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第8話 俺たちの望み

 魔力戦線、確かにそういったのか?


 魔力戦線とは、二つのクラス間で行われる、クラス対抗の集団戦のことだ。基本的に様々なイベントによって得られる戦利品を有している、はたまたほしい人材がいるクラスに挑むのが基本だ。


 今の俺たちのクラスにあって、なおかつほしいものだと?


 隣で美味そうにサンドイッチをほおばる白葉を見る。その後、Dクラスの小野のことを見る。


 立ち振る舞いなどからして、気が強そうだということがうかがえる。その気の強さで、個人的な願いをクラス全員に納得させたのだとすると、結論はこうだ。


 「お兄ちゃん、そんな破廉恥なことは認めませんよ!!!」


 「あんた何勘違いしてんのよ!!!」


 どうやら女の子同士の危ない夜会が開催されるわけではないらしい。とすると、ペット感覚でかわいがるつもりか。


 「ちゃんとご飯は食べさせてあげられるんだろうな!!」


 「さっきから何言ってんの!?」


 違うのか。じゃあ一体何だというんだ。


 もう一度当たりを見渡す。ふむ、どいつもこいつも冴えない。俺だったらほしいと思える奴が一人も見当たらない。そういえば、田中大樹は身長が高いと言っていたな。


 「この田中大樹で勘弁してくれるなら、俺たちの不戦敗で構わないぞ」


 「おいっ」


 やり玉に挙げられた本人が、びしっとツッコミを入れてくるが無視し、小野の目を見据える。


 「ふざけるのはここまでにしようか。正直、僕たちと魔力戦線をして、君たちに得るものがあるとは思えない。葵くんに関係があると言っていたね。どう言うことか教えてくれる?」


 そうか、そういえば俺に関係があるとか言っていたな。三上のやつ、そんなことを覚えているなんてやるな。


 「私たちの要望は、葵君の退学です」


 ほーん。わからん。


 そういうのは、報酬の対象にならないはずだ。いくら自由に欲しいものを選べるといったって、常識の範囲内での話だ。


 そんなふざけた戦いに応じる必要はない。


 「ふざけるな。お前たちになんの得があってそんなことを言ってんだ」


 そこで、高橋のやつが横槍をいれてくる。


 「いっただろう。魔力のないお前を煙たがっているやつらもいるってよ。それにしても、クラス全員の同意を得られるとは、随分と嫌われたもんだな」


 ガハハと笑う高橋。むかつくので口を引っ張ってやる。


 「断ることは?」


 三上のやつ、いつにも増して真面目モードだ。


 「この目的のための魔力戦線は断ることができない。理事長はそういっていたそうよ」


 まーた、あのババアか。というか、俺たちのクラスだけ知らされていなかったことらしい。俺の退学がかかっていることだと言うのに本人に伝えないとはどういうことなんだ。


 「葵君のいったとおり、君達に得があるとは思えないけど。ただ、本気で葵君のことが気に入らないってことでいいのかな?」


 三上に言われて、小野は少し考え込む。


 「正直、そこのところはどうでもいいわね」


 おい、どうでもいいとかやめろ。無関心が1番辛いんだぞ。どう文句を言ってやろうとすると、続けて小野が発言する。

 

 「この魔力戦線で活躍した人は、上のクラスに行けるかも知れないということみたいね」


 なるほど。そういう報酬があるわけだ。色々と俺に関係ないところで決定しすぎなんじゃないですかね。


 「仮にも人の退学を賭けるってことなんだから、あなたたちも相応の対価を払う覚悟があるってことでいいのかな?」


 先ほどまでサンドイッチを頬張っていた白葉がいう。いつもの白葉からは考えられないとげとげした物言いだ。少し怒っているようにも感じられる。


 「かけられるものならね。誰かの純潔なんて言われても、応じられそうにないけど」


 Pクラスの面々を見渡しながら、小野がそういう。


 Pクラスだからってそこまでゲスくはないと思う。いや、いいと言われたら喜んで望みそうではあるが。


 「断ることができないなら、少し報酬の方を考えたいから時間をくれるかい?」


 冷静だな、三上は。


 まあ、そうだよな。俺の退学がかかってるんだ。それ相応の報酬を考える必要があるだろう。報酬目当てで、そんな話に食いついた奴らをぎゃふんと言わせるような報酬がいい。


 「わかったわ。明日にでも決行したいから早めに答えを出してくれると助かるわ」


 手をひらひらさせながら去っていく小野。うーん、絵になる。


 「よし、みんな。作戦会議と行こうか」


 小野が立ち去ったのを確認して、そう呼びかける三上だが、皆はあまり乗り気ではないようだ。普段は、エロスエロスと慕っているというのにどうしたのだろうか。


 「みんなどんなものでもいいから、とりあえず希望を上げていってもらってもいいかな?」


 みんなが乗り気ではないというのに、淡々と司会を進める三上。前から思っていたが、あいつってかなりメンタル強いよなあ。


 クラスの中の一人が手を挙げる。あれは確か小島だったか。


 「そこまで本気になるようなことなのか?」


 ああーん?何を言い出すんだこいつは。


 「葵なんて昨日おんなじクラスになっただけだろ。そんな奴のために本気になれって言われてもな」


 「そうだよな。俺も小島と同じ思いだ」


 「どうせ負けたって俺たちにデメリットはないだろ」


 小島の発言を皮切りに、どんどん発言をするPクラスの面々。こういうのって本来、本人がいないところでやるもんじゃないの?こいつらに人の心というものはないのだろうか。

 

