15. そこにある価値
「さあ行きましょう」
修道服に身を包んだ私の手をシスター・ジェルマが取りました。
「どちらへ?」
私は教会の外へ連れ出そうとする彼女に尋ねました。
「ここの隣が孤児院なのよ」
「孤児院を運営なさっているのですね」
地方の教会ではそういった場合もあると私も聞いたことがあります。
「そうなの。子供達に貴女を紹介しないとね」
「子供……ですが私は……」
私が罪人だと村には触れがあったはずです。私は人から受ける悪意に怯えてしまって、子供達から向けられる拒絶の視線を想像して心臓がばくばくと音を立て始めました。
だから不安の眼差しをシスター・ジェルマに向けたのですが、彼女は笑って私の手を引きました。
「安心して。みんな良い子だから」
「……はい」
シスター・ジェルマはとても良い人です。その彼女が言うのだからきっと大丈夫なのでしょう。それでも王都での民衆から向けられた悪意の目を思い出すと足が竦みそうになりました。
「もう日も暮れるわね」
「綺麗……」
ですが外に出て眼前に広がる光景を目の当たりにしたら、私の弱気は消し飛んでしまいました。私はただただ息を飲みました。
それは真っ赤に染まった町並み。
その辺境の全てを赤く焼き尽くす夕陽はとても美しくて、とても雄大で、私の心の中にある昏い情念さえも全て焼き払ってしまいそうでした。
「こっちよ」
「あっ! はい……」
しばらくその景色に見惚れて立ち尽くしていましたが、シスター・ジェルマが私に声をかけて教会の隣の建物へと入って行きました。
その背中を慌てて追って私も扉を潜ったのですが、その建物の中の喧騒に私はびっくりしてしまいました。
「お姉さんだーれー?」
「うわぁキラキラしてるー!」
「お姫様?」
「え? え? 私ですか?」
入った途端に数人の小さな女の子に囲まれてしまいました。そして、彼女達のきらきらした瞳に見詰められた私はしどろもどろになったのでした。
「ほーら騒がないの」
シスター・ジェルマがぱんぱんと手を叩くと、一斉に子供達が私達に視線を向けてきました。
「今からみんなに紹介するわよ」
シスター・ジェルマの言葉で私の存在に気が付いた他の子供達も初めて見る顔に興味を持ったのでしょう。彼らはわっと私達の方へと押し寄せてきました。
「ねぇジェルマ。この人は?」
「ここに住むの?」
「ええ、そうよ」
そのシスター・ジェルマの答えに子供達が私に群がってきました。
「お姉ちゃんのお名前は?」
「これからずっとここにいるの?」
「すっごい綺麗!」
「どこから来たの?」
矢継ぎ早に声をかけてくる子供達に戸惑い、私は困り果ててどう対応したものかとシスター・ジェルマに目で助けを求めたのですが、彼女は声を立てて笑い出しました。
「あっという間に懐かれちゃったわね」
「え、あ、はい……」
子供達の顔はとっても輝いていて、私を嫌悪する色は少しもありません。
「ふふふ、だから私の言った通りだったでしょ?」
「え?」
シスター・ジェルマの笑顔はまるで包まれるみたいに素敵でした。
「貴女にはこんなにもたくさんの価値が生まれたのよ」
「はい……はい……」
その言葉に私は涙を流しながら黙って何度も頷いたのでした……
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