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転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。  作者: 古芭白あきら
本編

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43. 晩夏の風


 私が語り終えると、ユーヤの思い詰めていた表情が柔らぎました。



「俺も『勇者』じゃない」

「ふふふ、知っています」



 くすりと笑いがこぼれました。



「貴方はユーヤです」

「ミレ……」



 私へ伸ばしかけた手を届く寸前で止めるユーヤ。

 その手に私は自分の手の平を重ね合わせました。



「だが……誰もが俺に『勇者』であれと願っている」



 いいえ、と私は首を振る。



「この世界の全てが貴方に『勇者』という『役』を求めても、私は貴方にただユーヤであることを願います。『勇者』という『役』を放棄して世界の全てが貴方の敵になったとしても、私はずっとユーヤの味方でいます」



 私とユーヤの合わせた手の指が自然と絡み合う。



「俺は悠哉のままでいいのだろうか?」

「貴方はユーヤのままでいて下さい」



 絡まるユーヤの指に力が籠る。



「これからも俺は辺境(ここ)にいたい」

「貴方がそう望むのなら」



 私とユーヤの交じり合う視線。

 彼の黒い瞳に熱い火が灯った。


 それは彼の熱い想いの籠った火……



「俺はずっとミレの傍にいたい」

「私もユーヤと一緒にいたいです」



 絡めた手と逆側のユーヤの腕が急に私の腰に回されました。



「え!?」

「俺はミレが好きだ」

「それは――ッん!?」



 ユーヤは問い返そうとした私の唇をいきなり塞ぎました――


 自分の唇で……



 私は目を大きく見開き体を強張(こわば)らせ、ユーヤの胸の中で(わず)かに身を(よじ)りました。


 ですが、彼の力強い腕に(あらが)えず、彼に抱かれる誘惑はとても甘く……


 (しばら)くして、私は目を閉じると、彼の背に腕を回して身を預けました。



 どれ位の時間そうしていたのでしょうか。


 やがて彼の口付けから解放され、私は小さく吐息を漏らしました。


 先程まで彼の唇が触れていた部分に熱が籠っているようで、思わず私は自分の唇を指でなぞりました。指に感じるのはとても熱くて、そして僅かに濡れている感触。


 私のとろりと上気した顔をその黒い瞳に映しユーヤが覗き込んできました。



「明日、俺はこの町を出る」

「ユーヤ?」



 その言葉は彼の接吻(キス)にまだ少し放心していた私の意識を覚醒させました。


 ユーヤの声音には迷いが感じられません。

 そして、私を見詰める黒い瞳に宿るのは決意の光。



「俺は魔王を倒しに行く」

「それは貴方が『勇者』だからですか?」



 ユーヤは私の問いに首を振りました。



「俺はこの世界は嫌いだ。こんな世界の奴らの為に『勇者』なんてやってられるかって思っていた」



 ユーヤの大きな手が私の頬に優しく添えられる。



「だけど俺はミレが好きだ。ミレの住むこの町を、ミレの居る世界を守りたい。だから――」


 ユーヤの顔がゆっくり近づき、私の心臓は早鐘の様に高鳴りました。


「――俺は魔王を倒す。『勇者』なんかじゃなく悠哉として魔王を倒す。ただミレの為に。ただミレの為だけに」

「ユーヤ……んっ……」



 私達の熱を帯びた唇は再び溶けて一つになりました……






 次の日の早朝――


 ユーヤは魔王を倒しに出立しました。

 私に一言だけ言い残して――待っていて欲しい、と……



 フレチェリカさんとゴーガンさんを伴い、一度もこちらを振り向かずに街道を進むユーヤ。


 私は去って行く彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送って……


 彼の姿が見えなくなってしまっても、それでも私はずっとその場で(たたず)んでいました。



 町の入り口で立ち尽くしていた私を一陣の風がなぶる。

 その風は少し冷たくて私は身をぶるりと震わせました。



「もう秋も近いのですね」



 ユーヤの去って行った方へと吹き抜けた白い風に身を切られ、私は夏の終わりを感じたのでした……


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― 新着の感想 ―
[一言] たった一人に授けられる称号じゃない。 誰かのために、戦える。 そんな人達が、きっと勇者って奴なんだよ(´;ω;`)ウゥゥ
[良い点] 「勇者」ではなく「ただのユーヤさん」として、ミレさんのために魔王を倒しに行く……無事に帰ってくることを祈ります……。
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