闘技大会予選 ヨナ無双
修行? を終えて遂に迎えた闘技大会当日。
僕らは王都で開かれるというローマのコロシアムっぽい会場の前で出場者向けのテントで受付を取っていた。
「はい。クローフィー様とヨナ様ですね。『紅と蒼の戦姫』の噂は伺っております。ぜひ楽しんでいってくださいね」
「うん。ありがとう」
柔和な笑みで手を振る担当の受付嬢さんに手を振り返して、その場を後にし、観客席のほうに移る。
ヨナは隣にはいない。
第一試合の冒険者Aブロックに出ているから。
僕が寝坊して試合に遅れなければ、もうちょっと観戦する時間もあったはずなのだが……
後悔先に経たず、ヨナは大急ぎで会場に向かっているってわけ。
はい。ごめんさない。反省してます。
ヨナも結構な気概で挑んでいたのは知ってたけど、自己改造を施したベッドの感触が温すぎて魔の領域に幽閉されていたんです。つまり、悪いのは僕じゃなくて温すぎるベッドさんの方です。
そして、そんな些末なことよりも重要な問題が一つ出来てしまった。
遅れてきたせいなのか、それとも闘技大会が人気なのか、ほとんど席が埋まっていて空いている席がない。
いや、さすがにちょこっと空いてたりはするんだけど知らない人と知らない人の間に挟まるとか、コミュ障の僕には拷問以外の何物でもないし。
……この際、後ろのほうで立ってみるか。
後方に移動して、立ち観戦。
ヨナの勇士を少しでも見届けようとステータスで強化された視力でじっと見る。
うーむ。無双してらっしゃる。戦〇無双してらっしゃる。
バトルロワイアル制と聞かされていた時点で、こうなることは予期していたけど、実際にそれを見ると唖然とするしかない。
だって誰一人としてヨナの動きを捉えきれていないんだもん。
むくつけき屈強な冒険者達が自分の身に何が起こったのかもわからないまま、吹き飛んでいってるように見える。
観客席の各々もあんまりの光景に目を点にして固まってるし。
そうじゃないものも顔を引くつかせてるし。
まあ、これはひどい。
ヨナが手加減という言葉を知らないのは知っていたけど、これはもう戦いというよりただの蹂躙だね。
なんかもう某少年漫画のハンターみたいになってる。
そんな地獄絵図が、何分か続いた後。舞台に立っているのはヨナだけになった。
コロシアムの観客席の中央。仕切られた特別席で、審判みたいな人が惚けて呆然としながらも戦いが終わったことに気付き、夢から覚めたように宣言した。
「だ、第一試合、冒険者Aブロック、勝者。エントリー番号34番。ヨナ選手」
遅刻して焦っていたはずなのにそんなことは関係なしとばかりに全員殲滅しちゃったよ。
ヨナさん。
そんなわけで一回戦が終了した。
そういえば、この戦い。午前中フルで続く予定だったらしい。
それがヨナの参戦によってものの数分で終了したと。
……うちのヨナがなんかすみません。