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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
四章 ライガ獣王国 王都編
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まさかの再会と感情の行き場

あれから何度か一対一での試合を終え、あっさりと冒険者ブロックを優勝した僕はエキシビションマッチ。闘技大会に訪れていた、Sランクの冒険者と戦うことになった。


ちなみに元々が武を磨き、励む大会であるため、各ブロックの優勝者に賞金は出るらしいけど、表彰のような舞台はなかった。いや、あったとしても断固として断ったけどね。


「フィーちゃん」

「なに?」

試合への渡橋への入場前。

僕に掛かる声があった。

その発信源。ヨナは僕を真っ直ぐと見据えている。


「……なんか最近冷たくない。フィーちゃん?」

掛けられた言葉。のしかかる静寂。気まずい雰囲気。

会場の歓声だけがやけに大きく響いて、盛況な喧騒が耳朶を叩く。

居たたまれない雰囲気に耐えられず僕は会場へと足を踏み出した。


「待って。フィーちゃん。ボクは!」

呼びかけられる声。

されど止まることなく、歩き、紙吹雪舞う演出を潜り前へ進み出る。


演出を潜り武闘上に出ると歓声が一層強まりそれとほぼ同タイミングで対戦相手も反対側の渡橋から姿を現した。


……出で立ち、雰囲気、佇まい、歩の運び。どれをとっても一流の相手だ。

魔力波もかなりのもので今まで戦ってきた者達とは一線を画しているように思える。


『フィーちゃん!』

っ!

呼びかけられたヨナの声がフラッシュバックする。

ぶんぶんと頭を振って思考を再起動する。


いけない、いけない。

とにかく今は試合だけに意識を集中しないと。

油断していて勝てるような相手じゃなさそうだし。


『さあやってきました冒険者ブロックエキシビションマッチ! 冒険者の頂点であるSランクに挑むのはこの人だー! 今大会のスーパールーキー。『紅と蒼の戦姫』『紅』、クローフィー選手。そしてそれに対するは強者を求め、今大会に赴いた赤の戦士。燃え盛る炎とその剣技で数多の魔物を屠ってきた。その者の名は、『紅蓮のつるぎ』Sランクパーティー冒険者。ノクス選手だー!』


……

…………

……………………

今なんて?

動揺が表情に出ていたのかノクスがこちらを見据えて真っ直ぐと剣を突き立ててきた。


そこには不敵な笑みが張り付いていてしてやったりと言わんばかり。

なんかドヤあ感が凄くて普通に不快だった。

でも、ちょっと気分は紛れたかも。


それにしても緋色のマントに黒と赤を基調にした外套ねぇ。

うん。素直にカッコいいと称賛しちゃうわ。120点。


厨二属性高い。

そっかー。冒険者の仕事で有り余る財力をそこに継ぎ込めば良かったのか。

後悔の念を抱いている間にも盛大で、いっそ耳障りなカウントダウンが矢継ぎ早に進んでいき、やがて『試合開始』の声が響く。


言い切ったのかも定かではないタイミングでノクスの姿が掻き消える。

そして、瞬きをする間にノクスの姿が眼前に迫っていた。

虚を突くばかりの素早い移動。ノクスの奴、どこで覚えたのかは知らないけど、剣士に古来より伝わる縮地を取り入れた超速移動を習得してるな。


もしかしたら僕が知らないだけで日本の様な古来和風の国が世界には存在するのかもしれない。

抜刀術と縮地法。それを掛け合わせた刹那の一撃を紙一重でしゃがみ込んで躱し、矢継ぎ早に振るわれた大上段からの斬撃を『裁きの《ブラッド》血剣ソード』を横に構えて受け止める。


「おらぁ!」

「あち」

が、受け止めた紅蓮剣から炎が火花を散らし、僕の体を焼き尽くさんと強襲する。

この戦闘狂が『禁忌の森』に居た頃より強くなっていない筈がない。

警戒はしていたつもりだけど、心のどこかで慢心があり、気が緩んでいたのかもしれない。


縮地に紅蓮剣の超高温から放たれる炎の斬撃。近接戦と同時に魔法攻撃まで取り入れて攻撃してくるとか、ちょっとこいつ強くなりすぎでしょ。


これは骨が折れるな。下手したらこっちが危ういまであるかもだぞ。

「かふっ」

嫌な予感ほどよく当たる。鍔迫り合いになったと所に、紅蓮剣の熱量を高められ『血剣』が溶けて両断される。咄嗟に後方に退避するも、紅蓮剣の剣先がお腹を掠めた。


「どうした、ばばぁ! いつもの威勢はぁ! その程度かぁ?!」

「おおおぉぉ!!」

ジンジンと痛む切り傷を『再生』する暇もなく、ノクスが縮地を用いながら苛烈に責め立ててくる。負けじと咆哮で以てそれを押し返し、再度『創造』した『裁きの《ブラッド》血剣ソード』で応戦する。


