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第5話 理事長のお話

――――決闘 三上side――――


 信じられないことが目の前で起こっている。


 「うおーすごい威力。葵君大丈夫かな」


 隣で我がクラスの紅一点、白葉凛さんがCクラスの高橋敬吾が放った一撃に驚きの声をあげる。


 でも、僕を驚かしたのは、その高橋君と闘っている男だった。放たれた強烈な一撃を軽く受け止め、あしらうその様は、魔力がない人間のそれではなかった。


 おかしい。いや、もっと前におかしな点があったのだ。それに気付けなかった自分が情けない、とさえ思えるほどの疑問点が。


 彼は今でこそ、魔法がないということでこの学園を追われそうになっているが、一度は何の疑問も抱かれずにこの学園の生徒として受け入れられているのだ。


 この学校の入試はたしかにシンプルに出来ている。魔法を使う様を披露するようなものでもない。だから魔法が使えない人間だって入れる可能性はある。だけど、それはあくまでも理論上はだ。


 シンプルといっても、容易いと言うわけではない。仮想魔獣は、決して弱いものじゃないからだ。むしろ世間一般から見たら、強いといってもいい。全国各地から集まった選りすぐり、つまりこの学園を受験する人の中からも、倒しきることができない人がいるほどに。


 魔法を使えない人間が倒せるとは自分には到底思えない。いや、彼の戦う姿を見るまではと付け加えるべきだろうか。


 今見せた底知れない身体能力であるならば話は別だ。


 面白い人。はじめて顔を見せ合ったその瞬間から、彼には何かあると思った。それは間違いではないと今確信した。


 「うおー!!葵くーん!!」


 白葉さんの歓声によって、思考の海から引き戻される。


 「勝ったの?」


 「うん。というか見てなかったの?」


 「ちょっと考え込んでて。よかった。勝ったんだね」 


 彼にはしっかりと働いてもらうとしよう。


 彼女を正しい道へ導くと言う、僕の悲願を成し遂げるために。


 


――――――――――――――――――

 

 最悪だ。まさかこんなに早く接触してくるとは。


 目の前には、先ほど関わってはいけないと本能で理解した、お偉いさんもとい理事長が座っている。


 逃げ出せばよかったな、と先程のことを思い返す。


 それはホームルームが終わり、帰路に着こうとしていたときだ。


 「葵」


 俺を呼んだのは、美人教師である上原先生だった。


 「君は見つけやすくて助かるな。君みたいに馬鹿な思考をする奴はそうはいない」


 「なんのようですか?」


 ケラケラと笑う彼女を憎しみが込められた目で見つめる。


 「その目をしたいのは本来私の方なんだが」


 馬鹿を言う。俺が、ヘラクレスに標的にされているのは、あんたが原因だろう。


 「ヘラクレスぅ?ああ、伊藤先生のことか。少し教育してやって欲しいと頼んだだけじゃないか」


 「思い切り殺害を促していたじゃないですか」


 呆れた教師だ。一体なんのようがあってここに来たと言うのだ。明日ヘラクレスに殺されるかも知れない俺を一目見ておきたかったのだろうか。


 「まあそう邪険にするな。私が用があるわけではないんだ。理事長がお呼びだ」


 「理事長が?」


 


 まあ、あの嫌な笑顔を見るに、遅かれ早かれ接触をしてくることは分かっていたのだが。


 嫌だなぁ、面倒くさいなぁって思った瞬間に逃げ出すべきだったんだろうなぁ。


 「なんて目で私を見るんだい、このくそガキ」


 教職者が生徒をくそガキ呼ばわりとは、なんと言うことなんだ。


 「もっと愛想良く出来ないのかい」


 「明らかに俺を邪険に扱ってるひとにペコペコできるほど、人間できてないので。それに、その相手が見るに耐えない醜悪な老婆だなんて」


 「失礼だね。あたしはこの歳では綺麗なほうさね。アンチエイジングも頑張ってるからね。みなよ、この肌つや」


 「海溝よりも深いシワがいくつも出来てますよ」


 「どういう環境で育ったら、そんな生意気になるんだい!? まったく、今すぐ退学にしてやってもいいんだよ。私としては困ることなんて何にもないんだ」


 「マダム、靴でもお舐めいたしましょうか?」


 「なんだいその変わり身のはやさは。遠慮しておくよ。あんたの舌には、文字通り毒でも含まれてそうだからね」


 果たして、この老婆は人に失礼だと言えるような人間性なのだろうか。ただ、今気にするべきなのはそこではない。


 「それで、冗談はこの辺にしておいて、なんで呼びつけたりしたんですか?」


 「ああ、本題に移ろうかね。この学園が知ってるように、数々の優秀な魔法騎士を輩出しているのは、あんたみたいな馬鹿でも知ってるね?」


 いちいち人を馬鹿にしなければ会話ができないのかな?


