2話「見抜く眼」
2話「見抜く眼」
少女は写真を持ち、薄暗い廊下を歩く。
そして、一つのドアの前に来ると、ノックをする。
コンコン。
返事がないのは分かっている。
少女は、部屋の中へと入った。
「探偵さん。」
そこには、机の上に、足を乗せて椅子に体を預けている男がいた。
白のシャツに、黒のベスト、そして、赤のネクタイを緩めて首に掛けている。
そして、黒のズボンに、手入れの行き届いた、黒の編み上げブーツをはいている。
男は乗せていた長くて、スラリとした足を下ろし、少女の持っていた写真を受け取った。
そこには、大学生位の、若い男が写っていた。
「ほんとに、受けるの?この依頼。」
少女は、抑揚のない、平坦な言葉で訊ねる。
「あぁ」
男はそう言いながら、無造作に伸ばされた髪を掻き上げた。
すると、意思の強さを感じさせる、切れ長の目と、整った顔がはっきりと現れる。
「くだらない、依頼。」
少女がそう言うと、男は口の端を上げて、鼻で笑う。
「人間てのは、そう言う生き物だからな。」
そう言って、男は壁に掛けていた黒のジャケットを肩に乗せ、部屋を後にした。
その男の後ろ姿を見送りながら、少女は呟く。
「さぁて、今回は幾つの眼で、解決するのかな。」
男は、人通りのない、路地に入ると、立ち止まり、ビルを見上げた。
男が見据えるのは、ビルの屋上。
ビルには使われる事の無さそうな、錆びた階段や、室外機を置くスペースの出っ張りがある。
男は軽く足を曲げると、一つ目の出っ張りに向かってジャンプする。
シュッ。
まるで瞬間移動のような速さで、一つ目の室外機の上に着地した。
そして、すぐ次の室外機へとジャンプする。
幾度かそれを繰り返し、目的のビルの屋上へとやって来た。
男は屋上の柵の前に立つ。
眼下には、色とりどりのネオンが煌めいている。
時折、車のクラクションの音が響く。
(うるさい奴らだ。)
男は苦々しい顔をしながら、顔を上げ、まっすぐ前を見る。
どこまでも続く、灯り。
そして、都会を包む、灰色の霧のような幕が広がる。
男は両目を閉じ、意識を集中させる。
すると、男の額に、横に一本の赤い線が現れた。
長さ、5センチ程の赤い線は、次第にメリメリと音を立て、粘膜を引きながら上下に口を開けた。
そこにはギョロンたした、両生類の様な眼が現れた。
その眼は、上下左右に動きながら、何かを探している。
「どこだ。」
男は呟く。
すると、動き回っていた額の眼が、ある方向を向いたまま止まった。
男の脳裏に、ぼんやりとした、景色が映る。
そこは、海岸の近く。
どこかのホテルの一室らしき景色が混じる。
それは、だんだんと色を持ち、輪郭を露にしていく。
そして、そのホテルの部屋に、一人の男性が見えた。
その男は、若い。
「見つけた。」
男はニヤリと不気味な笑みを浮かべ、持っていた写真を握り潰す。
閉じられた両目を開ける。
先程まで開いていた、額の眼が閉じられる。
「今夜のカクテルは、ブラッドハウンドか。」
肩に乗せていたジャケットを羽織ると、男はビルの屋上からダイブ。
近くのビルの屋上から、次のビルの屋上へと、跳ねるように軽やかに、駆けていく。
そして、夜の街の闇へと消えていった。
読んで頂き、ありがとうございました。
次回も是非、ご覧下さい。
また、今回の作品とは雰囲気の違う小説も、投稿しております。
タイトル「初心者マークの勇者」です。
こちらも、是非、ご覧下さい。