王都到着! したけど……
到着しました。王都でございまーす。
長かったー。多くの町々を跨いでようやくなんだから。
道中いろいろあったよ。
ヨナが女子と間違えられて冒険者にナンパされてヤンキーもびっくりな迫力でマジギレしたり、途中の大浴場で身長が低くて危うく溺れそうになったりとか。男女別々、ヨナと別れて入るお風呂がちょっぴり心細かったりとか。
そんな感じに前世の自分もびっくりな充実した旅を送りながら王都に辿り着く頃にはちょうど1年くらい経っていた。
ヨナの話によれば普通はここまで来るのに2年は掛かるらしい。
なんでも獣王国の広さは前世の日本とは比べものにならないみたい。
昔の戦争ですごい広い土地を手にしたとかなんとか。
大会まではあと半月ぐらい。
まだソフィー達は到着していないようなので暫くは王都に留まる感じだね。
いや、でもソフィー達と離れ離れになっていた間。ヨナに出会えて本当によかった。
離れ離れになっていただけでも絶望的だったのにみんなで過ごす楽しさを知ってしまったらもう一人には戻れないと思っていたから。不思議だよね。前世では内気で根暗でコミュ障の権化でかなりの人嫌いだった僕が、今世では人と触れ合いたいという感情が溢れているんだから。
獣王国に来て不安を押し流すためにポジティブ精神を胸に頑張ってきていたけどれど、ヨナに出会っていなかったらソフィー達に会えないことの悲しさや苛立ちとか焦りとかそういった負の感情が暴走していた気がするから。
なし崩し的にヨナと上下関係が出来た様な気がしないでもない……
けどまあ改めて考えると心の支えになっているのも事実かもしれないなあ。
感謝感謝マジで感謝ー。ですわ。
―――――
そんなことを思いながら過ごし三日が過ぎた。
「……」
「ふぃィーちゃぁん」
珍しく早起きした僕のベットに当然のように潜り込んでくる影が一人。
性的な意味じゃない。さすがにまだそこまでの関係には至ってないし、僕のプライドが許さない。じゃあなんでヨナがベットにいるかって?
そんなの僕が聞きたいし。
防衛手段として違う部屋を取っているというのに夜な夜な侵入してきて気が付いたら横にいるんだよ。もうどんなホラー映画だよって感じ?
それで朝起きて詰問しても「なんのはなし?」の一点張り。
いつもの人を小ばかにするような笑みも張り付いてないから無自覚な行動なんだろうけど、そんなのドラ〇もんの秘密道具でも使わない限り起こり得ないと思うんだけどねえ。
演技、というのが有力だけど主演女優賞でもとるのかっていうくらい違和感がないからなぁ。
「はぁ……」
溜息を吐きながらも身支度をする。
といってもやることはないのでホントに着替えるだけなんだけど。
羽織るのは闇色のローブ。
緋色に染まった剣が交差する装飾を胸ポケットのあたりに施した僕お気に入りの一着である。
まあ、『血液創造』で作った自作だから気にいるのも当たり前っちゃ当たり前だけどそうじゃないんだ。
イメージが正確にできていたせいかめちゃカッコいいんだ。
デザインもシンプルにしたからか違和感がないし、血剣を模して作った装飾は黒いローブにとんでもなく合っているし。
それだけにとどまらず日々、動きやすく改良してるし、戦闘着としても優秀で耐久性にも優れている。
いやね。『血液創造』で創造する時の血にマンティコアの鱗をちょこっと入れてみたらなんかすっごい硬くなったんだよね。
なんとなくでやってみた行動だったけど、自分のスキルに眠る新たな可能性を深淵から呼び覚ましてしまったようだぜ。(ドヤぁ)
やっぱり素材がいいと上質なものができるのかな?
モン〇ン的な感じでさ。
『禁忌の森』にいた頃のジャージやパーカーも良かったんだけど、このローブを羽織っていると異世界の住人だぜって感じがするんだよねー。
あとサリエラにいた時にジャージ着て村歩くと集まる奇異の視線が痛かったし……
「あれ? なんでボク、フィーちゃんのべっしょにいるの?」
「さあ?」
跳び起きて目を見開き、開口一番そんな事をのたまうヨナ。
いや、それはこっちが聞きたいことなんですけど……
「まさか、フィーちゃんのほうからそういうことをする決心が」
「違う」
それはない。ぜーったいにない。
僕のプライドにかけてあれだけは守って見せる。
……いつまでもつかはわからないけど。
嘘うそ! 永遠に守って見せるし! 心は男だし、僕!
