表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。  作者: 古芭白あきら
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/75

47. 今日、私は40になりました。


 翌朝――




「んっ!ん~」



 私は寝台の上で大きく伸びをする。


 体が硬い――もう歳ね。



「今日で私も40歳になったのですものね」



 ふと、昨日のシスター・ジェルマの言葉が思い出されました。

 子供達が私の誕生日を祝おうとしてくれているのだと……


 そしてもう一つ大事な報せ――



「――ユーヤが還ってくる」



 ユーヤの姿を思い浮かべると、何でこんなに心が騒いでしまうのでしょう。

 嬉しさに胸の高鳴りを抑えきれないなんて、まるで恋する乙女のようです。


 私は指でそっと唇に触れました。



 指に感じるその熱は、5年前の彼の唇の残滓――



 その柔らかく温かい感触は、ユーヤが旅立つ前日の記憶(おもい)を呼び起こしました。



 彼は私に接吻(キス)をした。

 それから彼は私を好きだと告げたのです。

 そして彼は私に待っていて欲しいと願いました。



 顔がカッと熱くなる。



 この胸を焦がすような苦しい気持ちは恋なのでしょうか?

 私は本当にユーヤを好きになってしまったのでしょうか?


 それとも昔のように愚かにもただ恋に焦がれているだけなのでしょうか?



 いったん意識してしまうとユーヤの姿が頭から離れません。



 あの私の腰を抱いた彼の力強い腕……

 あの私の唇を激しく求めた彼の唇……

 あの私の姿を映しだした黒い双眸……



 彼を想うと私の心臓が痛いくらいに激しく音を打ち鳴らすのです。


 私は耐えきれず胸をキュッと掴む。



 そのまま私は寝台で(うずくま)り、(やかま)しく拍動する心臓が落ち着くのを待ちました。やがて、動悸も治まり身を起こせば、既に窓から明るい光が差し込んでいました。



 私は静かに寝台から降りると、裸足のまま窓辺へと歩み寄りました。

 窓を開ければ部屋にもう涼しくなった朝の風が吹き込んできました。



「気持ちの良い風……」



 その風が火照(ほて)った身体と焦がれた心を冷やしてくれて心地が良い。



 とんとん、とんとん――



 窓辺で(たたず)み心と体に宿る熱を冷たい風で洗い流していると、突然のノックの後に扉がカチャリと開けられました。


 少し開いた扉の隙間から薄桃色(・・・)の頭をヒョイと出して愛らしい女性が覗いてきました。



「シエラ、返事も待たずに扉を開けるものではないわよ」

「は~い」



 ペロッと舌を出すシエラも二十歳(ハタチ)になりました。


 とても明るく、そして愛らしく育った彼女は町でも人気で、私の時のように紳士同盟なるものが男性達の間で結ばれていたとか。


 一昨年、シエラが結婚した時には大勢の若い男性の嘆きが凄かったものです。



「貴女も一児の母となったのですからもう少し落ち着きを持ってもいいでしょうに」

「ふふふ……シスターってホントお母さんみたい」



 私が(たしな)めても、シエラは(むし)ろ嬉しそうに笑いました。

 そして私の胸に飛び込んできて、ギュッと抱き着いてきました。



「もう、まるで大きな子供よ」

「私はずっとシスターの娘だよ」



 彼女は子供の時のように私の胸に顔を埋めて、背に回す腕に力を籠めてきました。



「シスターは私の自慢のお母さん……そして、誰よりも素敵な女性だよ」



 この子はとても鋭い。

 きっと私が迷っているのを感じ取っているのでしょう。


 そして、とても優しい娘。

 私を(おもんばか)り、甘える振りをして励ましてくれる。



 シエラは本当にとても良い娘に育ってくれました。


 実は、この子は幼い頃に同じ薄桃色の髪の女性と同じ言葉を口にしたのです。



 『ヒロイン』

 『悪役令嬢』

 そして『おとめげーむ』……



 その言葉を口にした当初は、シエラも彼女と同じなのではないかと危惧をしたものでしたが、それは全くの杞憂でした。


 シエラはそれらの言葉に固執せず、振り舞わされず、私の言葉に耳を傾け、私を母のように慕い、誰にでも分け隔てなく愛情を降り注ぐ素晴らしい聖女に成長しました。


 今では素敵な女性として1人の男性と愛を育み、温かい母親として1人の娘を育てています。



「シエラは本当にとても良い子ね」



 抱きつくシエラの薄桃色の髪を優しく撫でると、彼女は顔を上げて私の目を真っ直ぐ捉えました。



「私はいっぱいいっぱいシスターに(あった)かい心を貰ったの。シスターがいたから今の私がいるの。もし私が良い娘なら、それは全部シスターのお陰なんだよ」

「それは違うわ。シエラが今までたくさん努力したからよ。私なんかいなくても貴女は立派なレディになっていたわ」



 愛おしくなってシエラの頬に手を添えると、彼女はその手に(すが)るように自分の手を重ねてきました。



「シスターがいたから私は『前世』に振り回されずに『今』の私を生きることができたの。シスターがいたから私は私として精一杯生きることができたの」



 私は真剣な彼女の青い瞳に吸い込まれそうになりました。



「だからシスターは『私なんか』じゃないわ。世界で一番綺麗で素敵な女性(ひと)よ」



 彼女の優しく強い訴えに、私の目から涙が零れました。



「シエラ……ありがとう」

「うん……」


 ああ、私は本当に幸せ者なのですね。




 長い間、抱き合っていた私達はどちらからともなく離れると気恥ずかしさを誤魔化すように笑いました。



「そう言えばシエラは用事があって来たのではないの?」



 彼女はもう孤児院の住人ではありません。

 ここに来たのは用があってのことでしょう。



「あっ、そうだった!」



 彼女はそう言うと私の背を押して私を外へと連れ出しました。



「お昼まで孤児院から出ていて欲しいの」

「子供達に頼まれたの?」

「あちゃ、バレてる?」

「ちゃんと知らない振りをしておくわ」

「ありがとうシスター」



 私を拝むような仕草をするシエラにくすりと笑いが漏れてしまいました。



「それから今日はシスターにきっと良い事が起こりそうな予感がするの」

「予感?」



 シエラの聖女としての能力はまだ私には及びませんが、何故か彼女の予感は私よりも良く当たるので私は首を捻りました。



「きっと神様からの素敵な誕生日プレゼントよ!」



 ですがシエラは何の説明もせずに、片目を瞑って悪戯っ子のように笑うだけ。


 そのまま彼女に孤児院を追い出されてしまったので、私は仕方なしに町の中を目的も無くぶらぶらと歩き始めました。




「今日は私の誕生日か」




 私は今日40になりました……



誤字報告ありがとうございます!

また誤字、衍字など何かございましたら報告いただけると嬉しいです(∩´∀`)∩

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この世界では前世の記憶持ちはそんな髪色になるのか(;゜Д゜) まさか、エリ―がダメだから神様が代わりとなる存在を送ってきたとかそんな感じじゃないよね(;゜Д゜) いやホント……どっちにし…
[良い点] まさかの、シエラさんも!?(;゜Д゜) でも、シエラさんやユーヤさんを見ていると転生者や転移者関係なく、その人の人間性がこの世界で「どう生きるか」に繋がるんだなと感じます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