30. 黒髪の青年
「グウェールさん?」
教会の外で待っていたのは自警団の副団長であるグウェールさんでした。わざわざ彼が迎えにきたならば余程の事態なのでしょう。
「また街道に『魔獣』が出てきて、商人達が襲われているらしい」
「分かりました」
「数人を先行させているんだが……」
グウェールさんの表情が曇り言葉を濁したところを見ると、あまり芳しくない状況のようです。
「何か拙い事でも?」
「出現した『魔獣』は小型だそうだが、とにかく数が尋常ではないらしい」
「少々厄介ですね」
どれ程に強大であろうとも、『魔獣』が1体だけなら『神聖術』で内に宿る『魔』を浄化すればよいだけなのです。ですが、複数の相手となると1体を相手している間、私は他の『魔獣』に対して無防備になってしまいます。
「俺達がだらしないばっかりに済まねぇ」
「そんな事はありません」
私は首を横に振って彼の言葉を否定しました。
「皆さん必死になって頑張っています。だらしがない筈がありません」
「だが実際に俺達の力では……」
「人の力には限りがあります。自分達の力が及ばないからと恥じる必要はありません」
グウェールさんはどうにも納得のいかない表情です。
「今は自分の出来る事を精一杯やりましょう。後悔するのはその後です」
「そうだな」
私とグウェールさんが現場に到着すると、中型犬程の大きさの『魔獣』があちらこちらで自警団や商人の護衛と乱戦を繰り広げていました。
『魔獣』の数は2、30体くらいでしょうか。みな猿の様な人の様な形態で口からは2本の長い牙を覗かせていました。
戦いはかなり混沌としており、既に犠牲者も出ているみたいです。
「急ぎ結界を張ります」
グウェールさんに守られながら馬車の側まで寄った私はすぐさま『神聖術』を発動しました。
馬車を中心にしてぐるりと囲むように光の幕が立ち昇り、『魔獣』達を寄せ付けない空間が生まれました。
「この中には『魔獣』が入ってこられません」
「助かる」
私の言葉にグウェールさんは頷いた。
「いったん結界に入れ!」
その指示に自警団の方々が逃げるように結界の中へ入ってきました。
「た、助かった……」
「これで一息つける」
戦いが激しく疲労していた彼らは次々と地面に座り込んでしまいました。
「あまり状況は芳しくありませんね」
「ああ、小型と言っても1体に2、3人で対応しないと倒せねぇ」
「これだけの数となると俺達だけでは対処できないな」
私は結界を維持しなければなりません。
主力が自警団の方々になりますので、無理をすれば被害が大きくなるでしょう。
「結界を利用して『魔獣』を分断し、1体ずつ対処するしかありませんね」
「時間が掛かるが……それが1番安全だな」
グウェールさんは周囲を見回して少し暗い表情を作りながらも頷かれました。
幾人もの商人や自警団の方に怪我人がでており、中にはすぐにでも治療をしなければ命にかかわる人もいます。私の提案した策では彼らは助からない可能性が高いでしょう。
「俺達にもっと力があればな……」
「なるべく急ぎましょう」
そのように私達が『魔獣』討伐する為の算段をつけ行動に移そうとしたと同時に『魔獣』達が騒がしくなりました。
「おい、あれ!」
「誰かこっちに来るぞ」
「なんて間が悪い!」
自警団の方々が指差す方を見れば、街道をこちらに向かって1人の男性が歩いてくるのが見えました。かなり草臥れた外套を纏い、その隙間から覗く腰には剣を佩いているようですが、これだけの数の『魔獣』を相手になど到底できる筈がありまえん。
事態は最悪で、しかも状況は一刻を争います。
ですが私はその男性を見て何故だか頭が真っ白になり、ただただ見入ってしまいました。
長旅をしてきたのか、この国では珍しい漆黒の髪はぼさぼさで睨みつけるように鋭い目も同じく黒色でした。その表情はとても厳しいものでしたが、まだ若い青年の様に見えました。
汚れた衣類に身を包んでいましたが、その男性は目を離せない程にエキゾチックで、年甲斐も無く私は魅入られてしまったのでした。
これが『悪役令嬢』と呼ばれた私と同じように『役』を与えられた彼との運命の邂逅でした……
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