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妖怪探偵 サイコロ眼(がん)  作者: 真ん中 ふう
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7話「サイコロ眼(がん)」

7話「サイコロ(がん)


スマホを繋いだイヤホンを耳から外し、安西が言った。

「佑人君と小百合さん、見つかりましたよ。」

「そうですか…。」

助手席で、服部は、安堵のため息をもらした。

「でも、なぜ、小百合さんは佑人君と共に、突然姿を消したのでしょう?」

安西は車のハンドルを握ったまま、服部に訊ねた。

「…私が、気を緩めてしまったんです。」

「どういう事です?」

「元々、小百合を地下の部屋に閉じ込めて、誰とも接触出来ないようにしていたのですが、…それが小百合には、苦しかったんでしょう。

いつの間にか、地下の天井の隙間に小さな穴を作っていたのです。」

「穴?」

「あの子の鋭い爪で、少しずつ、少しずつ、穴を掘っていたんです。その穴は、小さなネズミ位であれば、抜け出せるほどの大きさになっていました。」

「妖怪である小百合さんは、その穴から抜け出せたと?」

「…はい。私は仕事の融資の件で、毎日銀行やら、取引先やらに訪問をしていて、ほとんど家には居ませんでした…ですが、夜にだけ、小百合にペットショップで買った、食事の爬虫類を与えに行っていたのです。しかし、3日前の夜、突然、小百合の姿が地下の部屋から消えていた。それと同時に、佑人君のご両親から、佑人君が家に帰ってこないと、連絡が入りました。」

「どうして、服部さんに?付き合っていたのは4年前で、彼のご両親は、小百合さんが交通事故で亡くなったことを、知っていましたよね?もちろん、彼も。もう、接点はないのに。」

服部は、暫く沈黙した。

そして、意を決したように、話し出した。

「二人が姿を消す前に、佑人君は、ご両親に不可解な事を言っていたそうです。」

「不可解?」

服部は、無言で頷いた。

「小百合が、生きていると。」

「と、言うことは、佑人君は、地下から抜け出した小百合さんと、会ってしまった。」

「そうだと思います。」

「小百合さんは妖怪だ。自分を偽り、幻覚を見せることも出来る。妖術を使い、佑人君と逃げ出したんだすね?」

「…私が生きることに必死になりすぎて、あの子の変化に気付かなかった。そして、人様の大事な息子さんに、危害を加えるかも知れない。そう思うと、生きた心地がしませんでした。」

服部は、辛そうに頭を押さえた。

「仕方ありません。あなたが生きていなければ、小百合さんは生きていけない。」

「きっと、小百合はその事に気付いてしまったんです。私が限界な事を。だから、佑人君に近づき、…。」

服部はこの先の言葉を言えなかった。

「佑人君の魂を得て、新しい自分になろうとした。」

服部は、小さく頷いた。

「…服部さん。そうしようと考えたのは、小百合さん自身ではありません。彼女の魂はもう存在しません。あの地下に居たのは、小百合さんの皮を被った、ただの妖怪です。その妖怪自身が、自分の身の危険を感じただけですよ。」

「しかし、元凶は私にあります。私があの子の突然の死を受け入れられなかった…。だから、あの子を妖怪にしてしまった。」

服部はそう言って、きつく目を瞑った。

「どちらにしても、今回の件は、妖怪探偵である、彼にしか片付けられない。私に相談してくれて、正解でした。」

安西は、服部の肩をぽんと叩いて、笑みを見せた。

「…妖怪探偵…私は、会ったこともない、得たいの知れない人に、この件を依頼したんですよね。」

服部は自嘲気味に笑った。

すると、安西は真面目なトーンで返した。

「彼は、この世の中に存在する妖怪の中でも、最強クラスの妖怪です。」

「安西さん?」

「彼の体にはサイコロの様に6つの眼が潜んでいる。その眼に睨まれた者は、妖怪でも人間でも、逃げることは出来ない。」

「逃げることが…出来ない…。」

安西の言葉の意味の強さに、服部は息を飲んだ。

「特に恐ろしいのが、左手の中にある眼です。全てを吸い込み、消滅させる力を持つ。言わば、手の中のブラックホール。」

そして、安西はニヤリと笑って言った。

「彼はそんな、サイコロ(がん)の持ち主。」

「…そんな人に、小百合を任せて、大丈夫ですか?私は、あの子を連れ戻したいだけなんです。」

服部が、心配そうに問いかける。

そんな服部に安西は、いつもの少年の様な声で答えた。

「大丈夫です。彼なら、適切に対応しますよ。」

その後、服部は暫く車の窓から、外の景色を眺めた。

安西は時折、服部を見たが、服部が口を開くことはなかった。

服部が見つめる先には、暗い海が広がっていた。





読んで頂き、ありがとうございました。


次回も是非、ご覧下さい。

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