夜の森の吸血鬼 初めての『吸血』
すぐさま裁きの血剣を構えて疾駆する。
勢いそのままに一匹のコカトリスの首を跳ね飛ばす。
他のコカトリスたちが仲間の首が飛んだのに気を取られている間に両腕を使って振るっていた剣を瞬時に右腕逆手に持ち替え、群れの一匹に突きをかまし、そのまま腹を掻っ捌く。勢いを殺さずにそのまま跳躍。回転斬りの要領で3匹目を切り倒す。
状況に追いついたコカトリスたちが僕を囲むようにして近づいてくるが、それも空中に逃れることで回避する。
「裁きの魔槍」
空中で手のひらから『血液創造』で生み出した槍を高速で射出。
槍は寸分たがわず命中し4匹のコカトリスに致命傷を与えた。
着地して再び戦闘態勢をとるが
「グぎゃあァァあぁあああぁ」
「グギャっグギャっぁ」
なんて耳障りな金切り声を上げる身動きの取れないコカトリスたち。
周囲に魔物がいないことを確認した僕はどっとその場に座り込んだ。
「はぁっ。疲れたっ。」
こんな、かなり無茶のある1対多の戦闘を繰り返してるせいで空腹と、睡魔に拍車がかかっている。 これが心身ともにつかれるって感じなのかな?
だとしたらこんな感覚は二度とごめんだなぁ。
でもこの森を抜けること事態。いつになるかわからないんだよなぁ。
ひょっとしたら明日も……
…………とりあえず今は空腹をしのぐために血を飲まなければならない。
『血液創造』で作成したパイプ管のようなものを使って、剣や槍で作った傷口に突き刺して、同じく『血液創造』で作ったコップに血を注いでいく。
数秒でいっぱいになった血液は人によっては異臭と感じるであろう臭いを放っていた。
これだけで転生する前の自分が見たら悲鳴を上げそうな絵面だが、今の僕は特に何も感じない。
この血生臭い獣の匂いなど誰もが嫌悪感を抱くだろう。しかし、現在。僕は自分でもわかってしまうほどに気分が高揚していた。コカトリスの『血液』に興奮している美少女(願望)(主人公)など誰も喜ばないはずだと頭では理解しているのに、僕の体は食欲と吸血欲を抑えられないのか自然と口までコップを運んでいた。
……覚悟を決めて酒を仰ぐように血を口に流し込む。
「ん……は、ぁ……んく」
口に入れた瞬間、舌が痺れを感じるほどに痙攣した。暖かい飲み物を飲んだ時とは大きく異なる生命の温かさを感じる。
舌から喉、お腹に血液の温かさがそのままに流れ込んで僕の体を満たし、電気が駆け巡る様に熱が走った。
耐えがたい熱を帯びた身体に意識がリンクし始めて思考までも熱に霞んではたらかない。
まずい!と思った時には既に遅くて、
熱っぽい蒸気を帯びる身体の感覚に耐えられず、僕の意識は容易く刈り取られていった。
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『吸血』
吸血鬼の種族スキル。
普通の吸血鬼が飲めば血液によって味覚に違いを感じる。
1L摂取することで人間が一日に必要とするエネルギーと同等の栄養価を得ることができる。血を飲めば君も常時健康体だ。
やったね!
〈注〉
『血に飢えた獣』所持者が血液を摂取すると体が熱を帯び始めさらなる血を求めスキル所有者の意思に関係なく無差別攻撃を始める。
このとき身体に取り込んだ血と自らの血が高速で体内を駆け巡り、強制的に血流を加速させる。一時的にステータスは2倍以上に跳ね上がるが自我が戻った時に激しい倦怠感と虚脱感が襲う。一時的に全ステータスがワンランク下がる。半日も経てば回復するが、時間は体調と状態で大きく変動する。
自我を保つことは非常に困難であり、意識を食いとどめたとしても暴走する力をコントロールすることは困難に近いが、『血液操作』の所有者であれば……
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