17. 返せぬ恩
「……手紙?」
森の浄化を済ませた私が教会に戻ると、シスター・ジェルマに呼び出されました。
「私にですか?」
「ええ、教会の方から回ってきました」
そして私が彼女の下へと赴くと、彼女から一通の封筒を手渡されました。
彼女の顔色が優れません。おそらく彼女は内容を既に知っており、且つあまり良い報せではないのでしょう。
受け取った封筒を裏返せば、差出人の名前はシェーラとありました。それは確かに見覚えのある名前でした。シェーラさんとはエンゾ様の側にいつも控えていた尼僧の1人です。
「彼女からどうして?」
シェーラさんとは仲が悪かったわけではありませんが、手紙を遣り取りするほど特に仲が良かったわけでもありません。彼女の意図が分からず私は小首を傾げました。
そして、封を切って手紙を読んだ私は愕然としました。
「う……そ……」
王都のシェーラさんがその手紙で報せてきたのは――
「いやぁぁぁあ!!!」
――エンゾ様の訃報でした。
「うわぁぁぁあ! エンゾ様、エンゾ様、エンゾ様!」
私は自らを掻き抱き、その場に泣き崩れました。
頭に浮かんだのはエンゾ様の穏やかな微笑み。
そして聖女としてお会いしてから、ずっと私を導いて下さった日々の記憶……
「私……まだ…何も……」
流れる涙はとめどもなく、拭っても拭っても次から次へ溢れ出し、それとともに私の胸の奥底から悲しみと後悔も溢れ出してきました。
思い出されるのは、エンゾ様から頂いたものの数々……
いっぱいいっぱい褒めて、優しくして、導いてくれました。
何度も何度も諭してくれて、助けてくれて、ありがとうと言ってくれました。
それなのに私はエンゾ様の死に目にも会えず、何もお返しする事ができず、あまつさえ私のせいであの方に苦労を掛けてしまったのです。
私が辺境の地で三年の月日を過ごして、色々なものが大きく変わったのと同じように、当たり前ですが王都もまた三年という時間が経過し、多くの変化が起きていたのでした。
エリーがアルス殿下と結ばれ王子妃となり、聖女の務めを全て放棄してしまいました。そのせいで引退する筈だったエンゾ様に皺寄せがきたのです。
エンゾ様は無理を押してお一人で『聖務』に取り組み、その寿命を縮めてしまわれたのです。
「申し訳ありません……エンゾ様……申し訳ありません……」
これは全ては私の至らなさが招いた結果です。
私がエリーの教育に失敗し、私がアルス殿下との関係を保てず、私が断罪され、私が婚約破棄され、私が辺境の地へ追放され、私が……私が……私が……
エンゾ様が過労で倒れたおり、私に報せを送ろうとしたシェーラさんを止めたそうです。エンゾ様は私に何も報せるなと、全てが終わるまで報せるなと。
エンゾ様は分かっておいでだったのです。もし、私がエンゾ様の危篤を知れば、禁を破ってでも王都へ戻るだろうと。だから、エンゾ様は固く私への連絡を禁じたのです。
他にも、エンゾ様のご様子を危惧した王都の教会では、私の冤罪を晴らし連れ戻そうとの動きもあったようです。ですがそれもエンゾ様が強く止めたようです。
私が聖女として王都に戻れば自分と同じように使い潰される。エンゾ様がそう判断される程、今の王家は酷い有り様だったのです。
私はそんな王都の状況も知らず、この地で安穏と過ごしていました。
最後の最後まで何も知らずに、私はエンゾ様に守られていたのです。
「シスター・ミレ……」
シスター・ジェルマが床に座り込み、ひたすらに悔恨の涙を流す私を抱擁して、頭を優しく撫で、あやす様に背中を軽く叩いて慰めてくれました。
その時はそんな優しい労りさえも私の心を抉ったのでした。
「エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、謝りたいのです、お礼を言いたいのです……エンゾ様にお会いしたいのです……」
私はシスター・ジェルマの胸にしがみつき、幼女の様にひたすらに大声で泣き続けました……
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