「ノリ悪いなあ。そこは嫌でも肯定しておこうよ」
自分から布団に入ってきたのにぶつくさと理不尽に文句を垂れるヨナをサラッと無視、からの放置して食堂へ向かう。
「ごちそうさま」
「うん。今日もおいしかったね。おばちゃん、ここにお台置いておくねー」
食事を終えたので宿のテーブルに突っ伏し、ボーっとする。
この一時が至福なんだよなあ。
次第に眠気がやってきて視界がぼやけてくる。
すやあ。
「フィーちゃん」
ヨナにしては珍しい真剣な声。
ここまでなんだかんだと2年以上の付き合いなので普段の声音の違いぐらいは読み取れる。
眠気の残る体をどうにか起こして声のするほうに意識を向けてみると女の子がいた。
年の頃は僕らとあまり変わらないのではと思う感じ、背丈は僕より、……すこし、すこーしだけ高い。
白銀の長髪を背に揺らし、それとは対照的な黄金の瞳を宿している。
美女ではあるが妖艶な美女、というほどではない。少女が背伸びをして美女になりたがっているようなそんな雰囲気を持っている。
それにしても獣人国では人間を見かけることでさえ稀なのに、女の子とは珍しいなあ。
少女は自然な動作で向かいの椅子に腰かけて同じテーブルで注文を始めている。
あのー。
少しのためらいも見せずに人のプライベート空間に入ってくるのはどうかと思うんですけど。
「あなた、何者」
ヘア?!
唐突に耳元で空気が揺れた。(息がかかっただけ)
心臓がビクッて跳ねたんですけど!?
どういう距離で会話してるんすかあなた!
それが初対面の人にやる行為ですか!
……普通に人間性疑うわー。
「《《ボクの》》フィーちゃんにそういうことはよしてくれないかな。怖がっちゃうから。それに人にものを聞くときは自分から名乗るのが礼儀ってものじゃないかな?」
僕を庇う? ようにヨナが立ちはだかる。
いいぞォ。そのままマナーの分からないセクハラ女を退けてしまぇ!
「たしかにそうね。わたしはサテラ、勇者よ。そっちのあなたの種族は吸血鬼。違う?」
ば、バレてる。吸血鬼ってことバレてるよ。
な、なんで? どうして。
確かに黄金の髪に碧眼の瞳とかなにか見透かしそうな能力ありそうだけどさ!
『禁忌の森』でのスキル取得に励んだ時も鑑定さんみたいなスキルは見つからなかったし……
勇者と自ら名乗っていたわけだし限定の特殊スキルとかだったり?
他の人たちと纏う雰囲気も魔力波も一線を画していたからただものじゃないということは事前に想像がついてた。
けどセクハラしてきたのは予想外だったのでびっくりしたし、急に人の種族を公衆の面前で(誰にも聞こえてません)暴露してくるし。
なんなんだこの論理間の欠片もない人は!
……で、でもしかし僕に出来ることといえばあやわやすることだけ。
だってまず何から話したらいいのかわからないもん。
誰かー。攻略適正のある会話セットをプリーズ。
こういう時はヨナに対応してもらうに限る。
任せたぜ。我が始祖たる吸血鬼の弟子一号。ヨナよ。
コミュ障な僕に代わって追い返してくれたまえー。
自分で喋れって? 無理無理。初対面の人は他人と同義。
そもそもそんなハードな意思疎通技術、コミュ障にあるわけないでしょうが!(逆ギレ)
あけましておめでとうございます。今年も始祖吸(作品の略)をよろしくお願いします。
4章はなんか話が支離滅裂で複雑な気がす。
ちょっとおかしくても寛容な目で見てください。(威圧)
キャラットで作成した一枚絵的アバター(サフィア、ヨナetc)を追加しました。→https://ncode.syosetu.com/n7912gs/1/
お手数ですがurlをコピぺするか設定資料集をご覧ください。
いつの日か、今後は後書きに画像を乗せるといったな。あれは嘘だ。
訳(一気読みしている方が読みにくくなりそうなので後書きのこの場では省略させて頂きます)
今回の話に出てきた勇者とかは気が向いた時にでも作るかもです。気長にお待ちください。