 「もしあんたが、ここを卒業して社会に出たとしよう。その時、あんたがへまでもしようもんならウチの信頼に関わることは分かるね?」


 「ええ。なんとなくは」


 しかし、それは魔法が使える人がそういう立場になっても同じではないんだろうか。特段、俺が邪険に扱われる理由になるのだろうか。


 「その顔は理解してないね。魔法が使えない、そんな欠陥があるとわかってる人間と普通の子では、そもそもスタートラインが違うって話さ」


 「要は強けりゃいいってことでしょ?」


 「あんたにはそれを証明する実績がないっていってるんだよ」


 「でも高橋の奴は倒しましたよ」


 「馬鹿だねあんたは。あれは、まだまだ発展途上だよ。魔力も伸びるし、魔法の使い方が全然なってない」


 確かにそうだ。手をデカくしたり、迫力はあったが魔法を使うのが上手いかと聞かれると微妙だ。魔法の使い方だけでなく、戦い方全般が未熟であるように感じられた。


 「だから、あんたはここに通う3年間で、あんたの価値を証明しなきゃならない。あたし達にも、魔法騎士の方々にも」


 「どうすりゃいいんです?」


 「あたしが色々と試練を課してやろうじゃないか。もちろん、達成できなかったら退学さ」

  

 つまり、この学園に在学している限り、今日みたいなことが何度もあるということか。それは、大変だ。


 「なんだい、ニヤニヤして」


 「退屈しなさそうだなぁと思って」


 そういうと、理事長は口の端をにっと釣り上げた。


 「変態だね」


 今日俺は、この人に何回罵倒されたらいいんだろう。


 「話は終わりだよ。あんたの馬鹿面は、長いことみたいもんじゃないから出ていきな」


 この人をぶっ飛ばせって試練なら何百回でも何千回でも挑戦したいものだ。なんなら今すぐ始まったって、喜んで受け入れる。


 「……失礼します」


 これ以上長居すると、この部屋が殺人現場になりかねないので、急いで退散する。


 ドアの前でもう一礼し、部屋の外に出る。


 よっ、と声が聞こえたので、その方向を見ると、そこには白葉の姿があった。


 「何やってんの?」


 「いやー、また理不尽なこと言い出したら特攻してやろうと思って待機してた」


 「なんだよ、それ」


 自然と笑みが溢れる。それを見た白葉もにぱっと屈託のない笑顔を見せてくれる。


 「大変だね。葵君の高校生活は」


 「そうだな。でも、たぶん大丈夫だよ」


 それに、退屈なだけの高校生活よりは、刺激があって楽しそうだなんて思っている自分もいる。白葉に変態だなんて言われたら、流石に傷つきそうなので口にはしないが。


 「そうだね。今日の試合もかっこよかったし、大丈夫かもね」


 かっこよかったなんて面と向かって言われると恥ずかしい。


 「いいやつだよな、お前」


 彼女が褒めてくれたので、自分も彼女に対して思っていることを素直に言うと、彼女は、どこが?といったふうに首を傾ける。


 「別にそんなことないよ」


 「会ったばかりの俺によくしてくれるんだから、やっぱりいいやつだよ」


 「別に誰にでもってわけじゃないよ。少なくとも、悪い人じゃないって知ってたから応援するだけ」


 はて、悪い人じゃないと知っていたとな?と疑問に思っていると、彼女はニヤニヤといじわるな顔をする。


 「溺れている子供のために、浅い川に飛び込めるような人は悪い人じゃないでしょ?」


 「見てたんかよ!!」


 そういえばこいつ、一度も俺が濡れた服着てることに突っ込んでこなかったな。


 「いいでしょ。減るもんじゃないし」


 「あれは見られたら恥ずかしいだろ。だから忘れてくれ」


 「ふーん、まっ、いいけど。そういえば今から予定ある?」


 「ない。なんかあんのか?」


 「三上君が、葵君の残留祝いでご飯食べに行かないか、だって」


 ご飯か。今日は色々なことが起きて、疲れているから、パーっと行くのもいいかも知れない。


 「行くよ」


 そういうと、白葉はニッと笑って駆け出す。


 「じゃあ、お店まで競争だ!」

 

 俺、店の場所知らないから圧倒的に不利だと思うんですけど。でもまあ、乗ってやるかと思い、全速力で駆け出す。


 あっという間に白葉の横を駆け抜ける。


 ふん、かけっこで俺に挑むとは愚かなり。仕方ないから、階段の前で待っておいてやるか。


 そう思いキキーと止まると、ちょうど階段を登り終えたある人物と目が合う。ヘラクレスだ。


 「葵、この俺の目の前で廊下を走るとはいい度胸だな」

 

 あっ、終わった。


 「ちっちがうんです!!これは、軽音楽部の活動なんです!!」


 「この学校に軽音楽はない。歯を食いしばれ」


 激しい音がしたのち、視界に星が散る。


 やっぱり俺は不幸な星の元で生まれたんじゃないだろうか、溢れゆく意識の中でそう思った。

 

 


 


 

 


 


 


 


 



 

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