魔物討伐の日々と戦闘欲求
ヨナに出会ってから既に一年が経とうとしている。
未だ、ソフィー達と再会は果たせていない。
草原を抜けてずーっと直進した方面に『禁忌の森』はあるらしいんだけど、なにぶん距離が長い。移動している間にソフィー達とすれ違いになってしまったら再開がもっと遅れてしまう。
かといって僕の飛ばされた場所が伝わっていないためソフィー達もそう簡単には見つけれないはず。
手詰まり状態で最奥に位置する村にとどまっているわけだけど、
「うおおお! はっ! せい!」
目にも止まらぬ高速パンチを首をひねったり後方に下がったりして躱しつつ、回し蹴りには『デュアルブラッド』で受け止める。
が、勢いを止められずに剣が手から離れた。
そこに回転しての逆足でのかかと落とし。
それを前回りの要領で回避。
振り向くとヨナの足が当たった箇所から蜘蛛の巣上に地割れが発生していた。
「ふへー」
「……」
手で汗を拭うヨナ。
それをジト目で見つめる僕。
うん。怖い。
成長早!
なんか僕との模擬線と実践だけで拳を極めちゃったよこの子。
おかしいなあ。僕がここまでの武芸を身に着けるのには10年はかかったのになぁ。
ヨナが逸材なのか僕が才能ないのかは判断材料が少なすぎて判断に困るところ。
当初は剣を教えてたんだけど、どうもうまくいかずに悩んでいた所を拳に変えてみたら、まあやばい。
ステータスで見てもBに届きそうな勢いで成長しちゃってる。それどころか木や建造物があれば飛び跳ねて四方八方から攻撃とかも将来できるようになっちゃいそう。
最初はギルド所有の訓練場を介して行っていた戦闘訓練も危険すぎて草原でやってるし。
「依頼」
「うん。そうだね。」
朝のルーティーンを終えた僕たちは宿を後にしてギルドに向かう。
扉をくぐると視線が集まってくる。
それは尊敬だったり羨望だったり、下品な目の奴もいたので魔力波を軽く発してビビらせつつクエストボートを確認する。
「オーガか。珍しいね」
「そだね」
長く一緒にいすぎたせいか割とコミュ力が改善された。
ヨナに対してだけだけどね。
僕達の話に聞き耳を立てていた冒険者たちがわっと騒がしくなる。
といってもその内容はろくでもないもので僕とヨナが依頼をこなせるかどうかの賭けをしようというもの。
一度はヨナが止めたんだけど、懲りずにまだ続けているらしい。
え? 僕が止めればいいだろって? コミュ障に他人に話しかけろと?
デッキがいくらあっても実現不可能な無理難題をいわないでください。
「フィーさん!」
まあ、有名になってしまうのは仕方ないことなんだけど。
一か所にとどまっているわけだし、目に見えて成長しているヨナと、んでもってそれに対応できている僕の強さにギルドの連中から一目置かれるようになってきてるし。
パーティー名なんてないのに影で『青と赤の戦姫』なんてうわさまで流れる始末。全く。誰だよそんなちょっとカッコいい名前考えたの。一緒に語り合いたいよ。
魂の共鳴を感じるよ。(これが言いたかっただけ)
「ちょっと。一人で頷いてないで助けてよ。フィーさん!」
「おけー」
見た目ゴリラなオーガの巨体を前に懸命に応戦しているヨナ。
棍棒を闇雲に振り回すその姿は理性のない野獣そのもの。
青色の皮膚にどうやったら茶色の毛が生えるのかちょっと気になるけどそこはたぶん気にしてもしょうがない。
このゴリラオーガ。特殊型でゴリラの癖に『再生』もちというとんでも個体で何人も冒険者が犠牲になってるらしい。
にも関わらずヨナが使っている拳あてやらメイルやらはそれらしい傷はない。
末恐ろしい。
まあ、それでも今のヨナ一人じゃこのゴリラは倒せない。
半端な傷を与えても『再生』で回復されちゃうからね。
それに加えて武闘家のような感じの戦闘スタイルは間合いが狭いから相手の懐に潜り込まなければなかなか致命傷が与えられない。
通常のオーガならスピードで屠れるんだけど、攻撃した傍から回復されちゃってどうしようもないみたい。
助太刀助太刀っと。
ささっとブラッドナイフで手を傷つけて跳躍。
『吸血鬼化』からの~
『エリュトロン』
血だまりから出現した赤褐色の大剣を天に掲げて真っ直ぐに振り下ろす。
「ぐごおおお!」
咄嗟に棍棒でガードしたらしいゴリラオーガの巨体を豆腐みたいに易々と両断する。
「んー。弱い」
「フィーちゃんが強すぎるだけだって」
そんなこと言っても弱いものは弱いしなー。
「マンティコアより弱い」
「いや、それ伝説に語り継がれるような災厄の魔物ですしね? フィーさんは基準がおかしいんだよ」
あー。つまんないわー。
戦うのが弱い魔物ばっかで最近戦闘が作業になってきている気がする。
ヨナの成長には目を見張るものがあるんだけど、戦闘欲求が収まらない。
僕って思ったより戦闘狂?
うーーん。いやしばらく全力を出して戦ってないから自分の力が衰えてないか心配なだけなはず。
断じて、だ・ん・じ・てノクスみたいな戦闘バカではないのだ。