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転生したら…… 始祖の吸血鬼!?  作者: RAKE
四章 ライガ獣王国 王都編
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『理不尽の権化』とすれ違う思い

闘技大会。騎士、獣闘志ブロック予選。

各国から腕に覚えのある騎士やこの国での軍、獣闘師と呼ばれる者など、実力者が集い、例年一番の盛り上がりを見せるブロックである。

が、この国に住む獣人たちにとってはその結果は最初から分かりきっており、それを見たくないがために、観客に獣人は一人としていなかった。



観客たちが一様にして会場の中央に佇む人物を凝視している。

地面に無数の男たちがひれ伏し、頭を垂れる。

試合開始数コンマに起きた出来事だった。

誰もがあまりの出来事に目を疑い、そして恐怖した。


即ち『あれは、なんだ?』と……


事態を引き起こした物が為したことは至ってシンプルだ。

自らの魔力波と『威圧』を解き放った。

ただそれだけの事。

されど、それで事足りた。

『理不尽の権化』の異名を持つ、獣王国獣闘師団団長の前では誰もが頭を垂れる。

獣王国のの国民にとっては周知の事実であった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

「理不尽の権化?」

「うん。あいつはここでそう呼ばれてる。目の前の物をあんな感じに屈服させてしまうから『理不尽の権化』の異名がついたんだ」


いつになく神妙な面持ちでそう語るヨナ。

そういえばヨナはどうしてか、僕と同じ冒険者ブロックではなくこのブロックに申し込んでいる。


本人は『フィーちゃんと戦って即効で終わりたくないから』と嘯いていたけれど、そもそも、冒険者であるはずのヨナが各国から集められた騎士達が戦うブロックに申し込んで受諾されたのが謎なんだ。

謎なんだけど、そこら辺の事情は全く僕に話してくれないんだよね、ヨナ。



「『威圧』と『魔力波』の同時使用。制御が難しくて、だれもが挫折するような芸当。けど、あいつはそれを天撫の才だけでやってのけた。生まれたころから、あいつは『理不尽』だったんだよ」

「へー」


ヨナが言葉を紡ぐたびにその顔が険しく、声音が冷たくなっていく。

その瞳には深い憎悪と嫌悪、怨恨が垣間見える。

ヨナ的には隠しおおせているつもりなのかもだけど、事情を知らない僕でさえ、今のヨナが『理不尽の権化』とやらに発している尋常でない殺意と敵意はひしひしと伝わってくる。

復習、報復、そんな負の言葉が脳裏を過る。別に、復習のために生きることが邪道だとか、殊勝な事を語るつもりはない。


人の主観というのは人それぞれだし、他人に邪道だと後ろ指を刺されても、貫き通したい事や信念が人にはあるはずだ。だから、それに関して僕はヨナに詳しく追及するつもりはない。

ただ、頼ってくれないことは少し寂しい。胃がむかむかしてやるせないくらいには。


「強い?」

「うん」

言葉短く断言するヨナ。

そっか。そっかー。強いんかアイツ。

そうか?


「……フィーちゃんは感覚が狂ってるだけだって。あいつの総合的な威圧はBランクの冒険者でも立っていられないほどのものだよ」

「え?」


……自分の才能を甘く見ていたんだぜ。

そうか。何気僕Sランクだもんなー。

ヨナが倒すだろうから本戦に出場する事はないだろうけど、正直当たってもひねりつぶす自身しかないぜ!


それよりも心配なのは、さ。

「大丈夫?」

「……う、ん」


恐怖だとか青ざめてるとかいうわけじゃない。

だけど、暗く冷たい、静かな怒りがその瞳から溢れ出ている。

普段はこんなときでも、僕の事をからかって楽しそうに笑っているのに、見たことがないほど顔が強張っている。


本当は気づいてた。

ヨナの屋敷に行ってチョコケーキを食べていた時、おじいちゃんと大事な話をしていたことくらい。

ヨナが騎士のブロックに申し込む事が出来たのも、そこのなにかのしがらみが絡んでいて理由があっての事なんだろうって。



だからこそ待っていた。

ヨナが自分の秘密を打ち明けてくれるのを。

僕に頼ってくれるのを。


「大丈夫。ボクは自分で何とかするからさ。フィーちゃんは気にしないで思う存分戦ってよ?」


だから、そんな寂しいことを言わないで欲しかった。

たぶんぎこちない表情をしていたであろう僕を労ってか、ヨナが頭を撫でてくる。

いつものからかいではない慈愛に満ちた優しい手つきで。


けど、気にしなくていいと労うその腕が、自分だけで解決しようとしている事を明言するようなその表情が、腹が立って、気に食わなかった。

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