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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホットケーキを毎日焼く

作者: 桜芽鵺葉

少女はホットケーキに話しかけられました。ふわふわのふっくらした生地から焼きたての温かさが見るからに伝わってくるホットケーキです。ホットケーキは少女に会えたことを大層喜び、少女に好きなおもちゃをなんでも与えると言います。少女は少し困ったように微笑んでから「おもちゃはいらないから、ずっと一緒にいて欲しいの」とホットケーキに伝えます。ホットケーキはほのかな甘い香りをしながら、少女に「ずっと一緒にいようね」と彼女の願いに応えました。


少女はホットケーキと一緒に色んな國に遊びに行きました。ホットケーキは少女のために花を与え、少女のためにドレスを与え、少女のために宝石を与え、少女のためにお菓子を与えます。少女はホットケーキと一緒にいれることが幸せでした。少女はホットケーキが大好きで、ホットケーキが特別だったのです。ホットケーキも少女のことを大好きといい、少女を特別扱いします。


今日もとても楽しい1日だった、と少女は思います。大好きなホットケーキと一緒に過ごす日々は少女にとっていつだって楽しいのです。家に着いた少女は、手にしたフォークをホットケーキの中央に刺しました。


ホットケーキが苦しそうに呻きます。少女は表情を変えずにもう片方の手のナイフでホットケーキを切ります。身体を引き裂かれる痛みにホットケーキは耐えられません。少女のナイフが食い込むたびに叫び泣き「どうして」と問います。少女は何も答えずに口元を少し開いてから、ホットケーキを一切れ口に入れてます。やがてホットケーキは全て少女に食べられてしまいました。少女の「ごちそうさま」という声だけが静かな部屋によく響きました。


翌朝、少女はいつものように鶏の卵を割ります。泡立て器でよく混ぜてから牛乳を入れ、小麦粉を入れ、温めたフライパンに生地を入れます。ふわふわのふっくらした生地の焼きたてホットケーキの完成です。ホットケーキは嬉しそうに少女に話しかけます。少女の欲しいおもちゃをなんでも与えると言います。少女は少し困ったように微笑んでから「おもちゃはいらないから、ずっと一緒にいて欲しいの」とホットケーキに伝えます。ホットケーキは「ずっと一緒にいようね」と彼女の願いに応えました。


このホットケーキも、少女とずっといることはできません。ホットケーキは焼いたその日が賞味期限です。ホットケーキは少女が作った数だけ少女に殺され死んでいきます。けれども少女はホットケーキを毎日焼きます。少女の大好きなホットケーキは毎日別物だろうと変わらず少女に毎日「ずっと一緒にいようね」と誓ってくれます。それに人間は、ホットケーキを食べても罪にはならないのです。


End.

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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっと残酷なような、そうでもないような、やっぱり残酷なような……。ホットケーキなんだから食べられるのは当たり前なのですが、向こうからすれば裏切りのように感じてしまうのも不思議はないですね…
[良い点] 少女に罪悪感がまったくないところと、ホットケーキがしっかり苦しんでいるところ。大好きです。 [一言] ホットケーキは毎日別の個体が焼かれているけれど、どれも同じように喜んで少女を愛するとこ…
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