 「仮にそうだとしても、せっかく同じクラスになった仲間じゃん。私は一緒に戦ってあげたいって思うけどな」


 ただ一人、白葉が俺を擁護してくれる。彼女の優しさが身に染みるようだ。


と同時に、奴らからの視線が痛い。これはもうそういうことでいいんだよな。前から感じていた、彼女としゃべっているときに感じる妙なプレッシャーの正体はこれだ。


 三上も会議が円滑に進まない理由はこれかと理解したようで、田中に向かって顎でくいっと合図を送る。田中もその意図を理解したようで立ち上がる。


 「白葉さん、ジュース買いに行かない?高橋も行くぞ」


 「しかたねえ」


 しぶしぶといった様子で立ち上がる高橋も大体の事情は察しているようだ。


 「え、でっでも」


 困惑しているようだが、椅子に手をかけて中腰になっている。もう一押しか。

 

 「悪い白葉。俺ものど乾いたからお茶買ってきてくれ」


 財布からお金を取り出し、有無も言わさず彼女に手渡す。


 「う、わかった。行ってくる」


 まだ会議がどうなるか気になっているようだが、三人でいそいそと教室を出ていくのを見送る。十分に教室から離れたと確信したのか、三上が口を開けた。


 「まどろっこしいのはなしにしよう。本音は?」


 「白葉さんと仲がいいのがむかつく」


 「白葉さんにまとわりつく害虫は始末しないといけない。退学になってくれるのはとても好都合だ」


 「退学なんて生ぬるい。コンクリで足を固めて海に沈めるべきだ」


 嘘偽りのない本音を吐き出す奴らの目は、光を有していなかった。


 白葉と仲良くしていることがこんなマイナスに働くとは思わなかった。しかし、嫉妬されるのも仕方ないことだ。あいつめちゃくちゃかわいいからなあ。


 「なるほど。現状、彼らにとって葵君の存在はマイナスの面のほうが大きいということか」


 「マイナスの面のほうが大きいというか、プラスの面なんてないぜ」


 三上の独り言に対して、誰かがそう発言する。もう面倒くさいから、こいつら全員暴力で黙らしたほうがいいんじゃないだろうか。


 「葵君がいることがプラスだと思えれば、協力してくれるってことでいいのかな?」


 「まあそうなるよな」


 「でも無理だぜ。どんだけマイナスだと思ってんだ」


 「もう君たち黙っててくんない!?」


 あまりに罵倒されるため、つい口をはさんでしまった。


 「冷静に考えなよ、みんな」

 

 諭すような口調で、三上がそういう。

 

 「これはチャンスなんだ」


 チャンスというのはどういうことだろうか。俺にとっては大ピンチなんだが。


 「こんな機会がなければ、僕たちが魔力戦線を申し込まれることなんてまずない。僕たちが申し込んだって、受けてくれないだろう。なぜなら、相手方にメリットが一つもないからだ」


 それはそうだが、俺たちだって得るものはない。向こうも失うものがないからこそ、このタイミングで仕掛けてきたのだろう。


 「よく考えてみなよ。向こうから申し込んできた魔力戦線なんだ。これは、よっぽどの報酬を提示しない限り、僕たちの要求が断られることがないということを意味する」


 「小野とデートする権利とかでもいいってわけか」


 重大なことに気づいた、そんな口調で誰かが発言する。


 Pクラスがざわつく。Dクラスだって、その程度の要求なら確実に飲んでくるだろう。Pクラス一同は、魔力戦線を行えることのメリットという奴を見出し始めたようで、先ほどより前のめりになって会議に参加し始める。


 「僕たちはPクラスだ。そもそもマイナスから入った印象を、一度のデートでひっくり返すのは不可能だといっていい。だから、これはあくまでも僕の提案なんだけど、僕たちの青春を形として残せるものがいいと思うんだ」


 なんだ一体。どんなものを望もうというのだ。


 「何を望むんだ」


 そんな誰かの言葉に、三上は力強くうなずいて答える。


 静寂がPクラスを包み込む。皆、三上が次に発する言葉を待っている。


 三上はその空気に満足したのか、うんと一呼吸おいて、その重い口を開いた。


 「パンツだ」


 

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