幾十、幾百二も渡る剣線が場を支配し、剣同士が織りなす火花と金属音が高らかに響き渡り、猛り狂う。

暫くの拮抗が続いた後、僕とノクスは同時に後退し、お互いに距離を取り機を窺った。


だが切り合っていない時間が不快とでも言いたげに、ノクスは間断なく、紅蓮剣に魔力を集束し始める。

僕が不得意な魔力の放出。


二年前は不安定で暴発していたノクスの炎属性の大剣、しかし今天高く屹立している『紅蓮大剣』には一片のの揺らぎもない。


完璧に自分のものにしている。

「『業火の理!』」

「『エリュトロン』」

向かってくる灼熱の大剣を血を滴らせ、呼び出したエリュトロンを地面に深く突き立てて防ぐ。

「ぐうっ!」

僕の体を守るには十分すぎる盾だけど意味がない。

魔力自体は僕のほうが勝っているからか、血剣のように一瞬で焼き尽くされてはいないけど、熱風だけで体が焼き尽くされそうになる。

それでもなんとか踏ん張って耐えきり、ノクスの着地のタイミングに併せて、『血剣』を振るう。

如何に戦闘狂ノクスと言えど、着地の瞬間を狙われては流石に対応できまい。


「うそ?!」

「分かってんだ、よぉぉ!!」

と、高を括っていた僕の思考が浅はかだったようだ。横なぎに放った僕の剣は、ノクスが流れるような動きで剣を縦に構え直したことで完璧に防がれる。


「ほおぉ!」

「ぐうぅ!」

僕の動揺を好機と見たのか縦横無尽にノクスの『紅蓮剣』が僕の『血剣』を責め立てる。


純粋な技量では互角。しかし距離の取り方や戦いの流れは完全にノクスに武があって、さらにノクスの剣に燃やされぬよう血剣を太く『創造』したせいで若干だが、剣速の低下を余儀なくされる。

そこに畳み掛けるような縮地を用いたノクス独自の白兵戦。


この二年間、旅をしている間にこの戦闘狂は数多の冒険者たちと戦ってきたんだろう。

それだけに留まらず、その技法を真似て自分の剣術や武術に取り入れ、『ステータス』という目に見えた成長はなくとも完全に自分の物にし、技術に更なる磨きを掛けてきた筈だ。


それに対して僕が今まで戦ってきた相手といえば、そのほとんどが魔物で、剣と剣の戦いの読み合いとかはほとんど経験がない。


『禁忌の森』にいた頃に変態サフィアと剣を交えた事もあったけど、地力に差がありすぎて、間合いの詰め方とか読み合いとかほとんど生まれなかったから。



「ふん!」

「がは」

防戦一方でかすり傷が増えてきたところにノクスの鋭い蹴りが僕の腹を襲った。

視界が明滅し、途絶えそうになる意識をギリギリの所で掴み取って、堪える。

地面を抉り、蹴りの反動で横に平行移動した意識朧げな僕に向け、ノクスが縮地を用いて瞬時に距離を詰め、抜剣の構えを取る。


「終わりだぁ!」

慌てて『裁きの《ブラッド》血剣ソード』を『創造』しようとするも、時すでに遅し。

気付けばノクスの紅蓮剣が僕の首筋の寸でで、動きを止めていた。


「あ~、負けっちゃったかぁ」

特に感慨もなくそう嘯いてみる。

そりゃあ、負けたのはちょっとばかし悔しいけど、なんせ対人戦の経験が僕には少なすぎた。別に、今後の教訓にしていけば特に問題はないだろう。


……それにしてもノクスさん。いつまで寸止めを続けてるんですか。

早くその物騒なもの、鞘にしまってくれませんかね?


若干苛立ちながら、ノクスに抗議の視線を向ける。

が、ここで驚くべきことに気づいた。

僕に勝って愉悦に満たされているかと思われたノクスの表情は、僕の予想と裏腹、なんかとてつもなく不満そうだった。


「ばばあ。テメエ、なんで本気でやらなかった?」

「イヤ、本気だったけど」


「嘘つけ! てめえ動きに全然切れ味がなかったぞ! 俺の新技が強いし、お前と俺の『血剣』と『紅蓮剣』の相性が悪いのは分かるが、それにしたってキレがなかった。剣にも、動きにも間合いにも戦いに集中しているはずの癖に心ここにあらずって感じだ。俺はそんなあんたに勝っても、ちっとも嬉しくねぇ」


……本気じゃなかった? 

そんな馬鹿な。公に『吸血鬼化』が使えないとはいえ、それ以外はマジのマジだったのに。


本気だったと意を伝えるため、心外だとノクスに再び抗議の視線を向けると、ノクスが呆れたといったように溜息を吐き、がりがりと頭を掻くと、ぶっきらぼうな口調で、考えてもみなかった言葉を飛ばしてきた。


「はあ…… お前、なんか抱えてんだろ?」

「抱え? は?」

ノクスの言ってる意味が分からなくて思わずそのまま訊き返してしまう。


「おババアはいつもなにかしら、悩み事やら迷いごとやら心に曇りがあると剣も動きも鈍くなって陰りがあんだよ。それを自分で気が付いてねえからたちが悪いったらありゃしねえ」


悩み事……

確かに一つ心当たりがある。

大きな、大きな悩みが。


試合中で、戦いに集中していたつもりでも深層心理ではヨナの事がずっと胸の中にあったのかもしれない。


「今回は俺の勝ちだ。だがな、次は本気でやれ! いいかババア!」

「イヤ、ババアじゃないけど」

ノクスに怒鳴りつけられ、折檻という名の連続チョップを浴びせれら筒も、不思議と僕の気持ちは晴れ晴れとしていた。


激闘が終焉を迎え、歓声と実況で燃え盛る会場内で肩を震わせて退場していくノクスの背中に僕は精一杯敬礼した。


ありがとう。と

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