星座になりたいの。ずうっと遠くへ行きたいの。」
りさちゃんは驚きましたが、金平糖があんまり真剣に頼むので、願いを叶えてあげたくなりました。
「わかったわ。でも、遠くってどこ?どうやって星座になるの?」
金平糖にも、どうしたらいいのかわかりません。
しばらく考えていると、りさちゃんはあっと気が付きました。もうすぐ七月七日。七夕です。
「七夕さまにお願いしたらどうかしら?」
りさちゃんは、笹舟をたくさん作って、金平糖を残らず乗せてあげました。
笹舟に乗った金平糖たちは、りさちゃんに口々にお礼を言いながら、旅立ちました。
過酷な旅になりました。
ある金平糖は、笹舟がひっくりかえって川に落ちてしまいました。
別の金平糖は、浅瀬に乗り上げたところをアリに見つかって、連れて行かれてしまいました。
また別の金平糖は、暑さにひび割れて、粉々になってしまいました。
普通なら、このまま全滅していたかもしれません。
でも、七夕の夜まで笹舟の上で無事だった金平糖を、織姫様と彦星様はちゃんと見つけて、拾い上げてお空へ連れて行ってくれました。
「なんと勇気のある金平糖だ。星になるには、とても時間がかかるよ。天の川の中で、他の星の卵たちとぶつかって、こすれて、強くならなきゃいけない。それでも星座になりたいのかい。」
金平糖は、迷わず答えました。
「はい、もちろんです。」
いま、金平糖は、天の川の中をキラキラと流れています。
橙色の輝きが強く大きくなったら、きっと新しい星座が生まれるに違いありません。