4話「探さないで」
4話「探さないで」
佑人は目の前の恋人、小百合を見つめていた。
(ここまで来れば、大丈夫だ)
佑人と小百合が居るのは、街外れの海岸沿いにある、古びたホテルの一室。
二人の他に客は居ない。
もう、何年も前に閉鎖されたホテルだった。
「佑人、ありがとう。ここまで連れてきてくれて。」
目の前に座る美しい恋人、小百合が佑人に微笑む。
佑人はその笑顔に安心する。
しかし、少し照れ臭くもあった。
「小百合がここを探してくれて、ほんとに良かった。こんなに豪華なホテル、高そうだと思って心配したけどさ。」
佑人は立ち上がり、部屋の豪華さに触れる。
部屋はスイートルームの様な広さと、装飾。
窓にはレースの白いカーテンがあり、部屋にある家具全て、テーブルもベッドも西洋の中世時代を思わせる物ばかり。
「大丈夫よ。私がお金を持っているもの。」
そう言われ、佑人は真面目な表情になった。
「小百合、ごめんね。俺が大学生だから、小百合に迷惑を掛けて。」
「そんな事ないわ。」
小百合は長くて綺麗な黒髪を揺らしながら、佑人の元へ行き、微笑みながら言った。
「佑人は私の救世主よ。私を父の元から助け出してくれたんだもの。」
「…君のお父さんはひどいよ。君をあんな狭い部屋に閉じ込めるなんて。」
「仕方ないわ。父は最近疲れているのよ。会社も上手くいってないみたいだから。」
「だからって、君を閉じ込めて言い訳がない!」
佑人は声を上げた。
「佑人、落ち着いて。私は今、ここにいるわ。あんな狭い部屋じゃなくて、こんなに素敵な部屋にあなたと二人。」
小百合は白い手で、佑人の両手を優しく包んだ。
そして、佑人の目を見つめる。
佑人も、小百合の目を見つめた。
彼女から目が離せない…。
頭の中が小百合で埋め尽くされていく。
(なんて、心地いいんだ。)
佑人は夢見心地だった。
こんな素敵な恋人が、僕を見つめている。
ずっとこのまま、二人でいたい。
(どうか、…このまま…誰も僕達を探さないで。)
佑人は小百合を見つめたまま、そう、心の中で呟いた。
読んで頂き、ありがとうございました。
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