葛藤と意識と暴飲暴食
……あれ、なにがあったんだっけ。
たしかヨナの裸をNOZOKIしよとしてそれで……
そうだ。確かヨナの顔と至近距離という爆弾以上の可愛さ破壊力にやられて、それでなんかもう自分でもよくわからないままに胸が高くなって。
「あ、目覚めた?」
僕が起きたことに気が付いたのかヨナが心配するように声を掛けてくる。
「……ふぇ?!」
ドサッ。
余りの驚きにベットを転がり落ちた。
ステータスのおかげか、大して痛くはなかったけど、それ以上にヤバいことがある。
主に精神面で。ヨナの顔がまともに見れない、ころころと変わる表情とか、仕草とかそういった細かい動作一つ一つに見惚れてしまうのに、顔はまともに見れない。なに、なんなのこれ?
「ははーん。」
卑しい笑みのはずのヨナの表情もなぜだか胸が熱くなって心臓がバクバク鳴り響いて、火照った体と共に視界も悪くなって、
「そっかー、そっかそっかー。」
「うん。もう少し、落ち着いたら下においでよ。いつものメニュー注文しておくからさ。」
そう言って立ち上がり歩き出すヨナ。
それを視線でボーっと追いかけながら部屋を出ていくその瞬間まで見つめていた。
暫くベットに横になって惚けていたけど、自分の肌の不快感で我に返った。
「なにこれ」
身体がびしょびしょ。一生分の汗を垂れ流したのではないかというほどの汗の量。
どうしてこうなった。寝汗。というわけではないよね。さすがに寝汗でここまでとは思えないし、それだったらもっと早く気づいているはず。
考えられる可能性とすれば。
「ヨナ」
おそらく僕がこんな状態になったのはあの少女、いや男の娘のせい。
うう。だってあんなの反則じゃん。顔近いし、可愛いし、なんというかどことなく艶やかで、女ではないとヨナ自身が明言しているのに艶めかしい感じまでするというか。
兆候は少なからずあったことは自分でも気づいていた。
蛇の一件の時、ヨナに血を貰った時になんというか今まで以上の陶酔感と甘い感じがして快楽に飲み込まれてしまいそうになった。
あの時は戦闘欲求のせいでおかしくなっているだけだろうと切り捨てたけど、今思えばそうじゃなかったんだ。あれは戦闘の呆気なさに萎えて沈んでいたのもあったけどあの時から既に少なからずヨナの事を意識し始めていた。
「ふう」
まさか誰よりも百合百合することが大好きだったはずで、この世で最も大切に思っていたはずのソフィーじゃなくて、百合ハーレムを作るでもなくて男、の娘に惚れてしまうなんて。自分で自分が情けない。
同時に恋なんてしたことがなかったから新鮮でときめいている感情が片隅にあるのも苛立たしい。
「うがー」
でも考えたってどうにもならない。解決しない。出来ない。
運命なんて大嫌いだし、信じてないけど、なんかもうなるべくしてこうなってしまったのかもしれない。
この体になってからというもの、生理とかが来てるわけでもないし、ずっと男の気持ちでいたけど、深層心理ではもしくは今の性別的には自然に男を求めていたのかもしれない。
でも僕はたぶんそれでも心は男だと思っていたし前世の自我が強かったからそれに抗えてたんだと思う。
実際今でも男には嫌悪感しかないし、あんなのにあれをされたいともしたいとも微塵も思わない。
だけど、ヨナになら、そのされてもいいかも。
なんて思えてしまって。
「わー。あー。わー。」
悶える。ベットに足を交互にばたつかせて体を浮かせてエビのように跳ねる。
この世界に転生して自分の気持ちに嘘をついて生きていきたくないと誓ったのは自分だ。
だからもう仕方がない。開き直ってでもどうにかなってでも生きてやる。
もう男の娘。なんて謎生命体に惚れてしまった以上。自分自身が男なのか女なのかもわからないけど、それでも今日を楽しく生きるしかない!
「よし!」
そのためにもまずは腹ごしらえからだよね。
ちょっとの空腹でも万病のもとっていうし。
「お、こっちこっちー」
「……」
基本欲望に忠実な僕だけどやっぱりこの娘に心を奪われてしまったのは間違いないと改めて確信する。だって一挙一動が可愛いと思ってしまうし魅力的に見えてしまうし。
……それでも今はお腹がすいているのでご飯が先決だね。これを問題の先送りともいう。
「はぐ、ごく。あむ」
「フィーちゃん食べ過ぎじゃない?」
「別に……」
嘘だけど、わかってるし、やけ食いだってことぐらい。
自分に嘘はつかないけどいくら男の娘とはいえ、男が男にほれてしまったことに嘆いているわけでも悲しんでるわけでも苛立ってるわけでもないし。
しー。違うし。うん。
この宿屋では冒険者ギルドと位置が近いため高名な冒険者やランクの高い冒険者がよく使用する。
中や宿屋は広く従業員の数も相当なものなので経営費とか馬鹿にならなそうだし、お風呂の維持も大変そうに見える。
しかし、実際は掃除は行き届いていて浴槽も綺麗で天井で回転する魔力灯の光も雰囲気が良くて売り上げも上場。
そこにはちゃんとわけがある。
結論から言うと魔物のおかげ。
魔物はテリトリーからでて町を襲うこともあるから危険な生物ととらえがちだけど、生活するうえではいい食料になるのだ。
魔力を持ったただの生物だから解体すれば普通に食べられるしね。
その魔物肉を利用してここでは冒険者が刈ってきたウルフやら蛇やらウサギやらの肉を解体して料理として提供するサービスをしている。そのため値段が安く大量に食べられる。
宿屋側は解体する作業が手間なだけで実質材料費ゼロで商売ができるためウインウインの関係というやつなのだ。
「いくら食べても問題なし。」
「よくないよ。そんなことしたら太るよ。」
「そ、そんなこと……」
つい顔を挙げそうになって再び料理に集中する。
だってここで顔を上げたら間違いなくまた反応をみてからかわれそうだし。
やけ食いするしか僕に道はないのだ。
シチュー、パン、豪快に焼かれたウルフ肉、適度に焦げ目のついたコカトリスの肉の入ったグラタン。それらをひっつかんでは口に入れる。
パンをシチューに侵けて、もさもさと咀嚼して、水で流し込む。
それがすんだら今度は骨付きウルフ肉にがっついて、同時にグラタンも口に放り込む。こんな下品に食事をしていてもしっかりと味が分かってまろやかだったり、ジューシーだったりするから流石だ。
「はむ、んぐ、あむ」
「食べ過ぎだって」
「はむ、あむ」
「フィーちゃん。」
「!?」
がっついていた所を両頬を掴まれて顔を上げられる。
ち、近い。それに食事に集中しすぎて気づかなかったけど、皆こっち見てる。
「いくよ。フィーちゃん」
そういうとヨナはテーブルにお金を置いて席を立った。
ガシッと腕をホールドされて、そのまま歩き出した。
「ぅあ」
足がプランプランしたまま宿屋から連れ出されそのまま連行される。
扉が閉まった瞬間に宿屋がワっと騒がしくなったような気がするけど気のせいだよね?
本編と全く関係ないです。
独り言として読み飛ばしていただいて結構です。
「影の実力者のアニメまじおもろい最高。何処かのありふれとか蜘蛛みたいにならんくてよかった。うん」