閑話 魔法を使いたい吸血鬼
はい皆さんこんばんは。
最近は平和な日々で嬉しいもののちょっと刺激が足りないクローフィーです。
嘘です。刺激が足りないというよりも生活が楽すぎて逆に暇なんです。
で、せっかく暇なのだから暇なうちにこれからの生活を豊かにすることでもしておこうと思いまして。
即ち、魔法を覚えたい。
幾何学的な紋様から放たれる黒い炎や紅の瞳を爛爛と輝かせ発動する絶対遵守の力のようなものが欲しいのです。
裁きの血剣や破滅の血剣、それに現在開発中の死の血剣もいいのだけどやっぱり厨二の代名詞的である邪眼や魔法陣が使えるなら使ってみたい。
僕の瞳は元々赤いから輝いたら完全に能力発動できそうだし。
邪眼と言えば石化、歪曲、魔法無効可領域、麻痺、魔力吸収、時間停止、地獄の業火、。etc
うん。いくらでも思いつく。
『血液創造』で自分の瞳に能力を付けようとしたこともあったんだけど、念じるだけで何も起こらなかったし。
思うに『血液創造』の権能は現実に干渉するもので、自らのスキルを生み出したりするような体の内部で起こることは不可能、なのかもしれない。
かもしれない。というのは可能性を信じたいからである。
が、念じてもなにも起こらないのが現状なので、『禁忌の森』にいた頃からの悲願であった『魔法』ついて誰かに聞いてみよう大作戦を実行しようと決意し、ソフィーと惰眠を貪りたい欲求を抑え、ギルマスの部屋に馳せ参じたのである。
アポなしでね。
「クローフィーさん? 仮にもここはギルマスの部屋です。遊びに来たよ〜んみたいた軽いノリで来ないで下さい。あのアンポンタンにもこなしてもらう仕事がありますので」
実家に帰るようなスムーズさで扉を開いてソファで寝転んだ僕に秘書さんが苦言を呈してくる。
最初の頃は恐れ多くてこんなことはできなかったんだけれど、フシギダネ。
人は慣れると案外堂々としてしまうのである。
僕が全く態度を変えることがないのを見て、秘書さんは嘆息しているけれど、こういうのは気にしたら負けだと思う。
だってだってここのソフャー寝心地いいんだもん。
しょうがないんだもん。
ここ睡眠同好会を開いた時の僕の定位置だもん。
あと、今回来た目的は別にあるし。
「まあまあそう固いこと言うなよアレンちゃん。俺も今ちょうど暇してたしさ?」
「まだ昨日の依頼のランク設定終わってないだろ。仕事しろしばくぞ」
既に見慣れたギルマスと秘書さんのやり取りに実家のような安心感を感じながら、注文をする。
「ホットココア一つで」
「クローフィーさん。ここは喫茶店じゃないんですよ。一応客だから敬ってはいますけど、早いところお帰りになりやがれ」
え、でもここに置いてあるお茶菓子おいしいものが揃ってるじゃん。
睡眠同好会の活動を始める前に眠りの促進剤として、よくお茶会も開いてるのに。
さてはギルマス。僕らがここでお茶会開いてること秘書さんに隠してるな?
ん。待てよ。ギルマスがわざわざ秘書さんにお茶会パーティーを内緒にしていると言うことはあのお茶菓子はひょっとしてひょっとするとひょとしなくても?
「お客様用のお茶菓子がなくなっているのはそういうことだったんですね」
「な、なんのことかなー」
秘書さんのジト目がギルマスを突き刺す。
ギルマスは頭をかきながら目を泳がせている。
あちゃー。うん。図らずも墓穴を掘ってしまったみたいだ。
またお茶会ができなくなるのは困るし、ここはギルマスに助け舟を出しておこうかな?
……いや、やっぱ無理。
ギルマスを上手くサポートする言葉がなにも思いつかない。
まあギルマスの自業自得って事で。
でも定期的にお茶会は開かれるように祈っておこう。
「はあ。とりあえずこれから先2ヶ月の給料から引いておくので勘弁しておきます。が、今度やったらあなたの枕を没収します」
「そ、それだけは勘弁してくださいよ、アレンちゃん。いや、アレンさん。この通り、まじ反省してるから」
秘書さんの枕没収宣言を聞いたギルマスが血相を変え、机に頭をめり込ませる勢いで反省の意を露わにする。
わかる。枕が急に変わると寝心地もそれに比例して変わってくるし、特にギルマスの枕は地球の枕業界もびっくりのその道の職人に特注した地球の低反発枕にも負けない至高の一品で、生地だって(以下略)
だから枕がなくなるとほんっとうに辛いのだ。
その後、ギルマスの必死の交渉(土下座)の末、月に2回までお茶会ができるようになった。
けど、2回の規定値を超えたら枕没収の刑は変わらなかった。
ギルマスは涙を蓄えた瞳を手で強引に拭った後、毅然とした表情で
「すまん。お茶会は月に2回までになった。俺からもソフィーに謝るから許してくれ」
そう謝礼してきた。
けど大丈夫だ。
かなり難航はするだろうけれど枕を人質に取られたことを話せば、きっとソフィーだって分かってくれる。
それから、ギルマスが忙しなく仕事をこなす姿を見ていたけど、途中で寝落ち。
気がついた時には窓から茜色の光が差し込んでいた。
そろそろ夜が近いから眠らなきゃいけない。
え? 吸血鬼ならふつう逆だろって?
