手加減を知っている吸血鬼
闘技大会、冒険者ブロック。
123、それが僕の番号で三回戦目。
この舞台で勝ち残ったもの一人だけが、冒険者ブロックの本選出場とBランク昇格が決定する。
だから絶対に勝つしかないのだが。
僕はブ〇リーにはなれない。
手加減ってなんだぁ。したら誤って人を殺しちゃう恐れがある。
ならばいっそ無手で臨もうかとも思ったんだけど、それだと所詮付け焼き刃。
何人か手練れもいそうなのに徒手空拳を選ぶのは賢明じゃない。
で、色々考えたんだけどやっぱり剣。これは外せない。
でも真剣だとたぶん僕の力だとたぶん殺っちゃう。
でも人を殺さずに済んでかつ、剣の形状をしているようなそんな都合のいい武器あるわけ。
……あった。ていうかあるよね。
ほら、あれだよあれ。
厨二心が芽生え始めた小中高男子が何故か買ってしまう魔性のお土産。
即ち、木刀。
そんなわけで『血液創造』で木刀を作ってみた。
僕の血液と魔力をふんだんに使っているから修学旅行で買う観賞用のような木刀とは違い、鉄の棒みたいな硬さにはなってると思うけど。
なにかを『斬る』ような殺傷力はない。
僕のステータスで攻撃したら間違いなく怪我はするだろうけど、大会にはファンタジーらしく、治癒魔法ないし、それに関連するスキルを持つ医療体制が整備されているので、問題なし。
作成した木刀はいつものように剣型の両刃ではなく片刃。
わかりやすくいえば、刀をイメージして作ってみた。
先端を逸らして攻撃にのみ重点を置いた日本刀。
古来より伝わってきた斬撃最強の武器ではあるけど実際木刀だとあんまり意味ないんだよね。
木剣より耐久力ないし。
けど、僕の作った木刀を有象無象の木刀と一緒にされては困る。
普通の木刀じゃ木剣と打ち合ったらこっちのが先にガタが来てぶち壊れると思うけど、僕刀(誤字じゃないよ。ギャクだよ)ならむしろこっちが壊しに行けるからね。
どこかの万事屋のようなシンプルな物も考えたけど、いつも使っている『裁きの血剣』に慣れすぎて、違和感が凄かったから、黒く染め上げた。
ついでに某ラノベ主人公如く、二刀流。
即興とはいえ、僕の全魔力を注ぎ込んで生み出したものだからかよく手になじむ。
もっとも、刀身は70程なんだけど。
身長が低い現実が辛いです。
「死ねぇい!」
身長の低さを嘆いて俯いてたら山賊みたいな毛だらけの獣人の男が正面から跳びかかってきた。
……イヤ殺したら反則でしょ。
心中でツッコミを入れつつ、片方の木刀を水平に構え、真っ正面からの振り下ろしを横なぎの斬撃で迎え撃つ。
それだけで冗談みたいに吹き飛んでいく獣人を見送りながら苦笑する。
ジャンプしてドデカい木剣持ってる男を70cmくらいしかない小刀でぶっ飛ばすって改めて考えると僕のやってることヤバいね。
「うらぁ!」
自分の無双ぶりにさすがに吹き飛ばされた獣人を哀れに思っていると、背後から掛け声とともに剣が通り過ぎた。
反射にも近い反応速度で、横薙ぎに放たれた斬撃をしゃがんで躱し、身を捻って反撃。
危ない危ない、僕のステータスなら傷一つつかないだろうけど、ビジュアル的にカッコ悪いから、攻撃には一回も当たりたくない所存。
半回転して、勢いの乗った木刀の打撃をモロに横腹に食らった男は紙みたいに闘技場の壁目掛けて吹き飛んでいく。
その男を尻目に、背後に降り立った暗殺者っぽい人に剣を逆手に持ち替えて突きを放つ。
二刀流での戦闘スタイルは基本的に受け身。
某ラノベ主人公みたいに無双できれば楽しいんだけど、無理に走って戦おうとすると地面に木刀が当たりまくって委縮する。
だから『デュアルブラッド』での出場も考えたんだけど、あれはリーチが短すぎて剣を主体にしている冒険者には対応しづらい。
シンプルに一刀流でも良かったんだけど、許せ。我は一度これを使って無双してみたかったのだよ。(キラーん)
それにしても襲ってくる人たちが途切れない。
不名誉な僕達の二つ名『紅と蒼の戦姫』の名も王都ではその威光を発揮していないようだ。
嬉しいような、ちょっぴり悲しいような。
なにこの複雑な気持ち。
「少女よ。すまぬな。これも戦い」
そうそう。たぶん僕が女でしかもちんちくりんだから。
……っ! だれがちんちくりんだ。こらぁ!
下段から拳で腹パンを放とうとしてきた獣人を柄で峰打ちして黙らせる。
イヤ。怒りで叩きのめしたい衝動にかられたけどさ。思ったより誠実でカッコいい人だったんだもん。仕方ないから手加減したんだよ。
僕ってば優し。
『おーっと。またも少女が暴れているぞ。今年は本当に猛者ぞろいだー! 盛り上がってきましたわー!』
二刀で暴れていたら僕が強者と実況にばれてしまった模様。
いいぞお。もっともっと。僕の強さを崇め奉ってしまえぇぇ!
「なんだ。このガキめちゃくちゃ強えぇぞ」
「は?」
今なんつった?
脳みその働いてない使い古された木剣使ってる貧相な身なりの吸血鬼って、そう、言ったのか? そうか、そうですか。
僕は寛容だからね。
そんなことで怒ったり、怒ったりは……
――ぶっ殺したるわ!
武踏会一帯に魔力波を放つ。
見物の人たちは巻き込まないようにきちんと制御した上で。
ふっふっふ。
サリエラのギルドでの反省を活かして制御の練習をしてきたのだ。
さあ、地獄に行っても見られない殺戮ショーの始まりなんだぜ!
「……」
と思っていた時期が私にもありました。
なんとまあ魔力波が強すぎたのか、みんな泡吹いて倒れちゃった。
ナニコレ。どこの覇〇色。
全然手加減できてないや。いっけね。許して。
と思ったら背後に気配を感じた。
「ひゃっはー!」
「うわぁ」
戦闘狂かな?
僕にも理解できないどこかの戦闘マニアの事が脳裏に過る。
今頃あのバカ息子はなにをしているのやら。
僕がのんびりそんなことを考えている間にも、なかなか素早く無駄のない動きで狂人が疾走しながら袈裟斬りを放ってくる
「ひゃぐっ――」
取りあえず今大会で一番の力を込めて腹に突きを放っておいた。
場外まで吹き飛んで壁にめりこむ狂人。
僕の突きを見た瞬間に木刀を断ち切ることに方向を変えてた。
なんつう戦闘センスやねん。
結構本気でやっちゃったけど、あれならたぶん死んでないな。
うん。僕の魔力波に耐えてたんだし、多分大丈夫でしょう。
そんなわけで僕の予選が終了した。