憂鬱な一般ブロックと謎の美少女
「さあ、始まりました。激動の一般ブロック。各国から集った見習の騎士から精鋭クラスに認定される高ランク冒険者たち、さらには一般で参加したむさくるしい男たちや筋トレ愛好家まで。老若男女、腕に自信のあるものが参加する無差別形式。激闘を制し本線への切符を手にするのはいったい誰だー!」
やたらと高いテンションで幕を開けた一般ブロック。
司会の人の演説から初めこそ注目を集めて、会場も盛り上がっていたけど、今はもうほとんど席が埋まっていない。
理由は単純で試合が面白くないから。
僕らのブロックが衝撃的過ぎたのか、一応Bランク程度の猛者たちもいるのに誰一人として興味を示さなかった。
まあ、冒険者ブロックでは確実に勝ちを狙ってる人が多かったから致命傷を避けた上で本剣やフル装備が多かったのに対して、腕試し的な感覚で訪れた人が大半な一般ブロックでは本気じゃない人が多い。
そうなると必然的に、木剣や徒手空拳の人が多くなるわけだ。
誰しもわざわざ痛い重いなんてしたくないからね。
まあ、徒手空拳、木剣でもヨナやギルマスのように使い手が一流ならもっと盛り上がるだろうけど、まあそんな達人はほかのブロックにいることが多いわけで。
そんなんだから人が離れてくのも当然なわけ。
実際僕らも暇つぶし感覚で訪れているだけだった。
「え、えーと。明日からは獣闘士達の熱い戦いが待っているので是非立ち寄ってくださーい!」
司会の人の半ば懇願するような締めくくりで一般ブロックは幕を閉じた。
訪れていた人たちが席を立ち始める。
それに続くように僕らも会場を後にした。
「フィーちゃんはこの一般ブロックで気になる人いた?」
真紅に染まる日没に照らされた宿への帰り道。
ヨナが突然そんなことを訊いてきた。
「特に……」
「いたんでしょ」
ヨナさんや。そんなジト目で見ないでください。
そしてそんな至近距離によってこないでください。
覗き込むように見つめてくるヨナの視線に晒されるとドギマギするけど、それでも断固として意見を変える気はない。
「むー」
拗ねたようにそっぽを向くヨナに悪いことをしたと思いながらもホッと息を吐く。
あの秘密は意地でも僕の胸の内だけに留めなければいけない。
ヨナにだけは伝わってはいけない。
バレたらどんな目に遭うかわからないもん。
その後もあの手この手で僕から秘密を引き出そうとしてくるヨナの攻撃をどうにか全て掻い潜り、ようやく就寝時間になった。
そうして夜中。
ベットのシーツをムギュってしながら一人ほくそ笑む。
僕の隠し事がなんなのかというと第一回百合ハーレム計画の概要についてである。
ヨナに束縛されている現状でも僕はこの計画を密かに、そして刻一刻と進めていたのだよ。
……前進はしてなかったけど。
胸の内に燻ってただけだけど。
しかーし、今日唐突に現れたハーレム候補が!
その子は闘技大会一般ブロックで現れた一輪の花。
桃色の髪をお下げにした所謂ポニーテール。
そんでもって腕も申し分なし。
短剣使いっぽいところがまたカッコ可愛かった。
~っすという語尾も相まって、無害な盗賊みたいで保護したくなりま~した。
強かったけど。
ま、そんなことはどうでもいいさ。
ようやく僕の時代が来てしまったようなんだぜ。
今こそ、美少女を回収する時。
変態と男の娘はノーカンとして、真なる美少女百合ハーレム軍団を作るための第一歩を踏み出すのだ!
どうせヨナに矯正されて諦める?
否否、断じて否!
男なら常に高みを目指し、そして欲望に忠実に生きるものなんだぜ!
……今世は女だけどさ。