11. 黒と黒
「敵は少数だ一気に抜けるぞ!」
「ここはユーヤと俺に任せてフレチェリカは魔力を温存しておけ」
城に突入した私達に襲い掛かってくる『魔族』をユーヤとゴーガンが次々と切り捨てる。
殆どの『魔族』は本隊へと振り分けられたのだろう、城の内部にいる『魔族』の数はそんなに多くはなかった。
だから、この城で一番大きな瘴気を辿って走る私達を止められる者はいなかった。
「ここか?」
「ええ……扉の向こうから禍々しい瘴気を感じるわ」
そして、その瘴気の発生源の近くまで難なく到着できたのだ。
そこは城門の様に大きく鉄製の頑丈な両開きの扉の前だった。
「開けるぞ」
そう言ってゴーガンが扉を押し開け中に侵入すれば、そこはまるで謁見の間を思わせる大広間で、一番奥には王座に鎮座した黒い物体が存在した。
そう……
物体としか呼べない代物。
そいつがすくっと立ち上がれば、まるで大きな人に黒い布を被せたかの様な、ただただ黒い純然たる『魔』の塊。
「『魔王』!」
本能がそれを『魔王』だと認識した。
こんな禍々しい純然な『黒』は二つとないと思われた。
同じ色なのにユーヤの『黒』とはまるで正反対の『黒』。
それを本能で察知した私は、そのあまりに圧倒的な『魔』にほんの一瞬だけ竦んでしまった。
その恐ろしい『黒』はそれを見逃さず、突然その体内から黒い突起が伸びて私を襲う。
「きゃっ!」
体が竦んで硬直していた私は咄嗟に回避ができず、その黒い突起に刺し貫かれると覚悟したが、ぬっと大きな手が私の前に突き出された。
黒い突起はその手を貫いたが、私の眼前で止まった。
「ゴーガン!?」
それはゴーガンの左手だった。
「大丈夫だ。これ位じゃ死にはしない」
「このよくも!」
私は魔杖を構えて炎の小魔法を連発する。さっきの攻撃から恐らく大魔法を使用する隙はないでしょう。
無数の小さな火球が『魔王』を襲うけれど、やはりこんな小魔法ではびくともしない。
だけど……
その火球の陰からユーヤが躍り出て『魔王』へと斬りかかった。
ユーヤの常人の目では追えない剣筋が確かに『魔王』を捉えた。
「やったか?」
「いや、まだだ!」
『魔王』から次々と黒い槍が伸び、ユーヤは素早く飛び退いた。
「今のは完全に斬った筈だが……」
「見て!」
斬られて裂けた部分から『魔』の触手が伸びて、離れた部位を縫い合わせてしまった。
「恐らく異常なまでに集積された『魔』が『魔王』の生命力を高めているのよ」
「反則だろそんなの!」
「これでは俺達が幾ら斬っても倒せない」
伸びてくる黒い触手をユーヤとゴーガンが斬り裂いていくが、それも直ぐに再生してしまう。でも、私には見えている。
「大丈夫よ。さっきユーヤが斬った部位から大量の瘴気が霧散していたわ。体内の『魔』も無尽蔵ってわけでもないでしょ」
「つまり、瘴気を消耗させれば勝機はあるんだな?」
「よし、ユーヤはそのまま『魔王』を斬れ。俺がフレチェリカを守るからお前は魔法でユーヤを援護しろ」
方針が決まり、私が魔法で隙を作り、そこにユーヤが斬っては後退を繰り返す。
鬱陶しそうに『魔王』が私を攻撃し、それをゴーガンが身を挺して防ぐ。
その攻防の中で執拗に狙われる私を庇う度にゴーガンの傷が増えていく。
「ゴーガン!?」
「まだ大丈夫だ!」
「だけど全身から血が……」
全身から血を流すゴーガンはもう満身創痍に見えた。
この全てが身を挺して私を守っている為についた傷。
「まだいける! お前は『魔王』の隙を作る事だけを考えろ!!」
「う、うん!」
永遠に続くかと思われる私達と『魔王』の戦い。
だけど着実に『魔王』の内にある『魔』は小さくなっていく。
「これで終わりよ!」
『魔王』の中の『魔』が既に枯渇状態であると分かり、私は魔法で石壁を床から次々と現出させる。
「ゴーガン、ユーヤ!」
「「分かってる」」
私の掛け声に呼応して、2人はその石壁を盾に『魔王』へ接近し挟み撃ちにして斬り付けた。
その傷口から瘴気が噴き出したが、2人の攻撃は一刀では止まらない。
斬って、斬って、斬って……
斬られた『魔王』は体の至る所から瘴気を噴き出し、断末魔の様な不快な音を響かせ、その内に秘めた『魔』が徐々に萎み、やがて消えていった……




