落ち着かない吸血鬼
ヨナに強制連行されてやってきたのは冒険者ギルド。
この一年で粗方クエストは請け終えて金銭的に問題があるわけでもない。
ヨナ―。いったい、どうしたというのだ?(アスパラガス)
「ソフィーちゃんとサフィアさんだよ」
僕の疑問に気が付いたのか、ヨナがそう発言する。
というか……
「もしかして忘れてた?」
「そ、そんなこと……」
「視線泳ぎっぱなし。図星がバレてビクッてしてるし」
うぐぐ。なんかもうNOZOKIを決行したあの日からヨナの手のひらの上で踊らされてる気がする。
いくら今が女であろうとも、元男の僕としてはプライドというものがあってだなあ。
「どういったご用件でしょうか?」
嘘です。ないです。そんなもの微塵も持ち合わせてないです。
だからヨナさん頼みます。コミュ障の僕に代わって受けごたえを。
「はあ。分かったから。フィーちゃんは聞いてるだけでいいよ」
視線で感じ取ったのか、溜息をつきながらも肯定してくれるヨナ。
どこかの変態に任せた時は不服だったけど、ヨナなら安心。
カッコ可愛くて語彙力もある。ヨナさん。
そこに痺れる憧れる~!
いいぞお。そのまま受付嬢との会話を終わらせてしまぇ!
「じゃあ、闘技大会の開催は王都で一年後ってことでいいんだね?」
「はい。でも正直ヨナさんとクローフィーさんが出たら対戦相手が可哀想ですね……」
「ははっ…… 誉め言葉として受け取っておくよ」
「ルールについては聞きますか?」
「うーん。そうだね。僕は元々獣王国出身だから要らないけど、フィーちゃんもいることだし頼もうかな」
「闘技大会は三つの部門に別れています。一つは無条件で参加でき、誰でも参加できる一般部門。二つ目は王都の戦士である獣闘士と各国から集まった騎士たちが戦う部門。
三つめは各国の冒険者がBランク昇格を掛けて争う冒険者部門。以上三つの部門で構成されています。尚、冒険者ブロックの優勝者にはエキシビジョンマッチとしてSランク冒険者との模擬戦がございます。そして最後に各部門の優勝者達によるバトルロワイアルを行うといった流れになっています」
へー。まあ僕はそんなこと聞かされても出場する気ないし、どうでもいいけど。
「眠そうなところ悪いけどフィーちゃんにも出てもらうからね?」
「イヤ」
「ソフィーちゃんは一生奴隷扱いを受けるかもよ?」
「……ずるい」
元々ベントから聴いていた話。
冒険者ランクを上げなければエルフはまともな扱いを受けられない。
僕がそれにどれだけ憤っても世間一般的には僕がおかしいことになってしまう。
その待遇を少しでも緩くするならば参加するべきなのだ。
つまるところそういわれては拒否することも蔑ろにすることもできないわけで。
僕個人としては出場なんてまっぴらごめんだし、男の尊厳を守るためにそしてからかわれる材料を作らないために(後者がほとんど)ヨナに従うのは癪だけど、承諾する以外道はなかった。
はあ……
波乱万丈な日々なんて送りたくないのに。
まさか物語の主人公みたいに万有引力みたいにトラブルを引き寄せてるとか?
ま、そんなわけないよね。だって僕は悠々自適な生活を送りたいだけだもん。
別にどこかの殺人サラリーマンみたいな性分があるわけでもないし。
僕が自分でもよくわからない方向に思考がシフトしている間に受付嬢との会話は終わったらしい。いやー助かった。おかげで一言二言ずつ話して三十分ぐらい掛かるという地獄を味合わずに済んだよ。
「フィーちゃん。話聞いてなかっでしょ」
「ふゅーふゅー」
「口笛しても誤魔化せないって、音も出てないし。端的に言うとサフィアさんとソフィーちゃんとの合流の目星がついたよ」
それはまた、大変な……
なんですと?!
「ホント!?」
パーティーを正式にソフィー達と結成すれば、一人ランクが上がればBランクに昇格できる。それはわかっていたけど、どうやったらそれでソフィー達と合流できるのよ?
「うんうん。ホントホント。でもちょっと心配だよね。取られちゃうんじゃないかって?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて意味ありげな視線を向けてくるヨナ。
僕は鈍感係主人公ではないのでその意図は読み取れるけど口を開くとまた手玉に取られそうなので沈黙のモン〇ピートになっておく。
「……」
「おーい」
無駄だ。今の僕は眉一つ動かさない真剣モード。
何者も表情を崩すことはできな――
「!?」
「お、やっぱ効いた。」
あ、たたたたたた、あた、あ。あたまを撫でられた。さわさわーって優しくヨナの細い指が僕の髪を揺らしてナデナデされた。
それが恥ずかしくって途端に顔全体が熱くなる。
撫でるだなんてそんな、ソフィーにだって指で数えるくらいしか頭撫でてもらったことなんてないのに!
きゅ、きゃ、きゅう、キュンとしてなんてなんななないし、単なる羞恥心だよよぉ。こ、こんなのは。
いやホントにね!嘘じゃないから。信じろ!
それでも僕の気持ちに反比例して、湯気でも出そうなくらい顔が熱を帯びていく。
こんな状況でもどうにかポーカーフェイスは維持してるからすまし顔をヨナに見せてやりたいところだけど、真っ赤になっているであろう自分の顔を見せるわけにもいかない。
「ううー!」
結果。僕に出来ることといえば羞恥心を紛らわすためにヨナのお腹をポカポカと叩くことくらいしかない。それからしばらく僕が羞恥心に悶えるのを観察され、その間もずっと頭を撫でられた。
どうしてこうなった。
こんなはずじゃなかったのに。
吸血っ娘な僕の楽しい百合百合、ハーレム作りはどこに消えた。
どこで道を間違った!(NOZOKI)
くそう、せめて僕のほうが身長が高ければ!
逆の立場になることもできたかもしれないのに!
前世の身長よ。再び我が元に集え! 栄養カムバーーック!
っていうかそう考えたら『遅老』のスキル要らないんだが!
生理とかは体験したくないけど、ハーレム創るためなら多少の痛みぐらい厭わないんだが。でもスキルを消す方法とかないだろうしなー。
どうすりゃいいのよ。教えて作者ー!
「王都?」
「そう、そこで闘技大会が開かれるんだ。大規模なイベントだからソフィーちゃんやサフィアさんも目を付けるだろうしうまくいけば合流できるんじゃないかな?」
「人前やだー」
「でも我慢しないとでしょ?」
まあ、そうなんだけどさあ!
「うー」
「まあまあボクも協力するから、ね?」
自然とまた頭を撫でられた。
でも人前に出るのが怖くて不安な今はちょこ―ッとだけ心が安らいだし、悪くはなかったかも。
……嘘!嘘だから、僕はまだ屈してないから!
僕の反応をみて頷くヨナに必死に抗議の視線を向ける。
「ま、そういうことにしといたげるよ」
表情だけで僕の考えが読み取られた、だと。
以心伝心って奴。
でもまだ一年しか一緒にいないし、ソフィーともこんなことなかったのに。
き、きのせい、だよね?