いや、前にも言ったけど、夜は五感や身体能力が高くなる分、吸血衝動や戦闘欲求まで高まる、溢れるぅ。のヤサイ人状態になるから眠るって決めてるんだって。
昼寝と合わせたら合計14時間睡眠になるけど、そこはもう気にしたら負けなんだって。
「で、結局なんの用だったんだ? 睡眠同好会の二十一条をついに思いついたのか?」
仕事を終えたギルマスとソファで向かい合わせになる。
中央の机を挟んで互いに起きた状態で喋るのは久しぶりの事である。
いや、久しぶりどころか初めての事かもしれない。
普段、ギルマスも僕も寝てばかりだから。
「違う。今日はもっと真面目な話」
そんなわけでカクカクしかじか。
ここに来た本当の目的をギルマスに告げる。
そうして始まったのはギルマス主催。生徒僕一人の個人魔法勉強会。
「まずクローフィー君。君は魔法についてどの程度まで理解しているのかね」
ギルマスが得意げな顔で、謎の先生ムーブを吹かせながらそう聞いてくる。
とてもウザイ殴りたい。
普段僕がごろ寝しながら過ごしていることへの報復のつもりなのかもしれないが、それを加味してもこれはウザイ。
こんな奴に聞かなきゃいけないのは癪ではあるけれど、無念。
コミュ障の僕にはここに来てできた友達がこいつしかいないのである。
「んー。なんか派手でドカーンとしてて頭の中でそうなれと念じたらそう在る、みたいな?」
「ごめん。ちょっと何言ってるか分からないわ」
「いや分からないから訊いてるんだけど…… 殴るよ?」
至極真面目に返答したのにギルマスに失笑で返された。
眠りの事については素直に尊敬できるんけど起きているとこうしていつも軽口を叩き合っている。
なぜ僕にはドラゴンやこいつみたいな喧嘩友達みたいな友人しかいないんだ。
解せぬ。
「ううむ。それならば魔法オンチのクローフィー君にも分かるように説明しよう。基礎的な所から説明するとだな……」
そうして始まるギルマスの魔法講座。
それを纏めるとこう。
魔法とは魔力を持つものが任意で発動できる超常的な力である。
この世界に住む人のほとんどは多かれ少なかれ魔力を持っている。
で、魔力を持っていれば誰でもなにかしらの魔法を使える。
どんな魔法を使えるかは本人のイメージや性格、種族に左右されるらしい。
稀にイメージのみで五属性魔法をすべて使える人もいるらしい。
特にエルフにその傾向が多かったのだとか。
普段から自然と共存してたからではないか?
と言われているらしい。
裏ワザとして『スキル』を介して魔力を通すことで魔法として発動することもできるっぽい。
これが裏ワザと呼ばれているのはスキルを持っているか否かが才能の領域で、要はそもそもスキル所持者が少ないため、らしい。
けど、多分僕の『血剣』は恐らく後者の方。
で、そうなると僕にも『スキル』以外の何らかの固有の魔力があるのでは?
と思ってワクワクしていたのだけれども……
「うーむ。お前の場合だと、『血液創造』が自分の魔法として定着しちまってるんだろうな。なにかのきっかけで別に魔力が目覚める可能性はあるし、イメージがうまくいけばその可能性はあるはずなんだが…… すまんな。裏技のパターンがそもそもイレギュラーすぎて、俺にも分からん」
「邪気眼は使えるようになる?」
「ああ。シュガルとかが持ってる魔力か。あれね。確かに俺もカッコいいとは思うが、使い勝手悪いらしいぞ。目に魔力を集中させる必要があるうえに、瞬きもできない。その上、対象を一つに絞らないと強く効果が発動しないらしいぜ。冒険者やってたころにダチが俺に良く愚痴ってた」
そ、そんな全国の中二病の夢を壊す様な事を言うな!
確かに、前世のアニメや漫画でも使い勝手が悪い能力が多かったよ。
祖国に反旗を翻した数字のコードネームを持つ人や、兄に裏切られて復讐者となったとある一族の少年も、代償に悩まされていたよ!
古の時代の魔の神の王の息子も、人間じゃないというだけで仲間に疑念を持たれていたりしたよ。
でもだからこそ、カッコよくて憧れるんじゃないか。
僕はまっすぐ自分の言葉は曲げねぇ、ぞ!
魔力が目覚めるならば、絶対、ぜっっっっったいに!
邪気眼系にして見せる!
ところで、邪気眼系の魔力ってどうやったら目覚めますか?
これにて2章の話は全部おしまいです。
ちなみにこの回はなろうオリジナルだったりする。
3章は短めです。