吸血鬼の天敵?
「……」
とある事情で体が動かず声も出ない僕。
ヤバいヤバいヤバい。このままだと死ぬ! マジで死んじゃう。
主に精神的に!
――――――
時はちょっとだけ遡る。
ヨナからちょっぴり血を貰い、軽い興奮状態にあった僕は日々溜まっていた戦闘欲求の赴くままに、夜の草原を疾走していた。
「っふ」
襲い掛かってくるウルフの群れを『デュアルブラッド』で切り刻み、偶然見つけた洞穴のゴブリンの巣に『血剣』を打ち込んだり、デュアルブラッドで岩を裂いたりとそれはもうはっちゃけた。
『吸血鬼化』と『血を操りし者』の二つを同時展開させて文字通り全力をだして草原を無双し、鍛錬して、駆け回っていたところに唐突にそれが現れた。
にゅるにゅる、という擬音が一番わかりやすい魔物。
バジリスク。そう僕が唯一苦手としている蛇の魔物。
うん。ビビるんだよ。蛇はもう生理的と本能レベルに苦手なんだって。うん。
余りの驚きに声もでないまま硬直しました。
以下。文頭に戻る。
蛇がだんだん近づいてくる。
得物を狙う様にひっそりと身を潜ませて。
草木を揺らすがさがさという音がまるで僕への死のカウントダウンを鳴らしているようだ。
無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理!
無理ぃ!!
ち、小さい蛇でも無理なのになんでこんなでかいのさ。
下方から見つめられるならまだしも上方から睥睨されたら硬直するに決まってるじゃん!
こ、こんなの生殺しだって。
うぅ。射殺すような目が怖い。
あの目の奥で光る縦の黒目がこちらを向くだけで背中に悪寒が走る。
やばい、これ死ぬ、ショック死する。
さっきから脳内で警鐘が収まらないし、冷や汗でお気に入りの服がビショビショ。
蛇に触れるなんて天地がひっくり返ってもごめんなのに今まさにそれが起ころうとしてる。
身体に動けと信号を送っても蛇の目を見ると力が抜けちゃう。
ああ。僕はここで死ぬのか。
走馬灯が流れていく、異世界に転生してから今日までの事が鮮明に頭の中で浮かび上がっては消えていく。死ぬとわかっていても本能的に目をつぶってその時を待った。
ブシュッ。と何かをつぶす音がした。
「……なにしてるんですか?」
あれぇ?
「……」
目を開くとそこには怪訝な顔をして僕を見つめるヨナの姿が。
さっと視線をそらして誤魔かす。
視線をそらした僕の前に蛇の顔があった。
「うきゃあ」
「……」
辺りの静寂とヨナの沈黙が辛い。
「あ、えっとその」
「っぷ」
「はっはははは」
噴き出したかと思うと涙目で笑うヨナ。
「……そんなに笑うこと?」
「いや、すみません。うん。フィーさんにも弱点あるんだなって」
「うー」
苦手なだけであって弱点じゃないし!?
「フィーさん、いやフィーちゃんてさ、今のボクから見ても強さが別格だからなんでもドンとこいな完璧な人なのかと思ってたよ」
「むー」
「まあまあ、わかってるよ。年上だからカッコつけたいってことぐらい」
「違う」
「そんなふくれっ面で言われても説得力ないですよ?」
「むぐぐ」
「フィーちゃんが思ってたよりも子供っぽいところもあるんだなって驚いただけだから」
「子供じゃないし……」
必死に抗議する僕をあしらうように笑うヨナ。
うー。僕より年下のはずなのに!お姉ちゃんなはずなのに!
「子供だって」
「むー」
その後、ヨナが冒険者に噂を広めたことで蛇の人形を造形して僕を誘拐しようとする輩が出てヨナが止める事件が多発したとかしなかったとか。
記憶が曖昧なのは気絶してたからとかじゃないから。
昇天してたとかじゃないから!
ホントだから! 信じて。
……信じろ!
次回『吸血鬼』がヤバイ事します。
そしてなんか凄い事が判明します(語彙力劣化)
賛否両論あるかもしれませんが気づいたらああなってました。
あ、出来たらブクマや評価(★)等、してくれると作者が泣いて喜びます。(たぶん)
してくれると、ひょっとしたら吸血鬼が活発に活動《執筆》する…… かも?