冒険者達の賭けとヨナのマジギレ
「なあ、どうよ? 『赤と青の戦姫』お前どっちがタイプよ?」
「はあ、お前なあ、あの二人まだ成人もしてないような子供だぞ、もしかしてお前そういう趣味なの? ひくわー」
「そうじゃないんだって。成長した時のことも考えてだなぁ」
二人の若い冒険者たちが酒を酌み交わしながら言い争っている。
「やめとけやめとけ。お前ら。冒険者ってのは実績か強さが物をいう。少なくとも女子ってのは自分より弱い奴としたいだなんて考えないだろ」
そういうのは髭を蓄え、獣耳を生やした巨躯の男。
このギルドの統括人。
『ソル』のギルドマスターである。
現役時代はその強さから恐れられ、『暴君』のアインとまで呼ばれた一流の冒険者だったらしい。
どうでもいい話、収入も多く、その毛深い見た目と巨体からは想像も出来ないほどモテたという。
気さくで正義感の強い性格もそれに拍車を掛けていたとか。
吸血鬼がどっかで戦ったテンプレかませゴリラとは大違いの毛深い男である。
「そうはいうけどさーアイン。やっぱ可愛いじゃんあの二人」
「まあ、それは認めるがな」
ここ、獣王国では女の冒険者が比較的少ない。
というのも力が男子のほうが勝っていることが多いためだ。
獣人は基本的に肉体派だ。
魔法に適正のない獣人がほとんどのため、後は性別の力関係的に女子の冒険者が少なくなるのは道理だろう。
一部の男子の方が力が強くて気に食わない性悪女獣人(謎のパワーワード)も別の町に移住する、というわけだ。
「ならアイン。いや、ギルマスサン的に見てあの二人はどうよ?」
「それはさっきお前らがしてた賭けと俺の好みとどっちだ?」
「両方だよ」
「……そうだな。俺の目から見てオーガくらいは軽くのしてしまうだろうな。あと、俺は赤が好みだ。子供ながらにクールな雰囲気でいてそれでいて強い。俺の第四の嫁候補にぴったりだぜ」
その後、アインの予見した通りクローフィーとヨナはオーガを倒し、二人の人気と噂がさらに広まる事となった。
「だから、僕は男だって言ってるでしょ!」
その言葉にギルド中が騒然とした。
今まで何気なくクエストボードを観覧していたものが、テーブルで談笑していたものが、昼から酒を煽っていたバカどもが。
皆一様に目を点にしてヨナの事を見つめる。
その冒険者たちの目が語っている。
『何言ってくれちゃってるんだこの娘は?』と。
ヨナ達の強さはギルド内で周知の事実となっているためにゲラゲラと笑い出すバカはいなかったがヨナの横で頷くものが一人。
「やれやれだぜ」
肩をすくめて小声で呟くフィー太郎。
それはこの状況に納得を示す言葉。
その言動にヨナが気づかないはずもなく怒りの矛先が吸血鬼へと移る。
「ねえ。フィーちゃんはこの結果が当然だ。なんていわないよね?」
顔は笑っているのに、目が全く笑っていない。
こんなにも理不尽な詰問が他にあるだろうか。
否!。どこにもない。
この世のどこを探してもこんな理不尽な詰問は見られんよ。
クローフィーには同情する。
「あ、はい。」
吸血鬼の決断は冷静で迅速だった。
怒らせたことを瞬時に理解し、怒りがこちらに向かないようにヨナの言葉を肯定した。内心は震えまくっていて、それしか言葉が出てこなかったのかもしれないが。
「だいたいさあ。如何してボクに告白する人がいるのかなぁ? なんで男に男が告白されなきゃいけないのかなぁ?」
「ぶっははは。さっきから聴いてたらなんだよ。お前。女の癖に自分が男だって言い張ってよ。もしかしてよぉ。頭のねじいかれちまってんのかぁ? この『双牙』のバローン様が犯して教育してやろうかぁい。」
しかし、次の瞬間にはバローンは顔面蒼白と化した。
「ぶおえ?」
情けない悲鳴を上げて椅子から転げ落ち、地べたと接吻を交わす。
もちろんヨナの仕業である。
怒りが完全に振り切れたヨナの触れるもの全てを破壊せんとするような濃厚な殺気が(スキルじゃない。凄み、心で理解するんだ)がギルドを覆ったのだ。
唯一平然としているのは吸血鬼ぐらいなもの。
最もその吸血鬼も、ヨナの怒りが自分に飛び火しないかを恐れ、ギルド内の冒険者達とは別の意味で顔を引きつらせているが。
しかし、一番不運なのは依頼を発注しにきた一般人の方々であるだろう。
震える瞳でヨナのほうを見つめている。
一般人たちよ。お前たちは何も悪くない。悪いのはこの場に居合わせてしまった運だけだ。強く生きろ。
皆が顔面蒼白。恐怖状態に陥ったギルド内で一人ヨナが宣言する。
「ふう。取り合えず今回はこれで留めてあげるよ。あ、それと一つ忠告しておくね。フィーちゃんはボクの物だから。手を出す輩がいたら粉みじんになるまで殴り倒して、ウルフの餌にすっかんな?」
その言葉に一番恐怖したのはクローフィーだろう。
さらばフィーよ。
お前の事は忘れない。
せいぜいヨナと幸せになってくれ。
そして一般人達よ。強く生きろ。
フィー太郎→クローフィーです。
あれを読んでる人ならなんとなく伝わずはずです。